第3章 経営危機の乗り越え方
資金繰りに困ったり、急激に売上が落ちてきたら、この章をお読みください。
(4) 【日繰り資金繰り表】を作れば対策が見えてくる
③ 井上経営研究所の【日繰り資金繰り表】の目的と重要点
先ずその重要点を説明するには、【日繰り資金繰り表】誕生のいきさつからお話しなければなりません。
企業再生コンサルタントの道を歩みだした当時、再生現場で最初に取り掛かる仕事は、現在と同じく、「止血」つまり「緊急資金繰り対策」でした。
2002年、井上経営研究所設立した当時の再建現場では、中小零細企業の経営者と膝どころか頭まで突き合わせて、「いったい何日、何ヶ月先まで確実に資金の心配をしないでも大丈夫なのか?」を探ることが最初の作業でした。
しかし、経営危機に陥った中小零細企業に、資金繰り表などあるわけはなく、月末の支払い必要額は請求書が届いてからあわてて掴んでいるような状態です。
当然のごとく
「先月の試算表はありますか?」「棚卸表は?」「来月の売上予算は?」と聞いても、
「ない。」「わからない。」ばかりです。
すべて税理士に丸投げの中小零細企業経営者に、来月どころか来週倒産してもおかしくない限られた時間の中で事業計画表や資金繰り表の作成を指導する時間的余裕などありません。
この段階、つまり緊急的な資金繰りをコントロールする段階で必要なのは、
1)毎日の繰越残高がひと目でわかること
2)支払日には常に支払資金より支払わなければならないお金のほうが多い状態なので、支払いをストップさせたり、どの支払先を優先して支払うかを決めなければならない。そのために、勘定科目別ではなく入金先・支払先別に、現金・振込・手形別に分類されていること。
3)入金しても右から左では、状況に応じて支払先や金額の変更がありえるので、一部を変更しても自動的に残高に正確に反映されること
4)外部に出す必要のない自社でのみ使える表で十分で、体裁などよりExcellが初めての人1でも10キーとカーソルキーだけでも使用可能であること。
これらの目的を達成できれば緊急の資金繰りに役立てると考えて、多くの現場で経営者とともに実践と修正を繰り返してできたのが【日繰り資金繰り表】です。
Linaxではありませんが、関数や計算式などすべて隠していませので、多くの人が使用して今現代も修正や進化を続けています。
資金繰り対策で最も注意しなければならないことは、資金繰りに追われて場当たり的な行動を起こさないことです。そのために最初にやらなければいけないことは、「日繰り資金繰り表」を作成して、いつ、いくらショートするのかを把握することです。
「来週○○万円不足する・・・どうしよう」
と焦るから、抜本的対策など取れなくなり、どんどん【負の連鎖】の蟻地獄にはまっていくのです。
「日繰り資金繰り表」は少なくとも3ヶ月後くらいまでは作成し、ショートする日と金額を特定します。「日繰り資金繰り表」を作成することによって、冷静な判断でその対処策を実行することができるのです。要するに前日の残高に当日の入金予想と出金予想を入力し、翌日の繰越残高にしていくだけです。
入力上の注意点は
1、万円単位で十分です。
2、定期的に現預金の実地棚卸をして前日繰越金額と照合、修正する。(本当は毎日やるべきですが・・・)過ぎた日の数字は間違っていようが無視してください。【日繰り資金繰り表】に必要な数字は過去の数字ではありません。これから3~6ヶ月の数字です。
3、日付けは全て実際に現金が動く日です。小切手や手形は特に注意してください。また、売上は掛け売上の場合は実際に入金される日ですが、現金売上の場合は当日ではなく翌日にしかすべての現金を使うことが出来ませんので翌日欄に記入してください。
4、3ヶ月から6ヶ月間の数字を入力するのですから、当然確定していない金額が沢山あります。確定金額は黒の太字を使い、推定金額は青字の斜字を使い、確定した時点で書式を変えてください。たとえばA社の翌月の買掛金支払い額が確定していないときは、納品伝票や売上高、昨年のA社の仕入高対売上高比率など駆使して推定額を算出して青字の斜め字で入力し、請求書がきた段階で黒の太字に変更ください。
5、作成期間は3ヶ月分ですが、手形を発行されている企業は6ヶ月分作成さるほうが良いでしょう。
6、全て入力が終わったら全ての日の繰越金額をチェックしてみてください。
マイナスになっている日があなたの会社の破綻日です。通常20日と月末にマイナスが発生しますが、緊急資金繰り対策の対象となる日はそのマイナス金額が最大になる日であって、直近のマイナス日ではありません。日繰り資金繰り表を作成していれば来週の支払いでバタバタするというようなことがなくなります。
