内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

学生たちのための公僕であることは厭わないが、国家の下僕であることは拒否する ― 憂鬱なる夏休みを前にして

2018-07-03 23:59:59 | 雑感

 これから七月下旬まで、九月からの導入される新カリキュラムのことでまたしても忙殺される。それだけではなく、日本に一時帰国中の七月末から八月二十三日までも、新入学制度の第二次書類審査をネット上で行い、すぐに入学希望者に「合格」(« OUI »)か「条件付き合格」(« OUI SI »)を通知しなくてはならない。要するに、今年は夏休みはない、ということである(特別手当が出るかって?もちろん出ますとも、雀の涙の十分の一くらい)。
 この「条件付き合格」というのは、フランスの大学に初めて導入される新システムである。高校での学力が不十分と大学の審査員(つまり私たち)が判断した入学希望者に、補講あるいは/そして一年プラスのカリキュラムを提供する。そのために年度初めに条件付き入学者各人と契約書を交わす。この契約書を準備し、学生に署名させるのも学科長の仕事である。
 条件付き合格「タイプ1」は、通常履修科目に補講がプラスされる。フランス語力の強化(フランス人新入生に対してですよ)と大学での勉強の仕方の手ほどき(ノートの取り方や発表の仕方とか)を週一回二時間、学期毎に十二回行う。ほとんどの学科はこのタイプを選択した。
 我日本学科は「タイプ2」を選択した。こちらを選択したのは、言語学部全二十二学科中、日本学科だけである。これは、補講に加え、一年生のカリキュラムを半分ずつ二年掛けて履修させる。つまり、「合格」の学生たちよりも一年余計に掛かるわけである。最初からこういう条件を突きつけられて、喜ぶ受験生はいないだろう。
 なぜ我学科はこちらを選択したか。それは、一年から二年への進級率が30%前後と低く、一年入学時の全登録者中、三年間で卒業できるのはその十分の一程度だからである。この著しく低い数値の最大の理由は、一年時の基礎固めができていないことである。だから、二年掛けてしっかり基礎を学べ、というのが入学希望者に対するこちらからメッセージなのである。しかし、第一学年を二年掛けてじっくり履修することが将来自分のためになるという判断ができる「賢い」受験生は少ない。
 案の定、五月下旬から六月下旬までの約一ヶ月間の第一次登録期間には、定員の半分強の六十四名(うち三十四名が条件付き合格)しか登録しなかった。現在第二次登録期間中だが、けっして出足はよくない。おそらくぽつりぽつりと九月五日の締切りまで願書が届くことだろう。
 今年まったく初めて導入されたシステムだから、サイトがトラブルに見舞われることがあるのはある程度は覚悟しなければならない。しかし、ここまで教員を酷使するこの新制度が今後このまま機能するはずはないことだけは確かである。
 私がそれでも粛々と仕事をこなしているのは、ひとえに新入生たちのためなのだ。フランス国家のためなどではない。