天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

朝日俳壇(8月2日)を読む

2020-08-02 14:50:28 | 俳句


本日の朝日新聞俳句欄から気になった句をいくつか取り上げ、木村弘子と合評します。木村が○、天地が●。

岩魚釣る鱒二龍太のよき日かな 加田 怜
<大串章選>
●小説の井伏鱒二と俳句の飯田龍太の付き合いは長かったらしいです。この二人をあまり知らなくても中七で名前が響いて交情がよく出ています。
○岩魚釣で深山幽谷、お二人の気持ちの深さに通じますね。

蝉の穴脱皮に今朝も立ち会へず 下村靖彦
<大串章選>
○蝉の好きな人なんですね。そのため早起きしました。
●年配でしょうね。いつでも早起きでまわりから疎まれているかもしれません。「今朝も」ですから毎日観察しているのでしょう。「蝉の穴」に失望した思いを託しています。
○蝉は穴のそばで脱皮しなくて幹や枝にすがって行うわけですが季語はこれでいいですか。
●リアリズムの見地からだとあなたのような疑問が出ますが俳句は詩ですからいいと思います。それに脱皮する場所と穴はそう遠くないですから。

万緑の真つ只中の傘寿かな
 徳永桂子
<大串章選>
●中七から下五への展開が鮮やかです。傘寿がさんさんとしています。
○「万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男」がありますが、老齢でこの季語を使いこなして見事です。
●「真つ只中」の句では「銀杏散るまつたゞ中に法科あり 山口青邨」が知られています。この句は法学部という見える物を置きました。徳永さんの句は「傘寿」という抽象概念を置いて意外性を出しました。

雲の峰衰へもまた凄まじき 望月清彦
<高山れおな選>
○衰へというと雲が夕立になったわけですね。
●むくむくと立ち上がる雲の峰を詠んだ句は多いですがこの句は意表をついてユニークです。
○崩れるのに「雲の峰幾つ崩れて月の山 芭蕉」がありますがこれとは違う局面でおもしろいです。

子は明日へ父は昨日へ草矢打つ 加藤草児
○これはみえみえじゃないですか。
●子は将来があり父は過去というのはあまりにステレオタイプ。俳句というより標語みたいな感じです。

大出水暮し丸ごと流れ行く 前田一草
<高山れおな選>
○「丸ごと流れ行く」なんてまさにその通り。切実です。
●選者が「やや商業コピー的な言い回しがここでななんとも痛切」と評しています。「暮し丸ごと」をいうなら言い切ってほしいという気がします。「大出水暮し丸ごと流しけり」みたいに。

大声で大暑を叱る老婆かな 千賀壱郎
<高山れおな選>
●大声、大暑、二つの大が呼応して愉快です。年を取っても元気なおばあさん、いいです。
○私、この句嫌いです。なんで老婆じゃないといけないんですか。私のことを言われたようで好きになれません。
●老婆だからおもしろくなったと思います。そう自分に引きつけて読まなくてもいいでしょう。

あのあたり瀬戸大橋か夏霞 飛田久子
<稲畑汀子選>
○瀬戸内海が広々見えて雄大な句です。「あのあたり」という導入もゆったりしていて好感を持ちました。
●季語、近くないですか。それに霞で見えないという原因結果がちょっと気になります。
○どうしたらいいですか。
●「あのあたり瀬戸大橋か蜜柑咲く」とかすれば、蜜柑畑にいて遠望している光景になります。
○遠近感が出てもっとよくなるかもしれません。

女王花待てば時計のひとつ鳴る 藤井啓子
<稲畑汀子選>
●女王花は月下美人のこと。寿命の短い花と言われています。ぼくは見たことがありません。
○神秘的な花で夜ひらくんです。「ひとつ」ですから1時でしょうか。
●深夜でしょうね。1時半も考えられます。美的な感傷に浸らなくてすかっとしました。

千人を涼しくしたるアリアかな 松村史基
<稲畑汀子選>
●今回いちばん気に入った句です。会場に大勢聴衆がいる、それがざっと千人。アリアはオペラの独唱でしょうね。一人の歌声に聞き入っている大勢が見えます。聴こえます。涼しい時間です。
○風や水ではないユニークな涼しさですね。

あらためて母に縋りし寝冷の子 上西左大信
<稲畑汀子選>
○汗かいてしまったのかな。私も若いころよく経験しました。身にしみます。
●「あらためて」がリアルです。しっかり目が覚めて母を確認したという感じです。

大陸の貨車の死骸にたかる蛆 今井文雄
<長谷川櫂選>
●映画「人間の條件」を見て素材を得たようです。太平洋戦争中の中国でしょうか。
○私は満洲に生まれて10歳のとき、昭和20年に鉄道で引き揚げました。そのときまだ死んではいない人ですが衰弱した人を大勢見ました。こういうことは書き留めておきたいです。
●事柄を詰め込み過ぎ羅列になっているのが気になります。もう少し絞るともっと切れ味が出るでしょう。

東京に紛れこみたるサングラス 藤井啓子
<長谷川櫂選>
○これはどういうことですか。
●作者は神戸の人ですね。東京へ来て大勢の人の中へ入った。密集が問題になっていても東京は人が多いです。首都へ来てちょっといつもと違う格好をした。いつもの自分じゃない気分になったとわけです。
○山や海でないサングラスは新鮮ですね。

風の中よりさすらひの河鹿笛 谷村康志
<長谷川櫂選>
○ロマンティックな内容に惹かれました。
●ぼくは「さすらひ」がよくわかりませんでした。河鹿は川に住んで鳴いているわけですから。
○作者が旅をしているんでしょう。川のほうから風が吹いていて河鹿の声が聞こえた。それに身の上を重ねたと思います。
●そういうことでしょうね。

匂ひ立つ若さの印濡れ浴衣 望月吉彦
○祭に参加している若い人でしょう。汗か水をかけられて浴衣が濡れて肌が透けて見える。若さいっぱいでいいです。
●男でも女でもいいですがぼくは「印」を言わないでほしいんです。こういうだめ押しは俳句を薄くしてしまいます。
○抑制したほうが奥行が出るのですね。



撮影地:フォレスト・イン昭和館

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2 コメント

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Unknown (Tuki)
2020-08-02 16:02:35
お二人の合評をいつも楽しく拝見しています。
私の子供の頃の記憶でいうと、蝉の脱皮は日没の頃だったかと。
いくら早起きしても、立ち会える確率は極薄なんじゃないかなぁ(笑)
よく知ってるねえ (わたる)
2020-08-02 18:08:27
俳句をやっていて、知らないことばかりということを知る日々である。恐ろしいくらい知らずに生きている。政治みたいに生臭いことはもとより知らない。
それでも生きている。そんなもんか。

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