フルール・ダンテルディ

管理人の日常から萌えまで、風の吹くまま気の向くまま

『遠い伝言―message―』 17

2008年11月24日 | BL小説「遠い伝言―message―」
注意!!これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。


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 族長の屋敷に戻ると、夫人が彼らを出迎えた。
「お帰りなさい。お昼の用意はしてありますけれど、先に砂を落とした方がよろしいわ」
「…族長殿は?」
「村会議に行っております。何かご用事でも?」
「いえ、出かけておられるならいいんです」
 ふたりは砂まみれの体を洗い、軽い食事をとって部屋に戻った。
 まだ濡れている髪を縛っていたひもを解き、タオルで拭き直すエドに、テスは「わたしがやってやる」と言い出した。ベッドに腰かけたエドの後ろにまわり、ひと房ひと房丁寧に水気を取りながら、彼は「金髪の羊がいたら、こんな感じかな」と笑った。「せめて巻き毛の麦の穂と言ってくれよ」とエドは苦笑を返した。
「……テス、昨日聞きそびれたけど」
「なんだ?」
「族長殿と、話はできたのか?」
「……ああ。…予想通りの答えだったがな」
「君の、体のこと?」
「ああ。こうなったのと同じ早さで元に戻すことはできない。再び齢をとるには……一族に与えられた条件と同じだろうと」
 テスの声には落胆も、苦悩も含まれなかった。
「それって……」
 エドは少し頬を熱くして口ごもった。
「本当に心から愛しあうってこと?」
「ああ」
 テスの手が髪から離れ、彼はエドの横に座った。
「……いつか、俺たちそうなれるかな……?」
「…お前は、わたしが大人の姿の方がいいか?」
 真剣な目で問われ、エドは考えてから答えた。
「俺が好きになったのは今の君だから、昔の君がいいとか比較はできないよ。君が苦しむのがいやだから、元に戻れるものならその方がいいとは思うけど……戻ろうと思って戻れるものじゃないんだから、焦ることはないよ。もちろん、君を変える男になりたいとは思っているけれど」
「族長は、体質によっては変化を経験しないまま一生を終える者もいれば、たとえ相手とどれほど心が通じていようが、変化できない者もいると言っていた。世間で信じられているほど、一族の体質は確実なものではないとも……。だとすれば、わたしも一生この姿のままかもしれない」
 テスはエドを見上げた。睦言というにはあまりにも真剣な表情で。
「それでも、いいか?」
「いいよ、テス」
 エドは彼の背に腕をまわした。
「君が好きだ。君がいくつでも、どんな姿でも」
 軽く、テスの唇をついばむ。
「……わたしもだ、エドワード……I love you……」
 エドが驚いてまじまじと見つめると、テスは頬を染めた。
「わたしの発音、おかしいか?」
「全然……。とてもきれいだ。嬉しいよ、テス……テリアス」
 言い直したのは、出会ってすぐにテスが「特別な場合を除いて姓を名乗る習慣はない」と言ったことを思い出したからだった。テスが今までエドを愛称以外で呼ぼうとしなかったのに、初めて今日、「エドワード」と呼んだのも、たぶん同じような意味なのだろう。「特別な場合」──「特別な関係」になったという。
 テスは自ら服を脱ぎ始めた。エドもすべて脱ぎ捨て、彼らはベッドに横たわって抱き合った。乾いた素肌が触れ合う心地良さに、どちらからともなく甘いため息が洩れる。
「……不思議だな。旅の間に川とかで一緒に水浴びして、君の裸は何度も見ているのに、今日ばかりはすごくどきどきして…興奮してる」
「…わたしはいつも、お前の視線が気になって仕方なかったぞ。お前はわたしのことをこどもだと思って、遠慮なしに見ていただろう」
 胸にテスの息がかかってくすぐったかったが、エドのそれが硬度を増したのはそのせいではなかった。
「…そんな前から俺のこと意識してた?」
「ばか。そういう意味じゃ……」
 エドを振り仰いで抗議しかけたテスは、口をつぐんで彼の胸に顔を伏せた。
