天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

朝日俳壇(5月8日)を読む

2021-05-10 05:10:15 | 俳句


5月8日付朝日新聞の俳句欄に出た40句から気になった句をいくつか選び、天地わたるとМマリンが意見交換します。天地が●、Мが○。

【一推しの句】
薔薇の家見知らぬ国旗掲げあり 青野優子
<大串章選>
○私の特選です。今まさに薔薇の季節ですね。「薔薇の家」だけでどれほど見事に咲かせているのか伝わってきます。薔薇は虫がつきますし肥料も大変ですから、1年を通して手入れを怠らないでいたご褒美のように咲いているのだと知れます。場所はアフリカとか中南米などの大使館かしら。目黒区や港区などは住宅街の一軒家の表札が○○大使館だったりすることが多いですよね。どこの国かな、どんな人がすんでいるのかな、そんな想像が膨らむ句です。
●おっしゃる通りです。この家が某国の大使館であるという読みに納得です。わが国に危害を与えることをしていても治外法権で守られているという妖しささえ感じます。薔薇という季語が物を言っています。

一病の三度出会ひし桜かな 友井正明
<稲畑汀子選>
●選者が第一席で推したことに納得します。選者は「もう全快であろう」と評していてそれは疑問ですが。病気は宿啞で、たとえばガンなど想像され、四度目の桜があるかどうか、というふうな印象です。またそう思わせる余韻を持っているのが上手いのだと思います。一という数詞に三という数詞をからめた技も冴えています。
○私も「もう全快であろう」と評していますが、果たしてそうかなと思いました。作者は薄氷を踏む気持ちで毎日を送っているのではないかしら。再発におびえる気持ちの毎日を積み重ねるなかでの三度目の桜、感謝しながら見上げる気持ちを感じます。どうか、来年もその次も作者が桜に会えますように。



【どちらかがいいと思った句】
遠足の声吊橋に揺れてをり 広川良子
<大串章選>
○遠足の声が吊橋で揺れているような句はありがちと思いますが、吊橋が揺れたので歓声が上がったという表現でなく「声」が「吊橋」に揺れているとしたところが良かったです。勉強させていただきました。
●ありがちかもしれませんが捨てがたいですね。声は揺れているだけでなく嬌声もあると思わせて奥行が出ました。

耕人に声掛けて行く郵便夫 濱口星火
<大串章選>
○郵便局が生活の中心にあったのは昭和のことでしたが、この地域ではまだまだ郵便局健在!ですね。 配達人が地域のひとを把握している。都会で暮らしていると気詰まりに思える濃厚な関係性ですが、もしかしたら耕人は過疎の村の独居老人で、きょう初めて口をきいた人間はこの郵便夫かもしれません。そんなことを思いました。
●巡査が声をかけるという句もありますが、まだ共同体意識が残っている集落を端的に描いていると思います。

ステージに立ちたる心地さくら散る 田中一美
<高山れおな選>
●そう奇抜ではないですが気の利いた比喩です。桜舞い散るなかに立つとみんなの視線をうけてステージにいる心境というのは。豪華絢爛で晴れがましい。できれば下五は「花吹雪」と名詞にしたほうがもっと季語が炸裂するように思います。
○ああ、なるほど。当初は下五のさくら散るが何となく引っかかって採れませんでした。花吹雪なら今まさにステージに立っているという心情が伝わりますね。

万歳で眠るみどり児春の風 桶羅由美
<稲畑汀子選>
○稚児を詠むと甘くてダメとはよく言われますね。切り口が新鮮ならいいと思いますが、これは景として新鮮さがあるのでしょうか…。
●新鮮かと真っ向から質問されると困るのですが、甘いというより微笑ましいレベルでぼくは拒否しません。上五は手を上に上げて寝てしまった姿態ですね。目が効いていて感情に走らなかったので子どもの句ですがべたべたしていません。
〇今のわたるさんにとってはお孫ちゃんとの日常の一コマとして親しめる感じでしょ。
●それはないです。実生活を読む俳句と関係させません。

