杉原 桂@多摩ガーデンクリニック小児科ブログ

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新型インフルエンザについての専門家のご意見  森澤雄司先生

2009-08-25 | クリニック通信

「虚構」のもつ激情性とはけだし名言ですね.


新型インフルエンザについての専門家のご意見


森澤雄司先生
自治医科大学附属病院・感染制御部長、感染症科(兼務)、感染免疫学准教授、
栃木県新型インフルエンザ対策専門委員、厚生労働大臣改革推進室アドバイザー

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新型インフルエンザ対策のこれから 事実と虚構の間で
7月9日

「虚構はつねに激情をうむ」と看破したのは司馬遼太郎である。以下、無用のことながら筆者
のいつもながらの主張に連ねていく。科学的根拠に基くことが習慣づけられている場合には、成
人であっても的確な根拠を示すことによって行動を変容することが可能である。しかし、一方、
根拠のない自信に裏付けられている御仁を説得するのはなかなか骨が折れる。「根拠のない自信」
は「虚構」であるために「激情をうむ」ことが多く、冷静な議論に至るのは困難な場合が少なく
ない。新型インフルエンザ対策をめぐる議論は、当然ながらエビデンスがほとんどないところで
進めざるを得ず、コモンセンス(常識・良識)がコモンでなければ咬み合わないこと著しい場合
が多くなる。また、臨床医として私自身としても自戒する言葉に「後医は名医」という常套句が
ある。とくに臨床経過が思わしくない際に、担当を替って「後から」診療する医師は極めて有利
であり、いわゆる後出しジャンケンは必勝である。
新型インフルエンザについても、2 月までにスペイン・インフルエンザ級のインパクトに対応
する危機管理として対策が立案されていたが、実際に発生した新型ブタ由来インフルエンザ
S-OIV A(H1N1) ウイルスは 7 月初旬の段階で国内に重篤化した症例を認めず、過剰な対策を計
画したと厚生労働省を含めて激しい非難の対象となっている。たしかに行動計画の運用が硬直化
して実状に対応できなかったという点は虚心に反省するべきであると思うが、一部に「今どきス
ペイン・インフルエンザほどの社会的影響を生じるわけがなかったのだ」と主張するような人々
まで出現して非難合戦に参加されている。「虚構はつねに激情をうむ」という外ない。
今回の新型ブタ由来インフルエンザ S-OIV A(H1N1) ウイルスによる疾患は概して軽症であ
り、季節性インフルエンザとほぼ同等であるように見えるが、やはり流行拡大する速度は著しく、
今年 5 月 1 日から 20 日までにニューヨーク市では人口の約 7% がインフルエンザ様疾患を
経験して、総計 250,000 人の感染者があったと推定されている(New York City Department of
Health and Mental Hygiene. Health Alert #22: Novel H1N1 Influenza Update June 12, 2009
(available at http://www.nyc.gov/html/doh/downloads/pdf/cd/2009/09md22.pdf))。この時期に検
出されたインフルエンザの 90% 以上が新型インフルエンザ S-OIV A(H1N1) であり、残りは季
節性インフルエンザ A(H3N2) であったと報告された。ニューヨーク市においては 6 月 11 日
までに 567 例が入院して、その中で 117 例が集中治療部門管理、59 例が人工呼吸器管理を必
要とした。死亡例は 16 例であった。やはり気管支喘息や糖尿病、免疫不全、心疾患などの基礎
疾患や妊娠、さらには 2 才未満の幼児が重症化する危険因子として挙げられており、これらのデ
ータはこの秋以降にどのような医療体制を構築するべきであるかを検討するのに極めて重要であ
る。冬季を迎えつつある南半球において感染者数が激増しているのみならず、国内においても患
