【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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郭洋春『現代アジア経済論』法律文化社、2011年

2012-10-08 00:18:07 | 経済/経営

            
 
  「平和の経済学」を提唱する著者のアジア経済論。世界経済の展開に果たすアジアのウエイトは年々、重くなっている。象徴的な出来事は、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融危機の拡大を防いだ中国経済。中国は自国経済への影響を最小限に食い止めるために大規模な財政投入を行い、その結果、中国の内需は拡大し、多くの国々の輸出先ともなり、世界経済の危機的状況からの浮揚を下支えした。


  著者はこの事実を「はじめに」で掲げ、本書全体で今日、そして今後のアジア経済が果たす役割の大きさを分析、展望している。内容はアジア経済の総論的部分に始まって、グローバリゼーションがアジア経済に及ぼす影響、FTA(自由貿易協定)、APEC(アジア太平洋経済協力会議),WTO、ASEM(アジア欧州会合)の役割と問題点、観光産業の位置づけ、領土問題と非常に広範である。

   全体をとおしてあるのは、自由貿易経済への志向と保護貿易主義とが拮抗するなかで、アジア経済の協力・強調の関係は不可避である、ということだ。世界経済の今後の発展にとってアジア経済の成長がもつ意味は大きい。現に、東・東南アジア諸国は高い経済パフォーマンスを示し、なかでも中国の成長には目を見張るものがある。アジアは今や世界の貧困地域から、世界の成長のエンジンになっている。

  これらのことを前提しながらなお、あるいはだからこそ、著者はグローバリゼーションの本質がアメリカの矛盾の他国への押しつけであること(p.30)、日本が今後とも経済発展をしていくためには、自国の利益ばかり考えるのではなく、途上国に対しても責任ある姿勢を示さなければならないこと(p.67)、しかし心配なのは日本の政治状況の体たらくであり、このままではジャパンナッシングに下降しかねないこと(p.170)など、重要なポイントを列挙している。


   個人的には、日本のサブカルチャーの問題点と可能性を論じた第7章「アジアに浸透するジャパナイゼーション」、日本の観光産業の位置づけと可能性を論じた第8章「観光産業から見たアジアと日本」が興味深かった。

   第11章では、領土問題についての言及があり、北方領土問題、竹島・尖閣諸島問題がとりあげられ、タイムリーである。わたしはこのなかでは、かつて北方領土問題についていろいろ調べたことがあるが、11章では日本政府の「公式見解」の紹介があるものの、サンフランシスコ条約2条C項で当時の政府がクリルアイランズを放棄したことについて触れられていないこと、ヤルタ協定やカイロ宣言、日ソ平和条約締結(現状では未締結)の意義についての言及もないことなどがやや不満であった。


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