こっちゃんと映画をみまちょ♪

レビューと呼ぶほど中身なし。しかし中身が無いのも中身のウチよのぅ。・・・なんちって。

県庁の星 (2006)

2006年02月16日 | しびれるMovie
こっちゃんポイント ★★★★★
鑑賞環境  試写会 
上映時間 131分
製作国 日本
公開情報 劇場公開 (東宝)
初公開年月 2006/02/25
ジャンル ドラマ/コメディ

野村聡(織田裕二)はK県庁のキャリア公務員。「政治は人の上に人を作り、人の下に人を作る」を信条に成績もプライドも高く、業務にもそつがない強い上昇志向を持つ男。婚約者も地元大手建設会社の令嬢。今後は「特別養護老人施設建設」のビッグプロジェクトを足がかりに、更なるステップアップを狙っている。そのプロジェクトを前に、県政の目玉である民間企業との人事交流研修のメンバーに選出され得意満面。ところが、研修先は店員達のやる気がなく、客もまばらなしなびたスーパー「満天堂」。しかも、野村の教育係・二宮あき(柴咲コウ)は自分より年下のパート店員だった。それでも出世のためと意気込む野村だったが…。 

(goo映画より抜粋) 

「接客マニュアルを見せてもらえますか?」   
「はぁ?そんなモノありませんけど」
「じゃあ組織図を」  
「そんなモノなくたって回って行きますから、民・間・わッ!」

こんなやり取りが、やたらめったらオッカシィ。

まったく「お役所」と「民間」の感覚の間には、双方のカン違いや思い込みによってまるで大きな大きな川が流れているようでもあります。役人は対岸の民間意見を聞こうとしない。そのくせ岸の向こうから「あーだこーだ」と口出ししては、民意を押し倒し、ねじ伏せ、無理矢理考えを通す。そう、彼ら役人たちが信ずるものは自ら作ったマニュアルのみ。おかしなおかしな”しがらみ”に縛られた哀れな奴隷なのかも・・・。

こんなコトを平気で言えるのは、もちろん、こっちゃんが「お役所」の人間ではないから。

この映画は「役人たちよ、目を覚ませ!そして正しい心によって真の改革をせよ!」と大声で訴えかけるような作品でもありました。そして一般庶民の側であるこっちゃんにも微かな希望を与えてくれる映画でありましたよ。

 

まあ、これは予想通りに面白かった!というのが率直な感想。他にもこの映画に期待している人が多数いらっしゃるかと思いますが、期待した分だけ十分ハネ返って来る映画でもありますよん。

 今までエリート街道まっしぐらで、とある県庁のキャリアまで登りつめた男の野村聡。彼にとって「挫折」など全く無縁。そんなもの今まで味わったことなどありません。全てが自分の思い通りに運んでいるバリバリのヤリ手県庁職員なんです。

全てが順風満帆!総工費200億円の福祉施設一大プロジェクトのプレゼンを任され、その手際の良さと抜かりの無さは同僚をも感心させるホド。
オレたちは資料を作れてナンボだろ?」そう彼自身が言うとおり、机の中には細かい文書一つ一つにまで対応できる自作のマニュアルがギッシリ!野村はそんな自分に酔いしれているような男でもありました。

そんなある日、彼が議員に言った「県政に民間の意見を取り入れる」という一言が耳に留まり、彼は民間企業との人事交流研修のメンバーに選ばれるコトとなってしまいます。スポーツ・ジム、ペットショップ・・・選りすぐりの7人が派遣される企業は様々。そして野村が派遣されたのは・・・・・なんと、三流スーパー「満天堂」!
チェーン店とはいうものの、そのクタビレっぷりはタダごとではありません。

駐車場には、客が使ったショッピングカートがあちっこっちに放置され、店の外壁にはまるで物置がごとくブルーシートや宣伝ノボリが立てかけられている。しかもゴミ置き場には住所不定の浮浪者の姿まで。
彼が手にした店舗パンフの表紙を飾るバビッ!っとしたイラストの建物とは、およそ似ても似つかぬお店だったのです。とにかくまずコレが笑えます。

しかもそれだけに終わりません。
中に入ったら入ったで、店内は消化しきれぬ大量在庫の山、山、山。その「在庫群」は店長室まで押し寄せる勢いではないですか!

野村はこんなトコロで半年間も研修を受けるハメになったのでした。
しかも、「キミの指導を担当する人」と店長に紹介されたのは、なんと年下の女!

「きみ・・・・バイト?」      パートですけど・・・・何か?」ってなモンですよ。

店長はダラしなく歯切れが悪い。店内の仕切りはパートのネェちゃんまかせ。調理コーナーは気の荒い兄ちゃんと、字も読めない外人だらけ・・・・って ( ̄∀ ̄*) 

店も店なら、人も人!(笑)

とにかくねぇ、この映画ってアチコチで苦笑、苦笑の連続です。ガハハハ!なんて大笑いできる感覚ではなくて、もうチョット違った楽しさですネ♪織田クンにもって来いの映画であることに違いは無いし、対する柴咲コウも、まぁこんな役やらしたら天下一品ですわ。

