第5章 健全企業の経営実学「人間学」を学ぶ
(4)「心田開発」と「分度(入るを量りて、出るを制す)」
知識や技術を学んで実践習慣化して知能や技能として習得していく「時務学」に対して、「人間学」とは「道徳心」を身に着け習慣化することです。
人はまず一生懸命に働き、働けることに幸せを感じます。そして、小さな仕事を継続して、小を積む努力を続けて大をなすことに幸せを感じる。それを自らのために使うのではなく、倹約に倹約を重ね必要な分だけを家族とともに使うことに幸せを感じる。さらに余財を家族の未来や社会に与えることに幸せを感じるのです。
二宮尊徳は、このような幸せを感じれる心を育むことを「心田開発」とよんで人間学の柱としています。このような心を育てれば、人への思いやりがある「道徳心」のある人が育ち、世の中が良くなっていくと言っています。
今週は「入るを量りて、出るを制す」を紹介します。
四書五経の五経のひとつ礼記の言葉ですが、それよりも二宮金次郎の言葉で知られています。また、稲盛和夫がJAL再生を引き受けられた時の記者会見でこの言葉を使われてその決意を述べられたことが記憶に新しいですね。
どんな財政の再建でも、その基本は、「入るを量って、出ずるを制す」である。
「入るを量る」ことが出来なければ、「出ずるを制す」しか方法がない。
分度とは言ってみれば、「自己の能力を知り、それに応じた生活の限度を定めること」である。
「わたしのやり方は、質素、倹約を旨とし、それによって余剰を生み出し、その余剰で他人の苦難を救い、それぞれが刻苦精励して、家業に励み、善行を積んで悪行はなさず、よく働いて、一家の安全をはかるというやり方である。どの家もこのように努力すれば、貧しい村も豊かになり、滅亡寸前の村も必ず復興できる。」
これは「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫著 栄光出版社)からの抜粋ですが、まさに経営再建、企業再生の真髄を捉えています。一般的な再建プログラムが「一時しのぎ」に始終するのは、まさにこの基本的な原理原則を「芯柱」にしていないからです。
たとえば、再建プログラムの「経費削減対策」が「経費節約」にしかなってなっていないのは、「指数」や「%」で「数字」を捏ねくり回すことしかやっていないからです。
既存のやり方で前年以上に頑張って働いても、「入る」は減るのが当たり前の経営環境のなかで、「辻褄合わせ」や「ゴールシーク」で予算を作るから、結果的に赤字の垂れ流しが続くのです。まずは、「出るを制す」予算を作成し、「余剰」「分度外」を必死で生みだすのです。
もちろん、具体的な「出るを制す」には知恵が必要です。
(三戸岡道夫「二宮金次郎の一生」栄光出版社p56~)に二宮尊徳が服部家の復興の中で借金を頼みにきた女中に薪の節約で借金を返す方法を教えるくだりがあります。
- 今の方法では薪は節約できない
- 鍋の底の鍋墨を落とすこと、火が鍋底に丸く当たるように鍋を置くこと、に因って薪は完全燃焼するので一日薪二本が節約できる
- 薪が完全燃焼すると、残り火の火力も強くよい消し炭ができる
- この残り火でお惣菜の煮炊きくらいはできる
と具体的にどうすれば倹約できるのかの知恵を授け、
- 一日薪二本が節約できれば、百日で二百本の薪のお金を生み出すことができる
とアドバイスしています。
これは非常に重要な事で、経営者は社員に「経費が多すぎるから、もっと減らせ」などと頭ごなしに何度言っても、社員さんは動こうとはしません。なぜなら、倹約の知恵がなければ単純に使えるものが少なくなって、社員さんの負担が増えてしまうからです。
炊き事をしても、二宮尊徳の方法なら、完全燃焼するので煙にむせることもなく、鍋底も汚れにくいので鍋を洗う手間も少なくなって女中さんも助かります。
そうして生み出した「余剰」「分度外」を変事のために蓄え、未来の売り上げの核となる「新規事業対策」や「人」につぎ込んでいくこと、これが「入るを量りる」ということです。
「分度」を決めることが出来、「至誠」と「勤労」を「習慣」化し、継続できれば、どん底の陥った中小零細企業も必ず再建から健全企業へと変化できると確信しています。
次回は、第5章 健全企業の経営実学「人間学」の
(5)「未来へ、社員へ、家族へ、社会への『推譲』」 (仮題)を予定しています。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
- 赤字や経営危機に陥った中小零細ファミリー企業の経営再建や経営改善をお手伝いする「経営救急クリニック」事業
- 再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせ、永続優良企業をめざす「長寿幸せ企業への道」事業
- 後継者もおらず「廃業」しかないと思っている経営者に、事業承継の道を拓くお手伝いをし、「廃業」「清算」しかないと思っている経営者に、第2の人生を拓く「最善の廃業」「最善の清算」をお手伝いする「事業承継・M&A・廃業」事業
に取り組んでいます。詳しくはそれぞれのサイトをご覧ください。
1.「経営救急クリニック」
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- 廃業プログラム(第2の人生のために取り組む「最善の廃業」)
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2.「長寿幸せ企業への道」
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