「……そうかもしれない。最初にお前が気を失っているのを見つけたとき、こんなに優しくて強くて、きれいな気の人間は見たことがないと思った。お前が目覚めて、わたしを見上げたとき……お前がとても……きれいな金の髪と薄い色の瞳をしているのに気づいた……」
「その割には、ずいぶん乱暴な起こし方だったよ」
 エドは嬉しくて、テスをぎゅっと抱きしめた。
「仕方ないだろう。お前に直に触れるのが怖かったんだ」
 くぐもった返事が胸の中から返った。
「お前の気に触れてしまったら、自分がどうかなってしまいそうな気がしたんだ……」
「……!」
 小さな音をたてて胸に触れた感触に、エドは息を呑んだ。彼の胸に口づけたテスは、そのまま舌を這わせ、場所を移してまた肌を吸ってキスをする。
「テ…ス……」
 腕が緩むとテスは体を起こし、エドを仰向けに押し倒した上に乗った。
「テ……」
「じっとしていろ」
 テスはエドの胸に跡を残しながら唇を滑らせ、てのひらで彼の肌をたどっていく。テスの幼い姿とは裏腹の行為に、エドは背徳的な快感を覚えて思わず目を閉じた。だが、
「テス…!だめだ」
 自分のそれが濡れたものに包まれるのを感じて、エドは飛び起きた。彼のものを口に含んだテスの顔を上げさせる。テスは眉をひそめた。
「…お前がさっきしたことではないか」
「だめだよ。俺は君には…誰にも跪いてほしくないんだ。たとえ俺に対しても。君のお父上は除いてね」
 こちらでも同じ意味を持つのかどうかわからなかったが、エドは崇拝の気持ちをこめてテスの手をとり甲に接吻した。ところが、その手を逆にテスに摑まれ、手首にキスをされた。
「……では、お前が跪くのはわたしにだけだ」
 テスに引き寄せられるまま、エドは口づけて横たわった彼の上に体を重ねた。
 テスの髪の先から爪先まであますところなく触れ、舐めて、吸い上げる。「声を聞きたい」と言うとテスは、噛み殺していた声を手で塞ぐのをやめた。我慢できずに上げた彼の喘ぎは、エドの欲望をたまらなく刺激した。
 うつぶせた背筋を舐め上げると、背中が波打った。その下へと視線を動かすと、細く引き締まった彼の体の中で、頬のほかには唯一柔らかな線を描く、白い2つの丘がある。その間の深い影の奥に、さきほどは触れることも見ることもしなかった場所がある。
「……テス、少し恥ずかしいことするけど、我慢して」
「……いちいち言うな……っ」
 かすれた声で返されて、エドは笑みを洩らした。テスの片膝を曲げさせて、谷間を空気にさらさせる。左手の中指を口に入れて湿らせ、それだけでは足りないかと自分のものの先端のぬめりを指先に塗りつけた。
 くぼんだそこに指で触れても、テスは一度肩を揺らしただけで、枕に顔を埋めてじっとしていた。
 ゆっくりと、引くことなくテスの中へ指を挿し入れていく。痛みを与えないように、抵抗する壁を無理に開かず、呑み込むのを待ちながら。
 最初の関門をくぐると、急に指先に伝わる抵抗がなくなった。エドは驚いて動きを止めた。
「……エド……?」
 いつまでも動かないエドに、テスが困惑した声で呼びかける。
「……こんなに」
 エドは怯えたようにテスを見た。
「こんなに柔らかいなんて、思わなかった。ふわふわで、毛足の長い絨緞に包まれているみたいで……下手なことをしたら傷つけてしまいそうで……怖い」
「……」
「君がだんだん慣れてくれたら、それとも成長したら、ここに、俺のを入れて、1つに繋がりたいと思っていたけれど、指どころか……俺のなんか入れたら、ひどいけがをさせてしまいそうだ……」
「……エド」
 体をひねった苦しい姿勢で、テスは精一杯振り返ってエドの腕に触れた。
「わたしも、そうしたいと思っている。そんなに怖がらなくていい。それほど人の体というのは繊細じゃない」
 彼は笑おうとして、あ、と声を上げて枕に突っ伏した。エドはその理由を自分の指に与えられた強い締めつけで知った。慌てて抜こうとしたが抵抗に躊躇する。
「……抜かなくていい…!……大丈夫……初めてじゃないからコツはわかっている。もっと……奥まで……」
 テスは不自由な体勢でエドの手首を?み、導いた。