者数は増加を続けており、秋以降はわが国においても季節性インフルエンザと相俟って社会的に
甚大な影響を与える可能性が低くないと考えておくべきであろう。
感染力については、もちろん社会として免疫を持ち合せていないという背景がある。感染者か
らどれくらいの拡大を見せるかを示す基礎再生産数 R0 は 1.2 程度とされており(Fraser C, et
al. Sciencexpress 2009; doi:10.1126/science.1176062)、スペイン・インフルエンザの際には R0
が 23 程度であったと推測されていることから比較すると低い。日本で公表された感染者数の推
移に基く解析(Nishiura H, et al. Eurosurveillance 2009; 14 (22): pii = 19227 (available at
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticles.aspx?ArticleId=19227))では R0 を 2.3 と見積
もっているが、これは高校生を中心とした流行の特異性による可能性があり、実際に学校閉鎖の
後は R0 が 1 未満になったと報告している。
また、今回の新型インフルエンザ S-OIV A(H1N1) ウイルスの塩基配列から得られるデータで
は、重症化させると考えられている要素は認められていない(Neumann G, et al. Nature 2009;
doi:10.1038/nature08157)が、フェレットなどによる動物実験(Maines TR, et al. Sciencexpress
2009; doi:10.1126/science.1177238 、Munster VJ, et al. Sciencexpress 2009;
doi:10.1126/science.1177127)からは、季節性インフルエンザが上気道に限局して感染するのに
対して、新型インフルエンザは気管や細気管支の上皮細胞にも感染することが示されており、や
はりヒトにおいても重症化しやすいと考えるのが妥当かもしれない。WHO では 6 月 12 日(日
本時間)に世界的大流行を意味するフェイズ 6 に突入したと宣言しているが、このまま流行が継
続すればウイルスの突然変異が進む可能性があり、デンマークからはノイラミニダーゼに
H275Y という点突然変異が実際に確認されている(European Center for Disease Prevention
and Control. ECDC Threat Assessment 01 July 2009 (available at
http://www.ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/0907_Influenza_AH1N1v_Resistance_T
A_Oseltamivir.pdf))。この変異は国内でも認められたが、オセルタミビル(タミフル)への耐性
を示すことが知られており、新型インフルエンザ S-OIV A(H1N1) ウイルスは M2 阻害薬アマ
ンタジンに耐性であることから、治療方針についても検討する必要がある。
インターネット社会が進み、これらのデータが WHO(http://www.who.int/en/)や国立感染症
研究所感染症情報センター(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)などのホームページから迅速に
入手できる状況は心強い限りである。現場から発信されたデータこそ有効な施策を打ち出す根拠
となる。
厚生労働省は 6 月 19 日に行動指針を改定して、さらに 6 月 26 日の担当課長会議などでも
新型インフルエンザ S-OIV A(H1N1) はすべての医療機関で診療にあたるべき方針が示された
が、実際の地域医療のための行動計画は都道府県を主体として検討されなければならない。現時