実際はプラスでも現預金がゼロでは商売になりませんし、拘束されている預貯金があるかもしれませんので最低限営業に支障のない金額を割る日を破綻日と考えて対策をする必要があります。
私の経営再建プログラムのクライアント様はそれぞれの最低営業に必要な預貯金金額を割れば濃い黄色で塗りつぶされるように条件付書式を設定しています。
7、金融機関から資金繰り表を提出を要請されたら、月次合計の列のみを3~6ヶ月コピー、貼り付けして表にすれば「月次予想資金繰り表」の完成です。
どこに出す表でもありませんから、経営者が使いやすいように加工していく方が良いと思います。 私の「日繰り資金繰り表」の最大の特徴は、科目別より支払い先別であるというところです。
私の指導は全てにおいて「形より現実と現場」主義です。
実際に現場でクライアントの社長さんと一緒に「日繰り資金繰り表」を作成していますと会社のお金の流れだけでなく、経費対策や売上対策までが見えてきます。
【資金繰りをチェックする以外の「日繰り資金繰り表」の効用】
1、入金を入力する段階で売上予算(これを持たれていない企業が実際はほとんど)を自然と作成することが出来ます。
2、数ヶ月先の不足金額が出るので、そのためには来週なんとしてでも○○円の売上を作らなければと必死になることが出来ます。
3、支払い先別で支払い額を入力していると、諸会費・雑費などの科目でよく見られるのですが、社長が「こんなのまったく必要ない」「こんなのあったの」という経費が多々出てきます。
私が経営再建のメインである、「経営再建プログラム」を依頼されたクライアント先でまず「日繰り資金繰り表」の作成から着手するのはそのためです。また、「現場」での診断にこだわるのはチェック対象となる在庫や経費を目で確認することですぐにその必要性を正確に判断できるからです。
私の【経営再建プログラム】のクライアントは全ての方が作成して活用されています。中には毎日これを入力し、「少なくとも3ヶ月後までは資金繰りの心配することなく、営業に集中できる。『日繰り資金繰り表』を確認してからでないと床につけない」とまで言われる方もおられます。
70歳を越され、パソコンなど生まれてはじめて触ったというクライアント様でもテンキーとマウスのみで見事にマスターされた方もいます。
「日繰り資金繰り表」の仕組みは非常に簡単ですが、これを活用すれば倒産しなくてもいい会社が倒産にいたる確立が非常に少なくなります。近い未来の資金繰り状態を把握する温度計というところでしょうか。
私の無料経営相談には
「万策尽くしましたが来週の手形が落とせそうにない」
という危篤状態になってからのご相談が後を絶ちません。これらの会社のほとんどは「日繰り資金繰り表」さえ作成していればここまで手遅れの状態にならなかったはずです。
資金繰り状態がよくない会社の経営者が「日繰り資金繰り表」を作成されると3ヵ月後・6ヵ月後のマイナス数字の大きさを見て、その現実に顔面が蒼白になられます。しかしながらある程度の時間的余裕がありますのでその対策さえ間違えなければ、破綻をとめることが出来ます。
「日繰り資金繰り表」でとりあえず緊急資金繰り対策を行なったといっても、とりあえず応急的に止血しただけです。現実的には、間髪をおかず、「経営再建プログラム」の各対策を実施して行かなければなりません。・・・それも絶えず止血をしながらですから、経営者の強い意志と家族、社員さんの協力が絶対条件であることは言うまでもありません。
1 当時の中小零細企業経営者はまだパソコンを使えない方も多かった
次回は、第3章 「経営危機の乗り越え方」 (5)会社の中からお金が生まれる「資産負債対策」です。
このブログ、「中小零細ファミリー企業版 『長寿幸せ企業』の実践経営事典2017」は井上経営研究所が発信しています。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
- 赤字や経営危機に陥った中小零細ファミリー企業の経営再建や経営改善をお手伝いする「経営救急クリニック」事業
- 再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせ、永続優良企業をめざす「長寿幸せ企業への道」事業
- 後継者もおらず「廃業」しかないと思っている経営者に、事業承継の道を拓くお手伝いをし、「廃業」「清算」しかないと思っている経営者に、第2の人生を拓く「最善の廃業」「最善の清算」をお手伝いする「事業承継・M&A・廃業」事業
に取り組んでいます。詳しくはそれぞれのサイトをご覧ください。
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