第7章 経営者人生の終い方「出口戦略」事業承継・M&Aと廃業
(7) 会社を 〈たたむ〉 「廃業」で第二の人生をスタート
「廃業」という言葉が頭をよぎったら、これを読まないと後悔します。
2010代に入って、中小零細企業の経営者からの事業再生や経営改善の相談に代わって、多くなってきたのが「廃業」と「事業承継」に関する相談です。
2010年代のはじめは、
A)資金繰りに窮しておりこのままいけば経営が行き詰まってしまうが、「倒産(法的整理の破産)」はなんとしても避けたいので、私的整理で「廃業」したい
というご相談か
B) 今はなんとかやりくりできているが、これ以上事業を続けていても良くなる見込みはないので「廃業」したい
というご相談が中心でしたが、
2015年くらいから目だって増えてきたのが、
C)事業はなんとか続けたいが、高齢で後継者もいないので「廃業」せざるを得ないので悩んでいる
いうご相談です。
私はこの問題を「廃業」ではなく「事業承継」の問題と捉えています。詳しくは、次回の「(8) M&Aによる事業承継は 従業員も取引先もお客様も幸せで 経営者のあなたもハッピーリタイアメントで第二の人生」を参考にしてください。
さらに最近急激に多くなってきているのが
D) うちみたいな中小零細企業でもM&Aで会社を売れるのですか
という相談というより問い合わせです。
私が経営再建・事業再生のみならず廃業や事業承継に関する経営相談でプログラムや解決スキームをアドバイスするときに必ず重要視することは、
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本当に経営者が考えているような選択肢しか取れないのか
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経営分析をして、この経営状況でどのようなプログラムや解決スキームが可能なのか
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経営者が可能性のあるプログラムや解決スキームなどの変化を受け入れる実行する能力(いわいる高学歴や勉強できるという学力ではありません)などがあるのか、年齢的にやり遂げる気力があるか
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可能性のあるプログラムや解決スキームが本当に経営者の幸せにつながるのか
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私が推奨するプログラムや解決スキームの優先順と本人がやりたいことが一致するか
などです。
大変だが頑張り抜けば達成が可能なプログラムや解決スキームでもその年令や家族環境などによって私がおすすめする順番は違います。同じような財務内容でも100社あれば100の対応方法があります。事例は参考になりますが、そのまま横展などすれば逆に失敗する可能性のほうが大きくなります。特に注意しなければならないのは成功事例をいろいろ組み合わせて、病気をさらに悪化させる「薬の飲みあわせ」です。
個人差はありますが、似たようなケースでも、たとえば壮年期の経営者には「可能性がある限り歯を食いしばって経営再建プログラムで生き残ろう」というようなケースでも、経営者が極端に若い場合や高齢者の場合は「第2の人生を再スタートするためにもう頑張り続けつことはやめましょう」と法的整理をおすすめする場合さえあります。
A) とB) は一見似ているようですが、全く別もので達成が可能なプログラムや解決スキームも大きく違ってきます。
A) タイプの多くは、債務超過か長期の赤字状態で資金繰りに逼迫していて、経営者は毎日苦しくて逃げ出したくなっています。
倒産というのは法的用語はありません。どんな対策を打っても早晩倒産を免れないのであれば、出来るだけ早く法的整理で会社を破産させるほうが経営者の再起は一番早い方法です。それでも人間的にまともな経営者であればあるほど、債権者や連帯保証人に迷惑をかけたくない一心で「倒産への負の連鎖」1の道を突き進んでいく傾向にあります。 毎日が支払日状態になって資金繰りに窮してくると「倒産」という言葉が頭から離れなくなります。その上倒産すれば何が起こるのかわからないので恐怖心が大きくなると、ますます正常な判断ができない状態になっていきます。
創業期や成長期の中小零細企業の経営者には見栄やプライドが必要な面もありますが、見栄やプライドが高い中小零細企業のワンマン経営者で「倒産は一家の恥」だから何としても法的整理の倒産ではなく、私的整理で「廃業」したいと固執し、個人の再起、第二の人生が非常に困難な「最悪の倒産」に陥る場合が散見されます。
