映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

八甲田山(1977年)

2020-08-10 | 【は】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv18506/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペ(長いので一部編集、青字は筆者加筆)です。

=====ここから。

 「冬の八甲田山を歩いてみたいと思わないか」と友田旅団長から声をかけられた2人の大尉、青森第五連隊の神田(北大路欣也)と弘前第三十一連隊の徳島(高倉健)は全身を硬直させた。日露戦争開戦を目前にした明治34年末。第四旅団指令部での会議で、露軍と戦うためには、雪、寒さについて寒地訓練が必要であると決り、冬の八甲田山がその場所に選ばれた。

 2人の大尉は責任の重さに慄然とした。雪中行軍は、双方が青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという大筋で決った。

 年が明けて1月20日。徳島隊は、わずか27名の編成部隊で弘前を出発。行軍計画は、徳島の意見が全面的に採用され、隊員は皆雪に慣れている者が選ばれた。一方、神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長山田少佐(三国連太郎)に拒否され210名という大部隊で青森を出発。神田の用意した案内人を山田が断り、いつのまにか随行のはずの山田に隊の実権は移っていた。

 神田隊は次第にその人数が減り、辛うじて命を保った者は50名でしかなかった。しかし、この残った者に対しても雪はとどめなく襲った。神田は、薄れゆく意識の中で徳島に逢いたいと思った。

 27日、徳島隊はついに八甲田に入った。天と地が咆え狂う凄まじさの中で、神田大尉の従卒の遺体を発見。神田隊の遭難は疑う余地はなかった。徳島は、吹雪きの中で永遠の眠りにつく神田と再会。その唇から一筋の血。それは、気力をふりしぼって舌を噛んで果てたものと思われた。

 全身凍りつくような徳島隊の者もやっとのことで神田隊の救助隊に救われた。第五連隊の生存者は山田少佐以下12名。のちに山田少佐は拳銃自殺。徳島隊は全員生還。しかし、2年後の日露戦争で、全員が戦死。

=====ここまで。

 
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 NHKのBSは、結構面白い番組を放映しているんだけど、「ダークサイドミステリー」もそのうちの一つで、毎回自動録画設定しているお気に入り番組。この番組で、自粛期間中の4月に放映されたのが「八甲田山遭難事件 運命の100時間 ~兵士たちは何に敗れたのか~」で、これを見て、俄然、「八甲田雪中行軍遭難事件」に興味を持ったのでした。

 で、本作を見てみようと思ったのだけれど、本作は、新田次郎の小説「八甲田山死の彷徨」が原作。この原作小説は読んでいないのだが、同じ遭難事故を取材したルポである伊藤薫著「八甲田山 消された真実」(山と渓谷社)を本作を見た後に読んでみました。……これが、かなり衝撃的な内容で、この本を読み終えるまで本作の感想はちょっと書けないな、、、、と思って、結果的に本作を見てから1か月以上たって感想を書くことになってしまったのでした。


◆トップがダメだと組織は全滅する。

 実際に八甲田でロケをしたらしいのだが、まあ、とにかくほとんど全編が雪の中でのシーンで、画面が白いか(夜間の)黒いかで、非常に画的には面白味がない。吹雪の中では人の姿も見にくくて、おまけに重装備だから役者の顔がイマイチ分かりにくい。

 ……などという、映画としての難点はあるけれども、制作陣の意気込みは十分伝わって来る。『アラビアのロレンス』を見たときは、喉が渇いて仕方がなかったけれど、本作は、見ているこっちが凍死しそうな気がしてくるくらいに寒さを感じた。

 北大路欣也演ずる神田隊員が、本来この五連隊の司令官として機能するはずだったのに、三国演ずる山田少佐が階級としては上位で、横槍を入れるがために、司令系統が一本化せずに統制がとれなくなる。しかも、山田少佐の節目節目の判断は、すべて裏目に出るという悲劇。ド素人の私でも、あんな状況の雪山で動き回るのはNGだろうと分かるのに、なぜか山田少佐は、動き回る指示ばかり出すのである。当然、隊員たちは体力をひたすら奪われる。

 軍隊なんてのは、階級が絶対だろうから、神田隊員としても山田少佐に何も言えなかったのだろう、、、というのは分かるが、それにしたって、210名の人命を預っている立場として、もう少し何とかならなかったのか、という気もする。

 一方の健さん演ずる徳島大尉率いる三十一連隊は行軍を成功させ、健さんは、やっぱりここでも渋くてかっこいいヒーロー扱いだ。遭難死した神田大尉の死を悼む姿をヒロイックに描いている。しかし、この徳島大尉は、現地の案内人に対し、用が済むと「見聞きしたことを一切口外するな」と箝口令を敷いて、はした金を渡して帰らせるのだ。案内を務めた地元民は怯えきった様子で、猛吹雪の中を案内してくれた人たちに対して、それはねーだろう、、、と思ったんだけど、当時の軍なんてのはそういうもんなのか??とムリヤリ自分を納得させた。……が、その後に読んだ「八甲田山 消された真実」で、実態はもっとトンデモだったと書かれていて、さもありなん、、、と腑に落ちた。

 まあ、原作小説は、飽くまで小説であり、やはりイロイロ脚色がされているのだろう。もちろん、新田次郎のことだから綿密な取材はしているに違いない。また、小笠原孤酒という元新聞記者がこの遭難事故を取材しており、それらの取材資料を新田にほぼ全て提供しているということだ。

