金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)244

2013-06-20 20:54:02 | Weblog
 許褚は当面の敵の関羽ではなく、マリリンに関心を寄せた。
胸元に抱いている陶涼をも繁々と見た。
そして独り合点し、態度を改めた。
「マリリン殿、貴男が神樹の使わした人ですね。
街中では盲目の女の子を連れ歩いているとも聞いています。
間違いないですね」
「そうです。
私を知っているのですか」
「当然です。
この徐州で貴男の噂を聞いた事のない者はいないでしょう」
「もしかして、私を見に来たの」
 許褚が躊躇いもなく大きく頷いた。
「そうです。
噂通りの方かどうか」
「それで納得したの」
 許褚の表情には、畏れ、戸惑い、呆れ、複雑な色があった。
「何と申せば・・・」
「いいのよ、無理して言うことないわ。
女言葉に戸惑っているのでしょう」
 許褚が照れ笑い。
「女みたいに美しいとは聞いていたのですが、女言葉とまでは」
 どう接していいのか分からずに困っていた。
 大概の者が、「神樹の使わした者」という噂に畏れ、
美しさに戸惑い、女言葉に呆れる。
しかし誰もマリリンを侮らない。
なにしろ神樹の丘で太平道の刺客と、狩場では狼と、それぞれに戦い、
無傷で切り抜けて来た強者。
正面切って誹謗中傷する者は一人もいなかった。
 マリリンは単刀直入に言う。
「許褚殿にお願いがあるの。
関羽殿との喧嘩を止めて下さい。お願いします」
 許褚が丁寧に拱手をした。
「他の事なら頷けますが、それはお断りします。
ここに倒されているのは私の弟分達なのです。
弟分達の為にも引き下がれません」
 マリリンはもう一押ししてみた。
「関羽殿は私同様に領主様の客人なのよ。
それでも戦うというの」
 許褚の表情が引き締まった。
やおら関羽に視線を転じた。
「客人で逃げるかい」
 そう問われて関羽も、「はい、そうです」とは答えられない。
苦笑い。
「それでは酔っぱらいの喧嘩を続けるか」
 許褚の表情が和らいだ。
「それでこそ男よ」
 マリリンも引き下がらない。
「どちらかが倒れれば終わるのね」
 許褚と関羽が同時に頷いた。
侠気なんだろう。面倒臭い。
「それじゃあ、喧嘩の遣り方は私に任せてくれる。
なるだけ血は流したくないのよ」
 二人は互いに顔を見合わせ、マリリンの提案に頷いた。
 マリリンは野次馬の中に馴染みの顔を幾人か見つけ、
それぞれの耳に小声で注文を出した。
いずれも市場の店主ばかり。
彼等の動きは速かった。
マリリンが注文したものを次々と持って来た。
 最初に運ばれて来たのは空の大きな木箱。
それが蓋された状態で、関羽と許褚の間に置かれた。
その木箱の上に注文の品々が次々と置かれた。
いずれも各居酒屋の看板の小振りな酒樽と酒の肴ばかり。
そして最後に大きな盃が二つ。
 キョトンとする二人。
「どうせ倒れるなら飲み倒れがいいでしょう。
好きなだけ飲みなさい」
 途端に関羽が笑う。
釣られて許褚も笑う。
文句は出ない。
さっそく互いの大盃に酒をなみなみと注ぐ。
 飲む前に許褚がマリリンに問う。
「支払いは」
「私も関羽殿も浪人だから、余分なお金の持ち合わせはないの。
だから当然、領主様の支払いになるわね」
「領主様持ちか、それは良い」
 許褚が機嫌良く大盃を一気に呷る。
肴を摘んでいた関羽が慌てて大盃に手を伸ばした。




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