逆に、私から見て経営再建や私的整理ができる可能性がある状態でも、経営者によってはもう倒産しか残されていなしと過度に反応する人がいます。この段階の経営者によく見られる行動が、「自宅だけはなんとしても守りたい」と連帯保証人になっていない奥様や子どもさんなど名義変更したり、預貯金を隠したりすることです。このような行為は詐害行為2になる可能性がありますので厳に慎んでください。
このような方は時間が勝負です。今すぐに、信頼できる専門家にご相談ください。
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B) のタイプの経営者は「プログラムや解決スキームを経営者が変化を受け入れる実行する能力」があれば、スキームを成功する可能性が高くなります。これ以上事業を続けていても良くなる見込みはない。毎年利益も出て、資金繰りにも大きな問題はないので、今のうちに廃業したいという危機感をお持ちの方です。
しかし、実はこのタイプは①「やめたいときに、やめれる会社」と②「やめたいのに、やめれない会社」とに分かれます。
「やめれる企業は優良企業」という言葉があります。A) タイプの経営再建プログラムに着手した企業が、経営再建プログラムをクリアーして、【俯瞰塾】に入塾しての最初の目標は「やめたいときに やめれる会社」になることなのです。では「やめたいときに やめれる会社]とはどのような会社なのでしょうか。
ここで右の表をご覧ください。
表の上段はある会社の廃業時のBS(貸借対照表)です。この段階では、会社の資産は17,000万円、負債が12,700万円でその差額純資産は4,300万円ですから、自己資本比率約25%のまずまずの会社で債務超過状態ではありません。一見すると①の「やめたいときに、やめれる会社」だと錯覚しがちです。
しかし、これは会社が動いているときの話です。この会社を廃業するためには資産を売却して負債を返済しなければなりません。そのために下段の清算BS(貸借対照表)を作成しなければなりません。資産のうち現預金は数字どおりの額を現金に変えられますが、廃業するときに急げば急ぐほど額面どおり100%の現金を回収するのは不可能です。赤字の部分をご覧ください。売掛金は9掛け、在庫商品は足元を見られますので6がけにでもなれば上々で、建物や建物附属設備などは原状復帰の契約なら、ゼロどころか解体費用や廃棄費用などでマイナスのなることも珍しくありません。黄色で塗りつぶしている土地の場合はそのままも評価で処理していませんが、簿価より売却価格が高いことは特別な地域を除いては少ないと思います。
反対に、負債はBSの数字通りの金額を返済しなければなりません。そうすると、下段のように換価できる会社の資産は10,190万円、負債は変わらず12,700万円でその差額純資産はマイナス2,510万円ですから、自己資本比率は正反対のマイナス約25%の債務超過の②「やめたいのに、やめれない会社」になってしまいます。
この会社が廃業するためには
- 経営者個人が老後のために蓄えた預貯金から2,510万円を払って廃業する
- 時間をかけてソフトランディング型の廃業プログラムで廃業計画を立て、売却価格をあと2,510万円以上あげる戦術を実行する
- 経営改善プログラムで会社の「企業価値をあげる」ことに取り組み、②「やめたいのに、やめれない会社」まで引き上げる
Bのタイプの経営者のように債務超過でなく、営業利益が出ている段階で経営改善プログラムに取り組めば成功確率は非常に高くなります。 - 正しくは廃業ではありませんが、動いている状態で会社を売却するM&Aに取り組みむ
などのスキームが考えられます。
これが「廃業」の現実です。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
- 赤字や経営危機に陥った中小零細ファミリー企業の経営再建や経営改善をお手伝いする「経営救急クリニック」事業
- 再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせ、永続優良企業をめざす「長寿幸せ企業への道」事業
- 後継者もおらず「廃業」しかないと思っている経営者に、事業承継の道を拓くお手伝いをし、「廃業」「清算」しかないと思っている経営者に、第2の人生を拓く「最善の廃業」「最善の清算」をお手伝いする「事業承継・M&A・廃業」事業
に取り組んでいます。詳しくはそれぞれのサイトをご覧ください。
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