
小川軽舟鷹主宰が「獣の血」と題して鷹3月号に発表した12句。これを山野月読と合評する。山野が○、天地が●。
初雪や神父親しき家族葬
●葬儀のことに不案内で聞きたいのですが「家族葬」というのは文字通り、家族だけで営む葬儀ですか?
○家族以外の極親しい方も参列することはあるでしょうが、基本はそうだと思いますよ。これは、「神父」が執り行っている「家族葬」ですかね。また、「親しき」とは、句中の「神父」にとって「家族葬」は慣れ親しんだセレモニーということを言っているのでしょうか。「家族葬」の当該ご家族と親しいということではないと思うのですが。
●「親しき」は微妙です。小生は「家族葬」の当該家族と神父が親しい、といったん読みましたが、文脈からみてあなたのいうように「神父」が「家族葬」を取り仕切ることに馴れているということだろうと思います。
冬日さす卵の殻のざらつきに
○ いつもながら着眼点がいいですねえ。上五がよく働いて「殻のざらつき」の陰翳まで見えそうです。
●どうということもない光景なのですが言葉にすると際立って見えます。「殻のざらつきに」と押し込んだ辺りが鋭いですね。それで物がしかと見えます。
ブランコを順に押す父落葉踏み
●「順に押す」というのは、ブランコ三つほどをこの父の子供たちが占めている、ということですね。
○そうだと思います。「順」という言葉で、ブランコの複数の存在まで示せるのですから、この「順」という言葉も隅に置けません。下五「落葉踏み」は名詞句ではなくて連用句ですよね。ブランコを押す際に「落葉踏み」であれば、通常なら「押す」際に片足を前に踏み出す行為を思うのですが、相手が子どもだとするならそれほどの負荷はないでしょうから、たぶん横に移動しつつ「順に押す」動作を示しているのかなと。そして改めて、「順」という言葉によって、複数の子どもがそれぞれ乗ったブランコを示し得ることの驚くべき合理性を認識します。
●あなたが指摘するように、表現も展開も濃やかです。視点も冴えています。
寒暁のトラックの列埠頭まで
●不気味な句です。列というからには10台ほどトラックが来た。さて、積んで来たのか、積みに来たのか?
○積みに来たとは思いませんでしたが、その可能性もありますね。とは言え、たぶん積んで来たんでしょう(笑)。同様に、積み荷を移すであろう相手の船舶についても、複数船舶の可能性もありますが、ここは同じひとつの船舶をイメージしたいです。そこそこ大きな港湾ですよね。「寒暁」が、複数のトラックのヘッドライトを含め、句に色付けをしてます。
●想像が広がってスリリングです。
獣の血したたらすなり鯨肉
●幼少のころよく食べた鯨を思いました。長野県伊那市の在ゆえ冷凍鯨でしたが、そういえば解けると血がビニール袋に溜まっていました。
○「鯨肉」だけだと食卓等に供される一口サイズのものをイメージしそうですが、「獣の血したたらす」とあると、ある程度の大きさの肉塊を思います。それもあって「鯨」が「獣」であることを再認識させられます。
●鮪などの魚を思い浮かべましたが、あれに比べて鯨の血の量は多いと思います。それで上五中七の効き目を再認識しました。
竈猫国富みるみる減らんとす
●政治・経済はとんとわかりません。わが国の地位が下降したというニュースはたびたび耳にしますが…。作者は何をもって「国富」としていますか?
○一般的にはGDPじゃないですか。国際順位も確かドイツにも抜かれてますし。ただ、「竈猫」視点で言えば、食糧自給率とかかもですね。
●季語は飄逸です。開き直っていいる感じで政治・経済の担当者、頑張ってよ、という投げやりのニュアンスが楽しいです。
ぶつ切りの煮えて骨立つ狩の宿
○こういう状況経験がないのであれですが、「骨立つ」が本句の眼目で、如何にも「狩の宿」らしいリアリティを感じさせます。
●熊か猪か、それとも鹿か。ともかく獣の匂いが満ちた鍋。肉、骨、汁が見えるようです。
真後ろに梳くや冷たき巫女の髪
○前髪を垂らさぬ仕様なんでしょうね。「梳く」様を具体的に示すことで、その後に後ろで束ねられるであろう髪まで見えます。また、髪の「冷た」さを言うことで、この「巫女」の化粧っ気のなさそうな清楚な感じを示しているかと。
●長い黒髪を思います。まるで「源氏物語」の葵上みたいな女性を。
目玉熱く野次馬の顔火事に照る
○「野次馬」の形容として「目玉熱く」が抜群だと思います。加えて、それが火事現場の「野次馬」ですから尚更です。「目玉」に映り込んだ火の手まで見えますし、夜火事だろうことも示し得ているのでは。
●「目玉熱く」は野次馬の風刺にもなっています。巧いです。
○そうですね、「野次馬」への冷めたアイロニーも含みつつ。
鰤の身のじわりと紅し蕪鮨
●この料理、知りませんでした。蕪は大根のように白い野菜です。その鏑に鰤の切り身をどころどころに刺した、鰤と鏑の一緒になったのです。
○私も知らなかったので検索して写真を見ました。人参も混ぜ込んだ料理のようで、それに混じって「鰤の身」も「紅」味を帯びて見えなくもない(笑)。
●「食べ物の句は美味そうに書け」が先師の教え、作者は忠実に教えを引き継いでいます。
地盤に杭打ち込む重機冬旱
●寒そうな句です。大地は凍てていて固い音が聞こえてきます。
○ある程度の広さの現場を思いますし、それ故にいよいよ寒々しいです。
笹鳴や北条の墓ひとならび
●北条氏は初代の北条早雲が伊豆と相模を奪い取ったのを手始めに、2代氏綱、3代氏康と代を重ねるごとに領地を広げていった名家。その後、北条氏は氏政の子の氏直の代で、天下統一を進める豊臣秀吉に攻められて滅びますが、墓はどこですか?
○歴史には疎いのですが、観光的知識で言えば確か早雲寺じゃないでしょうか。質素な五基の墓が並んでいます。見た目はそんなに立派な墓でもなく、どちらかというとこじんまりと並んでいるので、「ひとならび」という把握は秀逸かなと。
●こういう場面に「笹鳴」は効きますね。
○確かに。可憐な花ではなく、「笹」というのがいいですね。







「冬旱」に対して「杭打ち込む」行為について、これを一種の雨乞い的儀式として捉えた可能性に言及すべきだったかも。