折り鶴をひらけば文や春の宵 大川隆夫
<稲畑汀子選>
○選者は「したためられた手紙に感動」としていますが、そんな単純なことではないような。季語「春の宵」から手紙の中身はもう少し艶っぽいもののような気がします。いいな、ロマンチック。女心はノックアウトではないかしら。そんな文を貰ってみたいものです。
●これは恋文でワクワクします。ひらけば和歌が書かれている、となれば、現代版源氏物語。作者の浪漫性に拍手です。

山桜こんなに散ってゐて静か 飯塚柚花
<長谷川櫂選>
○花の盛りや散り際の美しさではなく、少し外したところを詠んでいらっしゃるのが良いと思います。
●都会じゃない山桜で味わいが出ました。散った花は土を隠すほどでにぎやかだけれど静かです。単純ですがいい風情です。
〇そうですね、山桜の白っぽさが雰囲気を出していますね。

一村に一軒の店山笑ふ 渡辺美智子
<大串章選>
○「村に一つの……」的な措辞は使い古されているように思うのですが。これは季語が効いているから選ばれているのでしょうか? さほど効いているとも思えないので質問です。
●一に一を持ってくるのは俳句の常套手段ですが効き目のあることも事実です。したがってぼくは常套でもいいと思うのです。どこかを変えて1ミリ新しくするのでいのではないかと。季語がうまく働いていると思います。

左岸より右岸より降り花筏 前田 昇
<高山れおな選>
●この句には省略の妙があります。つまり「左岸より右岸より降り」で主語を省いているのです。下五「花筏」を見て、ああ桜が散ったのだと後追いでわかる仕組みです。下手を打つとわかりにくくなりますが、この句は下五へ飛躍して味が出たと思います。
○そうか、主語の省略なんですね。私は「左岸からも降り、右岸からも降り」と動詞の降るが省略されていると思っていました。東京で言えば目黒川の景かな。
●木にあった桜の残像もあり豪華です。


【もったいない句】
待ってましたとばかりなる躑躅かな 高山 薫
<高山れおな選>
○これは面白いと思ったのですが…。「小川軽舟は擬人化がうまい」とわたるさんがおっしゃっていましたね。これは擬人化でしょ? 私も擬人化が全て駄目ではないと思いますが。
●「待ってました」というのはわっと咲く躑躅のありようとして決まっています。ただし語順でリズム感を失いえらく損をしています。もったいないですよ。「躑躅咲く待ってましたとばかりなる」とすればぐっと良くなるでしょう。選者が添削してもいいのだけれどね。
〇待ってました、とはなかなか出てこない表現です…少なくとも私には。そし語順ですか、なるほど。リズム感は大事。そのほうが収まりが良いですね。

剣道の面の干されて子供の日 加藤草児
<高山れおな選>
○中七「干されて」が気になっています。こういう表現の良し悪しが、私にはまだ判別できないのです。「剣道の面干されをり」ではどうでしょうか?
●そのほうが締まっていいと思います。どうということのない素材ですが、汗とか体臭とか感じて子供の日を感じます。




【困った句】
土地改良目高の学校廃校に 米津勇美
<大串章選>
○乱開発に対する問題提議の気持ちは分かります。が、詩情はどこに? 問題提議なら違う場所でしたほうがいいのではないかと。細かいですが「目高の学校」ではいっそう硬質でますます詩情がないので、唱歌の題に合わせて「めだかの学校」のほうがいいように思います、せめても。
●問題提起も俳句にしていい素材ですが、目高の生態を「目高の学校」と擬人化したのが最悪でしたね。

一夜ごと命を燃やす花篝 近藤史紀
<長谷川櫂選>
○火に照らされる桜の美しさに魅了された気持ちは分かりますけど、大袈裟でアウト。命燃やすだなんて、演歌じゃあるまいし。
●いやあ気持ちもわかりませんね。演歌にしても古すぎますよ。
〇厳しい!