 エドの指をぴったりと押し包んでいる柔らかな粘膜は、まるで喉が食物を嚥下するように指を奥へと呑み込んでいく。途中で狭い場所があったが、そこに道を作るとあとは難なく付け根まで入った。
 テスは手を離し、緊張を解いて大きく息を吐いた。
「…テス、大丈夫?」
「平気だ……」
 エドは気をつけて自分も横になり、片腕をテスの腰の下にまわして背後から抱きしめた。
「んっ……」
 テスの前をさすってやりながら、指を少しだけ抜き差しする。それだけでも自分の無骨な指が入口に強い摩擦を与えているのを感じて、慎重にならざるを得ない。
 乱れるテスの息づかいに、エドの息も荒くなる。
「……いい、エド……っ」
 腕の中で、若木のような体がしなり、彼の胸に後頭部を押しつけた。なのに、後ろを犯している手を、テスは止めさせた。
「テス?」
「やっぱり……お前のが欲しい……」
 目元を手で隠し、テスはせっぱつまった泣きそうな声で言った。
「……でも、テス……」
「香油を塗れば……」
 香油は、いわゆるハーブオイルのようなものだ。もちろんマッサージや芳香剤にも使うが、こちらでは主に冬に体が濡れて冷えるのを防ぐために漁師が体に塗ったり、沙漠を旅するときに肌の乾燥を防ぐために使われている。実際エドも、ここへ来る旅で、肌が乾燥に慣れるまでの最初の2、3日、頬の皮膚がぼろぼろに剥けてしまったので塗っていた。
「レジーとも……いつも使っていたから……」
「それでも体が小さい分、きついかもしれないよ?」
 答えながらも、エドはこの柔らかいテスの中に自分を打ち込みたい欲望が膨らんでいくのを自覚していた。それはたぶん、テスも感じているだろう。
「……痛くてもいい……」
 テスの声も、欲望にうわずっていた。
「お願いだ……」
 これ以上、エドも自制を続けることはできなかった。
 瓶の香油を自分のものに塗り、テスの入口の壁にも塗りつける。先程と同じ横向きの姿勢がいちばん楽だろうと、折り曲げさせた彼の脚に自分の脚を添えて、腰を引き寄せた。
 テスの狭い器官は、油の助けでエドのものを受け入れていった。さすがに指のときよりも時間がかかった上に、テスが痛みを訴えるときにはエドも苦痛を味わわなければならなかった。
 体勢的にすべてというわけはなかったが、ふたりの腰が密着するぐらい奥までエドのものは収まった。
「痛くない?」
「ああ……」
 テスの中は、呼吸やちょっとした拍子に微妙に締めつけてきて、女性とは全く違う快感をエドにもたらした。激しい動きは無理そうだったし、そんなことをしなくても十分に悦かったので、軽く突きながら揺さぶるだけにする。
「うん……んっ、んっ…」
 動きにあわせて、テスの喉から声が押し出される。
「テス……すごくいいよ……」
「……わ…たしも……っ、だめだ、もう……!」
 かつて体験したことのない強烈な締めつけがエドを襲った。血が止まるんじゃないかと思うくらい強すぎて、快感を通り越して最初は痛みしかわからなかった。収縮の波が何度か訪れて、悲鳴を押し殺したらしいテスの長い呻きが聞こえ、彼が自分に貫かれながらいったのだと実感した。
 外に押し出そうと痙攣する動きとは逆に、内部はエドのものに隙間なく吸いついて離れない。抜き出そうとしてそのことに気づいたときには、テスの抗議が上がっていた。
「動くな…!……力を緩められないんだ。抜かなくていいから、そのまま続けてくれ……」
「……だけど、つらそうだよ」
 エドはテスの濡れたまつげを指でぬぐった。
「無理に抜かれる方が痛い。じきにおさまるから、心配するな」
 言葉とは裏腹に、絶頂の余韻に震えてうわずった声で気丈に答えるテスがけなげでいとおしくて、力一杯抱きしめて口づけたかったが、どちらもできなかったので、まわした腕に力をこめた。
「……エド、続けてかまわないんだぞ?」
 テスが囁く。
「ああ。…でもその前に、君の顔を見て、キスをしたい」
 テスは、自分の腹にあてられたエドの手に、自分の手を重ねた。
「わたしもだ……」
 テスが少し落ちついてから一旦体を離し、仰向いたテスの中に、エドは再び押し入った。