点においては新型インフルエンザについても季節性インフルエンザと同様の診療方針とするのが
合理的で、迅速検査キットの偽陰性について考えても、インフルエンザの診断は臨床判断に従う
べきである。オセルタミフル(タミフル)や吸入薬ザナミビル(リレンザ)の投与も季節性と同
様に重症化するリスクが高いと判断される場合でよいはずである。余計なことであるが、細菌性
肺炎は起因菌が同定されていなくても適切に治療すればその予後は変らないという科学的根拠が
あり、実際に多くの医療機関で起因菌に頓着しない抗菌療法がなされているが、インフルエンザ
だけは季節性か新型のいずれであるかに固執するというのでは、公衆衛生的なアプローチを考え
る立場なら兎も角、臨床の現場にあってはいささかバランスを欠く憾みがあるように感じている。
一方、妊婦や心疾患、免疫不全、気管支喘息などを背景とするハイリスク症例については医療
機関における曝露を最低限とする必要であり、この点、すべての医療機関が新型インフルエンザ
対策を進める必要がある。
例えば栃木県は人口 200 万人に対して年間出産数が約 17,000 件、維持血液透析患者数は約
5,000 であるが、このような数字を背景として考慮した上で、地域医療における適切な役割分担
を検討するべきである。新型インフルエンザといっても過去の世界的大流行を見ると、いずれは
社会が免疫を獲得して季節性インフルエンザへと変化すると考えられるが、そのような安定化に
は数年間を要している。新型インフルエンザ対策が長丁場になることも踏えて、行政担当者と医
療従事者が現場レベルでの情報共有を進めることからより現実的でより負担の少ない対策を計画
していく必要がある。地方自治の精神に基き、個別法規に依拠しない首長、とくに都道府県知事
の判断や緊急の予算化なども必要になるかもしれない。
もっとも医療安全・感染対策を進めている立場からは、今回の新型インフルエンザウイルスの
出現を受けて、日常的な季節性インフルエンザ対策のレベルを恒常的に向上するように心がけて
いただけると有り難い。インフルエンザも流行の極期には空気感染経路をとると考えざるを得な
いケースが認められるが、一般的に飛沫感染経路が主体である。今回の新型インフルエンザ
S-OIV A(H1N1) についても、例外的には気管内挿管や気管支鏡検査などのリスクが高い手技で
はN95 マスクによる空気感染予防策を実践する必要があるかもしれないが、飛沫感染予防策を中
心に考えればよいと判断している。ただし、医療従事者の感染事例(CDC. MMWR 2009; 58 (23):
641-5)を見ると、フェイスシールドやゴーグルなどによる眼保護は重要かもしれない。
なお、患者が外科マスクを着用して医療従事者の管理に従えば、安全な患者動線を確保するこ
とはそれ程に困難でないと考える。基本的人権は公共の福祉に反しない限りにおいて制限されな
いと日本国憲法にも記載されており、感染対策という大義名分の下で患者に必要以上の負担をか
けることがあってはならない。
最後に新型インフルエンザのワクチン接種について言及する。米合衆国のデータは 60 才以上
の 33% に今回の S-OIV A(H1N1) に対する抗体反応が認められる(CDC. MMWR 2009; 58
(19): 521-4)としており、わが国でも同様の結果が得られたとする情報があることから、高齢者
については従来通りの季節性インフルエンザワクチン接種を中心に進めて、一方、若年者に新型
インフルエンザワクチン接種とするアプローチが合理的かもしれない。もちろん医療従事者や公
衆衛生担当者、救命救急従事者には優先的な接種とすべきである。
幸いにして重症例がないことから、不幸にして新型インフルエンザに対するマスメディアや国
民の関心が薄れつつあるが、秋に向けて対策を着実に進めなければならない。世間は兎も角、我々
にとってはこれからが正念場である。責任追及もそれなりに必要かもしれないが、乗っている船
が沈みかけているときに船中で争うのに御執心の御仁とは付き合い難いといわざるを得ない。こ
の船は我々の手で漕ぎ続けなければならないのだ。