魅せらるる花の命の色なりし 田邉育子
<稲畑汀子選>
○魅せる、花の命 または命の色 なんだか耳に心地いいような奇麗な言葉を並べているように思います。美しくて感動して出てきた言葉が本当にこれだったとしても、まだまだ言葉を精査する必要があるのでは。そもそも「命」と言う言葉は難しいです。
●前の句と同様です。おまけに「魅せらるる」まで言ってしまうと、ああ……。

がうがうと天(そら)吹き飛ばす春嵐 ひらばやしみきを
<高山れおな選>
○私は「鷹」にはおりませんが湘子はオノマトペはダメと仰っていたように記憶しており、まさにこの句がそうだと…。
●湘子がオノマトペがダメと言ったのはぼくらが門弟が下手だったからであってその手法そのものを否定したのではありません、念のため。
この句の困ったところは「がうがうと天(そら)吹き飛ばす」は季語の内容そのものだからです。季語の説明だから困るのです。虚子に「大いなるものが過ぎ行く野分かな」がありますが、この句が秘めている「大いなるもの」が象徴する自然の猛威、畏れなどと比べて浅薄でしょうね。

過疎の村案山子に道を尋ねけり 太田 昭
<大串章選>
○案山子は秋の季語でしょう。しかもこの「案山子に道を尋ねけり」も使い古されているように思います。
●俳句は諧謔性、ユーモアを重んじますが作者は勘違いしています。案山子なんかに道を訊きませんよ(笑)、鴉に訊くとうのならまだしも。馬鹿やって笑いを取ろうとするのは落ち目の芸人であって俳句ではありません。採るほうも採るほうですが…。
〇何か私の知らない意味があるのかと思って、ずいぶん調べましたよ。作者と撰者の勘違いなのですね。
●選者の意向はわかりません。


撮影地:ミューズパーク(秩父市)

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3 コメント

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Unknown (Tuki)
2021-05-11 01:15:48
評されている句の中で私は次の3句がいいなあと思いました。

薔薇の家見知らぬ国旗掲げあり 青野優子
折り鶴をひらけば文や春の宵 大川隆夫
山桜こんなに散ってゐて静か 飯塚柚花

次の句は構造的に興味深いですね。

左岸より右岸より降り花筏 前田 昇

「左岸より右岸より降り」という措辞について、わたるさんの言うように主語の省略としての捉え方も、Mマリンんさんの言うように動詞の省略としての捉え方もありだと思うのですが、共通しているのは「左岸より」「右岸より」を同格並列的に捉えている点です。いずれも「より」も起点を示す「より」と言う捉え方。
これとは別の考え方として、「右岸より」の「より」は起点の「より」だけれども、「左岸より」の「より」は比較対象を示す「より」として捉える読み方もあるのでは?つまり、左岸に比べ右岸から(より多く)降っている、といった状況描写になるわけですが。省略と言う視点から見ると、この場合は「左岸より(も)」と言うふうに考えられます。
景としては、同格並列の読みの方が華やかですが、比較としての読みもそれはそれで繊細で面白いように思えました。
Unknown (マリン)
2021-05-11 09:33:39
Tukiさま なるほど、比較というのもありますね。実際に陽の当たり加減で片側の並木のほうが「より」枝振りが良く花付きがいいのは、よく見かけます。左岸からも右岸からも降ると読めば豪華な景色ですが、比較のほうが観察が細かい。慧眼。さすがですね。
朝日俳壇の天地わたるさん (茂木 とみお)
2021-05-11 10:49:27
朝日俳壇を拝読しました。わたるさんの鑑賞に、鷹主宰の「擬人化の上手さ」、先師藤田湘子の「オノマトペ」への評価などの指摘。わたるさんのバックボーンには、「鷹」が常にあるように思いました。ありがとうございます。

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