Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

●第17回「個人主義のルーツは、ソクラテスだった!」

2007-08-03 19:55:41 | ■カルチャからの解放

○個人主義のルーツは、ソクラテスだった!
~知的西欧文化の伝統とは~

「西欧の知的文化紹介」という公開講義に出てみた。

思想史の J. Barlow博士によると、

古代アテネの哲学者「ソクラテス」(紀元前469-399年)が、個人主義や現在の西欧大学教育のルーツになっているそうだ。

ソクラテス以前の古代ギリシャ(アテネ)では、「合理主義」、特に、人間以外の世界を合理的に説明する「(人間の5感を使った)科学的経験主義」が主であった。また当時の世界(アテネ)では、若者の心の荒廃、宗教や神に対する尊敬の欠如などが問題になっていた。

ソクラテスによって初めて、人間の内部、つまりMind(人間の知性)の探求が始まった、ということです。

ソクラテスは、まず、「外部の権威に対して、懐疑的な態度」を取りはじめました。そのため、「疑問を発すること」が重要だと、主張します。
また、倫理的な問題にも思いを寄せました。知識は美徳であり、美徳は幸福を追求すること、だと言います。
少人数でのグループ議論を推奨して、単純に神や専門家の言に従ってはいけないこと、智恵の探求のため、意思決定を合理的に改善すること、つまり一人一人の内部の合理性を追求し、「自己実現を図ること」が大事だと。これが、西欧個人主義のルーツと言われています。

さて、現在の西欧の大学(院)教育は、このソクラテスの方法論を基盤にしています。

1.疑問を発する習慣をつける(疑問の専門家養成)
2.答えを自ら考える
3.回答を与えるのではなく、疑問の創出が大事
4.議論の重要性(dialogue method対話重視)
5.真理の追求(自然科学では真理。社会・人文科学では真理の記述)

少なくとも、私が勉強している大学院のクラスの指導方法は、上記の通りに行われています。

つまり、
一方通行の講義(知識の伝授)にならないように、
レクチャーの先生は、先ず最初に必ずといっていいほど、
「私が話をしている途中でも構わないから、疑問やコメントがあったら、自由に言ってください」と話します。

また、ほとんどの教授が口癖のように、以下の言葉を引用します。
 私に話してください、そうすれば私は忘れるでしょう。
 私に教えて(示して)ください、そうすればきっと覚えているでしょう。
 私を巻き込んでください、そうすれば私は理解(学ぶことが)出来るでしょう。

"Tell me and I (will) forget,
Show (teach) me and I (might) remember,
(But) involve me and I (will) understand (learn)."

まあ、中には、(私にとっては)くだらないことを聞いたりする学生もいますが、
真摯にレクチャラーは耳を傾けます。
教授ー学生間や学生ー学生間の議論を中心に、クラスを進めたがっているようです。

この方法のメリットは、教授や学生の知識・経験を共有できる。議論により、知識・経験だけでなく、異なった見方に目が開かれる。教授を含めて、知的格闘への努力が垣間見られる。つまり、評価の定まった、著名な学者の理論にも克服すべき点がありそうだ、ということが分かる。

デメリットは、知的レベルの高くない学生や事前準備のない学生たちによる疑問や議論が始まると、時間の浪費になる。さまざまなレベルの学生のニーズに答えられるものかどうかとの疑問が生じる。
つまり、
議論の基盤(知識・経験の度合い)が違うと、議論が発散してしまい、不完全燃焼になる。

課題としては、議論をファシリテートするレクチャラーの能力がモノをいう。(言えることは、レクチャラーの負担・力量は、日本的な一方通行講義と較べると、かなり大変な気がする。日本では、まず批判的意見を受け入れられる度量の広い教授がどれだけ存在するか、疑問はありますが)

とまあ、いろいろな問題点が生じるわけですが、知的伝承の方法だけしか知らなかった私としては、この議論で回るクラスの方法は、なんとなく面白く感じています。ただし前にも言ったように、あるレベル以上の人間が集まらないと、効果がないように思います。効果を別にするならば、西欧人やしゃべるのが好きな中近東や南米からの学生は、こういう議論的クラスが好きなんだろうな、と思ってしまいます。
ただし、大学(院)の最終評価は、ライティングが基本ですので、日本人は比較的優位に立てるのではないでしょうか。

さて、西欧の知的文化の歴史に戻りましょう。

ソクラテス以後の西欧思想史は、簡略して言いますと、Dr.J.Barlow博士によると、3つ(4つ)の大きな流れがあるそうです。

1.宗教(ギリシャ時代の100%合理性をもつGodと「愛」という不合理性をもつキリスト教)が、反ソクラテス、反哲学の主張を貫きます。

2.心理学の勃興(Instinct=本能を初めて説いた19世紀のニーチェとフロイド。フロイドは、性的衝動と生物学的決定論を推奨した。)

3.ポストモダニズム(反リアリストのジャック・デリダやポップカルチャー)「価値とはなあに?」の問いかけが始まる。既成価値の堕落・崩壊。

そして、21世紀の今世紀は、

4.リアリズムの復活。(2001年~)
新リアリズムの誕生。
本21世紀に、ソクラテスが戻ってきた!

で締めくくられました。

最後に、今、Dr.J.Barlow博士の推奨図書(以下のレファレンス参照)の一つを読んでいますので、この分野に関心の方は、続編を少々お待ちください。

【参考文献】
Gunnar Skirbeck & Nils Gilje(2000). A History of Western Thought : from ancient Greece to the 20th Century, London & New York : Routledge


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