この織田裕二のスーツスタイルから、あの『踊る大捜査線』シリーズを連想しちゃう人もいるかもしれませんが、この映画は「踊る~」(さんま御殿じゃないよ)とはアプローチが全く違います。って言うか、むしろ逆。
「踊る~」(ポンポコリンじゃないよ)で彼は【現場側】の人間でしたもんね。しかしこの「県庁~」では彼は【役人側】からの視点に立つワケです。

「研修で民間から学ぶ」はずが、来た早々役人意識まるだしで店のレイアウトを勝手に変えちゃうわ、惣菜チームの”天ぷら二度揚げ”にダメ出しするわで、予想通りお店の人間全員と衝突しまくる。挙句には従業員用の貼り紙にまでクレームをつける始末。

この見せ方がとにかくコミカルで楽しい。それでいて下品にならず・不必要な笑いに走らずでグーなカンジ。
「学ぶ」どころかこの店を自分流に変えようとする「役人のエゴ的カン違い感覚」をチクチクと浮き彫りにして行く視点がお見事ですね。

この映画を観て「まったく役人ってこうだよなぁ~」ってうなずいちゃう人はきっと多いはず。自ら作った”カンペキなマニュアル”に従って日々の業務を非情にこなす。そんな人種がゴロゴロと登場します。そこに例外などありません。彼らの作ったマニュアルこそが、そう語っているではないですか。

県庁の高いビルから下を歩く人間を見下ろす。庶民の生活の上でアグラをかく。休憩時間には、いかにも高価そうなエスプレッソ・マシーンで落とした美味しいコーヒーを飲み談笑する。それが県民の税金でしぼり出されているコーヒーなのだと、さほど意識もせずに。
政治は人の上に人を作り、人の下に人を作る」って、ヾ(ーー )ォィォィ 
まったく、なんちゅー醜い言葉でしょうね。

しかしこの後、エリート野村は皮肉にも自分自身が信じてきたこの言葉の本当の意味を身をもって思い知ることになってしまいます。

とにかく上手いわ、フジテレビジョン

ただ笑って終わりにはしないもの。中盤からはシッカリと見せ場を作ります。
そしてラストの織田クンの発言シーンになる頃には、もう息を呑むことすら出来なくなってしまいました。おっと、またまた金縛りっ!

人生初めての挫折というものを経験してしまったエリート人間が、この三流スーパーから教わったものは、マニュアルでも、組織でも、コネでもなく、形のない「」そのもの。

そう言えば、このスーパーで彼を苗字で呼ぶ人は誰もいませんでしたねぇ。「県庁サン、県庁サン」みんながそう呼んでいました。
そっかぁ。初めから彼は「お役所の人」としてこのスーパーに迎え入れられたのですからね。そして野村本人もバリバリの役人意識。自分のやり方を押し通し、自ら望んで持ち場を周囲とカーテンで仕切ります。その上で民間意識に勝とうともしていました。考えてみれば「官と民の一体化」とは、まるで正反対の方向へ進もうとしていたのです。

でも、このカタブツのエリート職員の織田クンの顔がドンドン柔らかく変わって行くのがとっても良いんですよね~!そして最後には、県庁さん自らの手でカーテンの仕切りを取り外して行きます。
高級弁当「Aチーム」お手頃弁当「Bチーム」そこにある違いは何なのか?お客様のニーズとは一体?その答えを教えてくれたのは、なんと意外な人物。そこがまたヨロシイ。

Aプラン、Bプラン、どちらが正しい道?
やがて、たかだか1,000円以下のお弁当と、200億円の公共工事がオーバーラップしてくるなんていうのは、本当に上手いですねえ。唸っちゃいます。弁当も工事も金は金。よく考えれば同じですものね。

この映画は、役人側に対して大いに皮肉をぶつけますが、実はそれだけで終わる話ではありません。
民間側のズサンさ、ダラシなさも同時に描いて行くのです。つまり、コレは役人バッシングに終始せず、
「官」と「民」よ、「心」で一体になれ!という叫びがきっと根底にあるんですね。

そうは言ってもこんな話はキレイごと。そう思うのはいとも簡単なのですが、この映画にはそれでも捨てたくはない希望が託されているように感じます。そう自然と伝わってくるんです。
だからこそ、野村が取った勇気ある行動に素直に感動します!彼の発する言葉に胸が熱くなるんです!

「オマエ・・・なんか変ったな」

同僚の友人にそういわれたとき、彼はもう「県庁のタダ・コーヒー」を口にはしてはいませんでした。
そうは言いながらも、結局ひとりの人間なんかで長年甘い汁に溺れ続けてきた役人意識が変るほど世の中甘くない

無情にも我々は、終盤の野村の友人(佐々木蔵之介)のシーンで、そんな”現実”を思い知ることにもなりますが、当の野村本人こそが「そんな簡単には変らないさ」と知っていました。

しかし、彼が仕掛けたラストの小さな小さな「改革」...おおっと!これには思わず拍手です!
「彼」が目指す改革は今まさに、ここに小さな一歩として”呼吸”を始めました。

それはまるで固いアスファルトまでをも割り、太陽の光を浴びようと芽を出すたくましい”新芽”のようでもあります。
この小さなひ弱な芽を思わずみんなで信じ、決して踏み潰してしまうことのないようにと、そっと見守ってあげたい心境にかられてしまいました。

心に刻みたい・・・そんなラストシーンがまた一つ増える。

これはそんな映画です。

《2006.08.15記事一部改訂》

【作品】県庁の星