許褚は当面の敵の関羽ではなく、マリリンに関心を寄せた。
胸元に抱いている陶涼をも繁々と見た。
そして独り合点し、態度を改めた。
「マリリン殿、貴男が神樹の使わした人ですね。
街中では盲目の女の子を連れ歩いているとも聞いています。
間違いないですね」
「そうです。
私を知っているのですか」
「当然です。
この徐州で貴男の噂を聞いた事のない者はいないでしょう」
「もしかして、私を見に来たの」
許褚が躊躇いもなく大きく頷いた。
「そうです。
噂通りの方かどうか」
「それで納得したの」
許褚の表情には、畏れ、戸惑い、呆れ、複雑な色があった。
「何と申せば・・・」
「いいのよ、無理して言うことないわ。
女言葉に戸惑っているのでしょう」
許褚が照れ笑い。
「女みたいに美しいとは聞いていたのですが、女言葉とまでは」
どう接していいのか分からずに困っていた。
大概の者が、「神樹の使わした者」という噂に畏れ、
美しさに戸惑い、女言葉に呆れる。
しかし誰もマリリンを侮らない。
なにしろ神樹の丘で太平道の刺客と、狩場では狼と、それぞれに戦い、
無傷で切り抜けて来た強者。
正面切って誹謗中傷する者は一人もいなかった。
マリリンは単刀直入に言う。
「許褚殿にお願いがあるの。
関羽殿との喧嘩を止めて下さい。お願いします」
許褚が丁寧に拱手をした。
「他の事なら頷けますが、それはお断りします。
ここに倒されているのは私の弟分達なのです。
弟分達の為にも引き下がれません」
マリリンはもう一押ししてみた。
「関羽殿は私同様に領主様の客人なのよ。
それでも戦うというの」
許褚の表情が引き締まった。
やおら関羽に視線を転じた。
「客人で逃げるかい」
そう問われて関羽も、「はい、そうです」とは答えられない。
苦笑い。
「それでは酔っぱらいの喧嘩を続けるか」
許褚の表情が和らいだ。
「それでこそ男よ」
マリリンも引き下がらない。
「どちらかが倒れれば終わるのね」
許褚と関羽が同時に頷いた。
侠気なんだろう。面倒臭い。
「それじゃあ、喧嘩の遣り方は私に任せてくれる。
なるだけ血は流したくないのよ」
二人は互いに顔を見合わせ、マリリンの提案に頷いた。
マリリンは野次馬の中に馴染みの顔を幾人か見つけ、
それぞれの耳に小声で注文を出した。
いずれも市場の店主ばかり。
彼等の動きは速かった。
マリリンが注文したものを次々と持って来た。
最初に運ばれて来たのは空の大きな木箱。
それが蓋された状態で、関羽と許褚の間に置かれた。
その木箱の上に注文の品々が次々と置かれた。
いずれも各居酒屋の看板の小振りな酒樽と酒の肴ばかり。
そして最後に大きな盃が二つ。
キョトンとする二人。
「どうせ倒れるなら飲み倒れがいいでしょう。
好きなだけ飲みなさい」
途端に関羽が笑う。
釣られて許褚も笑う。
文句は出ない。
さっそく互いの大盃に酒をなみなみと注ぐ。
飲む前に許褚がマリリンに問う。
「支払いは」
「私も関羽殿も浪人だから、余分なお金の持ち合わせはないの。
だから当然、領主様の支払いになるわね」
「領主様持ちか、それは良い」
許褚が機嫌良く大盃を一気に呷る。
肴を摘んでいた関羽が慌てて大盃に手を伸ばした。
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胸元に抱いている陶涼をも繁々と見た。
そして独り合点し、態度を改めた。
「マリリン殿、貴男が神樹の使わした人ですね。
街中では盲目の女の子を連れ歩いているとも聞いています。
間違いないですね」
「そうです。
私を知っているのですか」
「当然です。
この徐州で貴男の噂を聞いた事のない者はいないでしょう」
「もしかして、私を見に来たの」
許褚が躊躇いもなく大きく頷いた。
「そうです。
噂通りの方かどうか」
「それで納得したの」
許褚の表情には、畏れ、戸惑い、呆れ、複雑な色があった。
「何と申せば・・・」
「いいのよ、無理して言うことないわ。
女言葉に戸惑っているのでしょう」
許褚が照れ笑い。
「女みたいに美しいとは聞いていたのですが、女言葉とまでは」
どう接していいのか分からずに困っていた。
大概の者が、「神樹の使わした者」という噂に畏れ、
美しさに戸惑い、女言葉に呆れる。
しかし誰もマリリンを侮らない。
なにしろ神樹の丘で太平道の刺客と、狩場では狼と、それぞれに戦い、
無傷で切り抜けて来た強者。
正面切って誹謗中傷する者は一人もいなかった。
マリリンは単刀直入に言う。
「許褚殿にお願いがあるの。
関羽殿との喧嘩を止めて下さい。お願いします」
許褚が丁寧に拱手をした。
「他の事なら頷けますが、それはお断りします。
ここに倒されているのは私の弟分達なのです。
弟分達の為にも引き下がれません」
マリリンはもう一押ししてみた。
「関羽殿は私同様に領主様の客人なのよ。
それでも戦うというの」
許褚の表情が引き締まった。
やおら関羽に視線を転じた。
「客人で逃げるかい」
そう問われて関羽も、「はい、そうです」とは答えられない。
苦笑い。
「それでは酔っぱらいの喧嘩を続けるか」
許褚の表情が和らいだ。
「それでこそ男よ」
マリリンも引き下がらない。
「どちらかが倒れれば終わるのね」
許褚と関羽が同時に頷いた。
侠気なんだろう。面倒臭い。
「それじゃあ、喧嘩の遣り方は私に任せてくれる。
なるだけ血は流したくないのよ」
二人は互いに顔を見合わせ、マリリンの提案に頷いた。
マリリンは野次馬の中に馴染みの顔を幾人か見つけ、
それぞれの耳に小声で注文を出した。
いずれも市場の店主ばかり。
彼等の動きは速かった。
マリリンが注文したものを次々と持って来た。
最初に運ばれて来たのは空の大きな木箱。
それが蓋された状態で、関羽と許褚の間に置かれた。
その木箱の上に注文の品々が次々と置かれた。
いずれも各居酒屋の看板の小振りな酒樽と酒の肴ばかり。
そして最後に大きな盃が二つ。
キョトンとする二人。
「どうせ倒れるなら飲み倒れがいいでしょう。
好きなだけ飲みなさい」
途端に関羽が笑う。
釣られて許褚も笑う。
文句は出ない。
さっそく互いの大盃に酒をなみなみと注ぐ。
飲む前に許褚がマリリンに問う。
「支払いは」
「私も関羽殿も浪人だから、余分なお金の持ち合わせはないの。
だから当然、領主様の支払いになるわね」
「領主様持ちか、それは良い」
許褚が機嫌良く大盃を一気に呷る。
肴を摘んでいた関羽が慌てて大盃に手を伸ばした。
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