「ああ……エド……」
 体を倒したエドの髪が、テスの顔にかかる。ふたりは互いの背に腕をまわし、情熱的なキスを交わした。身長差のせいで、そのままでは動けないので、仕方なく口づけを解いてテスを胸に抱きこむようにした。
 小刻みに腰を入れ、時に円を描き、テスの快感と同時に自分の快楽を追う。エドの胸にテスの熱い息が当たっていた。それに泣いているような声が交じり、ふたりの間で押し潰されていたテスのものも、硬さを取り戻す。
 エドが欲望の階をのぼりつめるまでに、長くはかからなかった。その兆しを感じて奥を突いたところで動きを止め、テスの深いところに欲望を解放する。自分の精を受け入れてもらった満足感が体を満たしていくとき、テスも達し、なおも絞り出されるようにすべてを放出し尽くした。テスは、胸の下で泣いていた。
「……つらかった?」
「そう…じゃないことぐらい、わかれよ……っ」
 テスは両手で顔を覆って激しく泣き出した。おろおろとエドは彼を胸に抱きしめて、泣き止むのを待った。
 やがて、静かになった胸の中からテスの声が聞こえてきた。
「……離してくれ」
 わかった、とエドは体を起こして、慎重にテスの中から自身を抜き出し、毛布を引き上げて彼の横に寝転んだ。手だけは彼の腕に触れさせて。
「……都に戻ったら」
 テスは寝返りをうってエドに体を寄せ、彼の胸にてのひらを乗せた。
「レジオンにはすべてを話すつもりだ。お前を愛していること……お前と寝たことも」
「テス……」
「彼に隠しておくのは、卑怯だ。わたしは彼に、もう隠しごとはしない」
 テスのてのひらから、切ないほどの幸福感と、哀しみと不安、そして静かな決意が伝わってくる。どうして彼は哀しいのだろう、とエドは思った。さっきも──彼が愛を告げたときも、喜びよりも哀しみを表した。不安ならばエドにもある。この先後悔しないとは言えない。いやきっと、後悔するだろう。けれど向こうに戻ったところで、死ぬほど後悔するだろう。こんなにも愛した人を、愛してくれた人を置いてきたことを。愛する人もなく、自分の夢をかなえたところで、いったいそれに何の意味があるだろう?
「ああ。きっとその方がいいよ。……お父上がおっしゃってくださったように、王家を離れるつもりなのか?」
「……」
 手をそっと離し、テスは仰向けになって天井を見つめた。
「……最初、必ず戻ってこいとおっしゃっていた陛下が、最後には戻るか戻らないか選んでもよいと言われた。戻らないというのは、都や王家に戻らないというだけの意味じゃない……。わたしが……お前について行く…お前の世界へ行くという選択肢もあるということだ」
 エドは驚いてテスの横顔を見つめた。そんなことは一度も思いつかなかった。一瞬その選択もあったか、と興奮しかけたが、すぐにその困難さに思い至った。
「だがそれはできない」
 エドが口を開く前に、テスが冷徹に言った。
「お前の話を聞いて断片的にだが多少は、お前の世界がここより技術も知識も制度も進んでいることは理解しているつもりだ。我々の世界には、少数でしかないネルヴァ族やお前のような存在を受け入れる余地がある。悪く言えば何もかもまだまだいいかげんだから、わたしのようなこどもが各国を渡り歩き、金を稼いで生きていくこともできるし、野盗が勝手に住みつくこともできる。しかし、お前の世界では、いつまでもこどもの姿のままの人間や、どこで生まれたどういう人間なのか証明できない人間は存在を許されない。違うか?」
「……いや」
 国籍はともかく、齢をとらないのはごまかしきれない。一生アメリカ中を転々としなければならないだろう。
「陛下はご存知でなかったからそう仰せられたのだろう。そうでもしない限りわたしが……」
「テス?」
 テスはその先を言わなかった。言いたくないことを言わせる気はなかったし、テスも言わないとわかっていたので、エドは追求しなかった。それに、疲れのせいで強烈な眠気を感じて意識が朦朧とし始めていた。エドは、そのまま眠りに引き込まれてしまった。

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