内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

医療とケアの当事者の経験に迫る質的研究アプローチ ― 榊原哲也・西村ユミ編『医療とケアの現象学』

2024-09-20 23:59:59 | 読游摘録

 修士1年の演習のテーマである「ケアとは何か」に関連して、9月に入ってからケアに関する研究書を並行して読み進めている。そのなかの1冊が榊原哲也・西村ユミ編『医療とケアの現象学 当事者の経験に迫る質的研究アプローチ Phenomenology of Medical Care』(ナカニシヤ出版、2023年)である。
 本書は、医療とケアの実践に関わる医師・看護師・対人援助職・医療を受ける側である患者およびその家族という4つの視点から、各々の当事者たちによってその実践がどのように経験されているのかを現象学の方法論ないし精神に則って明らかにしようと試みた論文集である。上掲の2人の編者も含めて12人の共著者が名を連ねている。村上靖彦氏もその1人である。
 編者2人による序章「医療はどのように経験されているのか」以下、本書は4部に分かれており、それぞれが上記の4つの視点に対応している。
 第1部「医師の視点から」は4つの論文から成っている。各章のタイトルのみ挙げると、第1章「疾患と病いの現象学」(榊原哲也)、第2章「診療所で働く家庭医となる」(西村ユミ)、第3章「人びとのケアにおける「対話」」(孫大輔)、第4章「地域に生きる摂食障害者へのアプローチ」(野間俊一)。
 第2部「看護師の観点から」にも4つの論文が収められている。第5章「「伝える」ということ」(小林道太郎)、第6章「「思い」を大切にする」(小林道太郎)、第7章「あいまいな専門職の私」(西村高宏)、第8章「「ケアの意味を見つめる事例研究」のなかでの現象学との出会い」(山本則子)。
 第3部「対人援助職の視点から」は2つの論文から成っている。第9章「ソーシャルワーカーの「忘れられない臨床体験」」(福田俊子)、第10章「「心配だから会いたい」」(近田真美子)。
 第4部「患者や家族の視点から」は3論文から成る。第11章「透析療法導入2年以内の患者の妻の経験」(守田美奈子)、第12章「老いることと医療」(和田渡)、第13章「ICUナースによるICU での患者経験から」。
 「本書においては、医療とケアに関わるさまざまな当事者の経験が、現象学的なアプローチによってさまざまな角度から浮き彫りにされている。それらは、個々の当事者の個別の経験の成り立ち・構造を記述したものではあるが、これらの記述は、読者の方々に、ご自身の経験を振り返らせ、あらためてそれを見つめ直すことを可能にする力をもつものであると編者は信じている。」(序章、iii)。
 確かに、それぞれの観点からの具体的事例の詳細な記述や豊富なインタビューの抜粋を読むだけでも実に興味深い。医療やケアの現場に携わっていなくても、患者あるいはその家族として現に当事者の立場にないとしても、いや、それであればこそなおのこと、自分たちが日頃当然のように享受している「健康な」生活がいかに絶妙かつ危うい均衡の上にようやく保たれているのかということに本書によってあらためて気づかされる。そして、その均衡が失われたとき、当事者においてどのようなことが経験されているのか、そこからの回復にとって何が大切なのか、誰がいかにそれにどのように関与し、医療とケアの実践に取り組んでいるのか、本書ではこれらの問いが様々な事例を通して多角的・多元的に問われている。これらの問いは誰にとってもけっして「他人事」ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