第2章 経営者の「入口」起業と事業承継
(2)あなたの人生において会社はどんな存在ですか(起業)
それでは、実際に「使命(ミッション)」をどう決めていくのかを考えてみましょう。あなたが創業者である場合と父親などから会社を承継した場合では「使命(ミッション)」の決め方が違います。
あなたが創業者である場合、「使命(ミッション)」が起業前からはっきり持っていたということは下の中小企業白書の資料1から見ても非常に希でしょう。
資料を見てみますと、「自分の裁量で仕事がしたいから」、「年齢に関係なく働くことができるから」、「仕事を通じて自己実現を図るため」などが起業動機の上位を占めています。
起業動機上位には社会や他人(お客様)のためにという考え方が存在しません。ようやく11番目に「社会に貢献したいから」という動機が出てくるのみです。
つまり、ほとんどの創業者は、起業は自分のためにしているのです。
起業して10年以内に95%の会社が消えていく原因はここにあります。
残念ながら、あなたの会社を儲けさせてやろうと思う人はひとりもいません。自分の欲のためだけにする商いは必ず顧客が気がつきます。儲けてやろう、儲けてやろうとすればするほど儲からなくなります。起業からそう長くない間に立ちゆかなくなっていきます。
あなたが提供する商品やサービスが飛び抜けた独自性など特別の競争優位性を持ってない限りこの厳しい社会で生き残れません。たとえ、あなたが提供する商品やサービスが競争優位性を持って起業したとしても、その優位性を維持できる期間は通常そんなに長くはありません。
あなたにとって会社はどのような存在ですか。
あなたの会社は世の中においてどのような存在であるべきだと思っていますか。
創業準備の際に、売上や利益を考える前によく考えてみてください。
病気や事故、家庭問題など大変な経験をして、創業前から同じ目に合う人を助けたいという強烈な使命を持って創業する例はそう多くありません。私は26歳で創業しましたが、私の場合は会社の売上を大きくして、蓄財して、50歳位になったらリタイヤーしたて、後は趣味の旅行などをして贅沢な暮らしをしたいというくらいのものでした。
しかしながら心配は無用です。松下幸之助さんだって、稲盛和夫さんだって、創業後身を粉にして働き、いろいろの苦難を乗り越え、学び、会得して始めて明確な「使命(ミッション)」を持ったに違いありません。
私のように動機は不純でも、創業から仕事に集中して打ち込み、その大変さとともに、その楽しさを理解し、社会的使命が醸成されていくケースがあります。
商品をサービスを正直に提供することによって、お客様から評価され、それにこの上ない喜びを感じ、もっともっと、お客様に喜んで頂くことに使命感を持つ方もいらっしゃいます。
起業後、できるだけ早く会社の真の存在意義を発見し、広く「使命(ミッション)」を宣言してほしいと思います。
『経営再建プログラム』で危機に陥った会社の社長室で、どこかで聞いたことのあるような社訓が壁に掲げられているなと思ったら、著名な経営者の「経営理念」をほとんどそのまま借りてきたものだったなんていうケースは珍しくありません。「使命(ミッション)」をはじめ「経営理念(フィロソフィー)」のすべてが、経営者が心からそう思い、絶対やり遂げると言う強い意志を、自分の言葉で表現してほしいものです。
「何のために、何処に行きたいか」が決まればしめたものです。あとは第1章で触れたようにあなたの経営人生の目的地(ビジョン)、経営目標、戦略、経営計画とつなげていき、それを支える行動規範(モノサシ)などの経営理念をはっきりさせればいいだけのことです。
「菜根譚」2に
「磨礪は当(まさ)に百煉(ひゃくれん)の金の如くすべし。急就(きゅうしゅう)は邃養に非ず。施為(しい)は宜しく千鈞(せんきん)の弩(ど)に似るべし。軽発は宏功(こうこう)なし。」という条があります。
「自分が磨くのは一生の課題である。一年二年頑張ったところでどうにもならない。また事業を始めるときには、どの程度生産があるのか情報をしっかり分析し、どう戦うのか戦略戦術をよく検討してかかる必要がある。そこをいい加減にしたのでは、失敗は免れない。」3という意味です。
このブログ、「中小零細ファミリー企業版 『長寿幸せ企業』の実践経営事典2017」は井上経営研究所が毎週火曜日に発信しています。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年、「追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、赤字や経営危機に陥った中小零細ファミリー企業を『経営再建プログラム』で再生させる「経営救急クリニック」事業を創業。さらに再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせる企業再生手法を確立。2010年、長寿永続健全企業をめざす中小ファミリー企業のための「『長寿幸せ企業』への道」事業を開始。