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殴る

2013-02-09 07:47:06 | Weblog
92歳で逝った作家、安岡章太郎さんは戦時中、病を得たために、九死に一生を得た。大学在学中に召集され、中国大陸に送られた。夏になり所属部隊は南方へ転ずる。

転戦先はレイテ島。そこで、部隊はほぼ全滅する。だが、安岡さんは部隊出発の前々日に、40度の高熱を発し入院したため置いていかれ、命拾いした。だから自伝的な戦争小説『遁走(とんそう)』が描くのは、戦闘ではない。

作家が体験した人間を使い捨ての兵器にするための兵営の日常。指導名目の暴力だ。<殴られるための正当な理由、そんなものはどこにもあるはずはない。けれども殴られた直後には、どうしたってその理由を考えずにはいられない><ところが軍隊では「考える」などということで余計な精力を浪費させないためにも、殴って殴り抜く>。

異常な世界である。しかし、そんな体質が戦後も運動部などに受け継がれ、日本人は美談にすらしているとも、安岡さんは書いていた。そんな作家の訃報を伝えた朝刊が、女子柔道の五輪代表監督の「暴力指導」も報じられたとは、何たる皮肉か。

五輪での不振を受け、全日本柔道連盟は「選手の試合中の状況判断が甘かった。監督らが教えすぎ、選手の自主的に考える力が低下した」と反省した。それでもなお、暴力を使う監督を続投させるのは「暴力が、自主性を高める」とでも思ってのことなのか。