木村長人(きむらながと)。皆さんとつくる地域の政治。

1964年(昭和39年)千葉生まれ。元江戸川区議(4期)。無所属。

段階的な脱原発政策へのシフトを

2011-06-15 06:10:09 | 地方自治

 自由民主党の石原幹事長が反原発の風潮を「集団ヒステリー」と評しました。随分と短絡的かつデリカシーのない表現を使うものだなと感じました。原子力推進の立場だったとしても、もっと論理的というか、冷静な語り口があるのではないでしょうか。

 昨今の反原発の動きが「ヒステリー」だというなら、オーストリア、ドイツ、スイスなどの国民をはじめ、ちょうど昨日、国民投票で原発再開凍結の意思表示をした多くのイタリア国民(暫定投票率57パーセントでそのうちの90パーセント以上が原発の新規建設および再開の凍結を意思表示)の動きも「ヒステリー」だというのでしょうか?

 暫定規制値にはほど遠い値の食物を前に「ガンになるから食べない」と言い、食糧の買いだめをしたり、ひいてはトイレットペーパーの買いだめにまで走り回るのは、これはヒステリーと言えなくもありません。

 しかし、昨今の反原発の動きには明確な根拠があります。石原氏は何を見ているのでしょうか?

 福島第一原発の事故の発生来、近隣自治体は壊滅状態のまま、復興作業さえできません。行方不明の遺族の捜索もできません。近隣の第一次産業も壊されました。農業も酪農も放射能汚染で生産活動は止まり、廃業を余儀なくされ、自殺者まで出ています。

 この状況を受けてもなお、反原発の動きが「ヒステリー」だというのでしょうか? これ以上、人が反原発に動くのに十分な根拠はないと思います。

 200~300キロメートル離れた近隣都県でも放射線物質が観測されています(注1)。

 これでも、反原発が「ヒステリー」なのでしょうか?

 いいえ、むしろ、(原子力の科学的利点を自然科学の立場から説くならともかく、)意味不明の原発の「安全神話」なるまやかしの物語を唱導する専門知識とは無縁の推進派や、それをまた疑いの目を持たずに受け入れる国民のほうが「集団」でどうかしていると思います。

 そもそも原発がそんなに安全だと言うなら、なぜ被爆に対する防護服なる物々しい武装が必要なのでしょうか? 子どもでも素朴に感じる疑問です。

 原発は安全でも何でもない、ということです!

 ちょっと乱暴かつ意地の悪いことを言わせてもらえば、原発の「安全神話」を唱える推進者は原発敷地近隣に住民票を移し、終の棲家としてそこで生活する範を示すべきだろう、と感じます。

 でも、推進者の誰もそんなことはしないでしょう。当人だって原発が安全でないことぐらい分かっているだろうし、原発が「安全」であるということが事実とは異なる、まさに「神話」であることを知っているわけです。

 推進派の立場にある人は、原発が「安全」だから推進したいのではなく、たいてい原子力政策と何らかの利害関係がある状況(電力会社に勤めている、電力会社から政治献金を受けている、政府からまたは電力会社から補助金や利益を受けている、などです。別にそれが悪いとは申しておりません。人それぞれ置かれた状況がありますから。ただ、政治献金がらみのステークホルダーはあまり美しくはありませんね。)に置かれているから推進したいのだろうと思われます。

 私が学生のころの話ですから、ずいぶん前(約20数年前?)になりますが、『東京に原発を』という広瀬隆氏の本が話題を呼んだことがありました。話題を呼んだけれども、書店ではあまり見かけない、読者が増えぬよう電力会社が買い占めたのではないか、などという噂まで流れたのを覚えています(真偽のほどはまったく定かではありませんが)。

 同書をめぐっては反原発の一般読者から賞賛を受ける一方、科学的論拠に基づく冷静な議論が乏しいことから原発推進と反原発の両者から芳しくない評価もあったようです。

 確かに専門的な信頼性は乏しいかもしれません。それでも、同書は、素人が「原発がそんなに安全だというなら、都心にでもつくればいいじゃないか」と言いたくなる部分を代弁してくれた、とは言えるかもしれません。(注2)

 私は、火力、水力のほかに、自然エネルギーによる発電を鋭意進めることで、原発は段階的に廃止していくべきであると考えます。

 風力や太陽光などの自然エネルギーの研究と技術力の向上には時間がかかると思われます。また、原子力の中にはすでに住民合意を得、かつ発災時の事故確率が相対的に低い中で稼働中のものもあります。国民の財産を守るために現状の経済活動を破綻させるわけにもいきません。

 ですから、現状で相対的に危険性が少ないと判断される原発を利用しつつも、火力、水力、自然エネルギーによる発電の比重を高め、そして原発は他の代替エネルギーによる発電比重が増えるにしたがい、段階的に廃止していくのです。

 国民の命を守ることを考えるなら、原発の段階的廃止は自然なことですし、反原発の風潮は「集団ヒステリー」でも何でもありません。生々しいほどの具体的根拠あっての動きにほかなりません。


(注1) 地域によっては3月には農産物から暫定規制値を超える放射性ヨウ素などが検出されました。しかし、5月以降は少しずつ落ち着いてきています。この点は各農産物の生産県のホームページで検査データを確認するなど、みなさんも冷静にとらえてください。

(注2)ただ、今読むのであれば、もっとお勧めの本があります。『隠される原子力 核の真実』小出裕章、2011年、創史社。科学的な議論に裏打ちされた、非常に高い評価を得ている本です。




江戸川区議会議員 木村ながと
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