2009 年 7 月 9 日(木) 記す
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新型インフルエンザ雑感・その2
6月11日

インフルエンザの大流行に関する記載は、御存知のように古文書にも多く、とくにわが国では歴
史資料が豊富なことから興味深い発見をすることがあります。平安時代に書かれた「三代実録」
は清和天皇・陽成天皇・光孝天皇の御世について記載された国史書ですが、この中で貞観 14 年
(872 年)の記載として、

正月二十日辛卯、是日、京邑咳逆病発、死亡者衆、人間言、渤海客来、異土毒気之令然焉

とあります。渤海は当時、満州地方から朝鮮半島北部ロシア沿海地方に存在した国で、渤海使と
いう使節が 30 回以上もわが国に訪れています。しかし、そのように国交のある場合でも、京都
に “咳逆病” が流行すると ”異土毒気” が持ち込まれたと考えられたようです。グローバル化した
はずの現代日本にあっても、残念ながら、同様の “島国根性” が散見される場合があるように思
います。
この文書は 2009 年 6 月 11 日に記載しています。多くの皆さんの御努力によってわが国で
の新型インフルエンザの流行状況も明らかになりつつありますが、やはり蔓延していると考えざ
るを得ない状況だと判断しています。対策を立てるためには現状を正しく把握することが必要で
あり、定点の充実でも地域限定のインフルエンザ様疾患クラスターサベイランスでも、より多く
の情報が入手できる枠組みが必要であると思います。この際、季節性インフルエンザも含めて情
報が得ることが出来ると臨床の現場でも大変に有用なデータになります。個人的には 5 月下旬以
降から New York 市で重症例が少なからず報告されている状況から、とくに市中起因病原体不明
重症肺炎についてすべての症例を対象に新型インフルエンザの関与が検討されるべきであると考
えています。
従来、インフルエンザは感染拡大力が著しく、封じ込めるのではなく、流行を遅らせることを
目的に対策が立案されていたはずですが、何となく “蔓延させるとはけしからん” という雰囲気
が醸成されているのが気になるところです。現場へのリソース配備が不足していることから
rRT-PCR 検査をそれこそふんだんに実施することが出来ないこともあり、実際には報告されてい
る患者数よりも多くの症例数が見込まれてしまっていることもあって、状況がより一層に複雑に
なっているのかもしれません。極めて散文的な主張ではありますが、新型インフルエンザを適切
に検出するということ、その体制と能力は、公衆衛生行政を含む国力の証しであると思います。
新規患者が報告されるたびに、”封じ込めに失敗した” というような反応が出てくるのは残念です。
まして患者さんや関係者に対するいわれなきバッシングは目に余ります。わが国においては、感
染症が stigma ではないことをまだまだ啓発しなければならないのかもしれません。
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新型(ブタ由来)インフルエンザ A (H1N1) ウイルスの流行について 2009 年 6 月 3 日(水)
の時点で考えていること
6月3日

新型(ブタ由来)インフルエンザ A (H1N1) ウイルスの世界的な流行が始まって 1 か月以上が
経過しました。すでに世界的大流行 pandemic のレベルに概ね到達していると判断していますが、
現時点でわかっている(わかった)こと、まだわかっていないこと、いろいろまとめなければな
らない時期になっていると思います。新型インフルエンザの現状は、霧の中で巨大な船とすれ違
い、その舳先だけが見えている状況にあると思っています。臨床医は患者を診る立場から舳先だ
けで対応することになります。一方、公衆衛生的に対策を考える際には、まだ見えていない船尾
までの巨艦の全体像を考えて対応しなければならないのではないでしょうか。ここでは 3 点につ
いて私見を述べます。
まず、rRT-PCR 検査による診断をめぐる混乱についてです。検査は目的をもってなされるべき
であり、検査の結果に対応して何らかの意思決定がなされるのでなければ意味がないと考えます。
診療のための臨床診断と社会的施策を決定するためのサベイランス診断は異るはずであり、その
ような観点から議論が進むことを望みます。個人的には特定の地域に資源を投入して、実際にど
の程度まで浸淫が進んでいるのか、見極めるような手法を取ってもよいのではないかと考えてい
ます。しかし、rRT-PCR にせよ、タミフルやリレンザにせよ、テクノロジーを盲信するのではな
く、それらを使いこなすコンセプトが重要です。よくある high-tech, low-concept ではなく、今
こそ low-tech, high-concept で進みたいところです。
2 点目は、第 1 波をどのように考えるのか、ということです。一般的には既に第 1 波は終息
に向っているという認識が多くなっているように思いますが、新規患者が引き続き確認されてい
る以上、予断を許さないと考えています。当然ながら新型インフルエンザ対策に関する科学的根
拠、エビデンスは存在しません。そんな中で神戸市保健所から 43 例の臨床像が早期に報告され
た点はとても意義深いことであったと思います。コモンセンスで考えながらエビデンスを作る方
向性が重要です。全国保健所長会が大きく寄与されるであろうと期待しております。現場から発
信されたデータを解析してこそ有用な施策を打ち出すことが出来ると確信しています。
最後に第 2 波への備えです。5 月末からのチリやオーストラリアにおける患者数の増加を見る
と、秋に第 2 波として帰ってくるのは必至であると考えます。今のうちに従来の感染性だけに基
く行動計画ではなく、感染性と病原性の 2 次元マトリクスによる行動計画へと改訂しておく必要
があります。病院と行政が現場レベルでの情報共有を進め、それぞれの医療圏で具体的なプラン
を立てるには保健所の役割は極めて大きいと考えています。また、具体的なプランには予算も必
要です。もろもろ考えると時間はそんなにないのかもしれません。
微力ではありますが、情報を入手しやすい立場にある現場の臨床医として、皆様の御役に立つ
ことができれば幸甚至極です。
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