内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

天体から地上の身体へ ― 古代日本の一詩人によって読み解かれた天からのメッセージ (7)

2018-03-23 02:06:11 | 哲学

エピローグ

 天平十年(738)、七月七日の夜、憶良を崇拝していた若き詩人大伴家持は、独り、天の川を仰ぎ見ながら、七夕伝説についての懐いを短歌に託す。

織女し 舟乗りすらし まそ鏡 清き月夜に 雲立ちわたる(巻第十七・3900)

 この歌は、湧き上がる雲という、憶良の歌(1527)の立ち上る霧と照応するイメージを導入することによって、その憶良の歌と対関係を成していると読むことができる。かくして、地上世界に生きる有限的存在である人間の運命を深い共感とともに歌った詩人である憶良による七夕歌十二首によって展開された詩劇は、憶良の死後数年にして、万葉のもう一人の詩人、大伴家持によってその幕を閉じられる。
 招かれることなかった詩宴から遠く離れた場所で、その孤独な詩魂によってつねに憂愁に沈みがちだった若き詩人家持は、独り、瞑想する。その姿はまた、万葉の時代の最後期である第四期の幕開けを告げる場面でもある。
 言うまでもなく、これは別の物語の始まりである。












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