 それに、映画化に当たって、さらに事実からはかけ離れた筋書きになっているのだろうし。

 いずれにしても、愚かなる将を戴く兵卒たちの悲劇、、、と言ってしまえばそれまでだが、混乱の原因となった山田少佐は、本作では拳銃で自決したことになっているが、実際には、心臓麻痺で亡くなっているそうだ。まあ、自決した方が映画的には画になるけれど、現実はそうドラマチックではないのだ。


◆健さん=ヒーロー、で良いのか。

 私は、本作を見る前に「ダークサイドミステリー」を見ていて、本作の元ネタとなった遭難事故の実態を多少知っていたこともあり、あまり素直に本作を鑑賞することは出来なかった。「ダークサイドミステリー」では、第五連隊(つまり、神田隊員の部隊)のことしか描かれていなかったので、三十一連隊についての話は本作を見て初めて知った次第だが、その後に読んだ「八甲田山 消された真実」に書かれた内容から、この三十一連隊にも相当問題があったことが推察できる。 
 
 神田大尉、徳島大尉、山田少佐らには、もちろん実際のモデルがおり、少しずつ名前も変えられている。「八甲田山 消された真実」には、他にもこの行軍に関わった主要な人物が多く言及されており、それぞれの人物像が詳細に書かれている。著者の伊藤薫氏は、おおむね彼らに対して非常に辛辣で、氏自身も自衛隊出身ということもあってか、かなり憤っておられるのがよく分かる。確かに、若い200名以上の隊員の命を何だと思っているんだ??と、そのあまりにも杜撰な行軍に、怒りを通り超えて呆れてしまう。

 前述のように、箝口令を敷かれたことで、案内をした地元民たちは、事故後、調査に当たった関係者たちにも詳細を語りたがらなかったとか。それくらい、徳島大尉のモデルとなった福島泰蔵という大尉を恐れていたということらしい。

 本作は、結果的に、世界的な山岳遭難事故を、美談にしてしまっている感が否めず、正直言ってこの制作姿勢はかなり疑問を感じる。つまり、健さん演ずる徳島大尉をヒーローにしてしまっている、ということだ。まあ、映画はエンタメであるのだから、実話に忠実に作ったところで、面白くなければしょーがない、、、っていうのは分かる。でも、本来失われなくても済んだ199名の命が失われたことの重みを考えると、この徳島大尉のキャラは、果たして本当にこれで良かったのか。


◆その他もろもろ

 まあ、とにかく、豪華出演陣です。

 健さんら3人のほかにも、緒形拳、丹波哲郎、加山雄三、大滝秀治などなど。緒形拳でさえ、かなりのチョイ役。若~い加賀まりこが、健さんの妻役で、夫に三つ指ついて傅くという、らしくないキャラを可愛らしく演じていらっしゃいました。

 「八甲田山 消された真実」の著者・伊藤薫氏が、この遭難事故の最大の責任者として名前を挙げている人がモデルになっている津村中佐を小林桂樹が演じているのだけれど、かなりのチョイ役で、出番も少ない。伊藤氏は、とにかくこの人物を糾弾している。

 本作では分からないが、この行軍に参加した第五連隊で、目的地の“田代”に実際に行ったことがある人が一人もいなかった、誰もその場所を知らなかった、という事実が、「八甲田山 消された真実」を読んで、一番衝撃的なことだった。

 原作小説で有名と言われている、神田大尉の「天は我らを見放したか!」と叫ぶシーンは、本作でももちろん描かれているが、実際には「皆で枕を並べて死のう」という続きがあったそうだ。この一言で、それまで生き残っていた隊員たちの士気が一気に堕ち、皆がバタバタと倒れて行った、、、という。本作でも、バタバタと人が倒れて行くシーンがある。

 山岳遭難ではよく「引き返す」ことの重要性が言われるが、何事も“リタイア”することは難しい。そこには“敗北感”がつきまとうからか。途中まで手を付けてしまって、それが無駄になることの抵抗か。いずれにせよ、引き返す、撤回する、変更する、、、これらを臨機応変に判断することの難しさを、TV番組や本作、ルポを読んで改めて感じた次第。
 

 

 

 

 

 

低体温症の恐ろしさがよく分かる。

 




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2 コメント

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Unknown (Lunta)
2020-08-11 11:27:15
初めて冬の蔦温泉から酢ヶ湯温泉までバスに乗った時、車中でこの遭難に関する情報が流され、新田次郎の小説を読みました。
旧日本軍上層部の無茶苦茶さ、下っ端の兵士や農民に対する横暴さなども書かれていますが、実際はもっとひどかったのでしょうね。
今のこの季節に読むのにぴったりの本(笑)。
ちなみにNHK-BSの歴史関係の番組、私もよく見ています。
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Unknown (すねこすり)
2020-08-11 21:26:48
Luntaさん、こんばんは!
冬に行かれたのですね。やはり雪深かったのでしょうか?
夏はトレッキングに格好のコースだそうですが、雪は怖いと改めて思いました。
今回本や映画に触れて、軍組織の悪い面ばかりが露呈しているように感じました。軍ですから規律第一なのは仕方ないですが…。
LuntaさんもNHKのBSよくご覧になるのですね。英雄たちの選択や、フランケンシュタインの誘惑(だったかな)とかも好きです。海外のニュースとかもよく流れているので国内ニュースに辟易した時はそちらに逃げているのですが、今は世界中がコロナ一色で逃げ場がありません(^^;
この夏は、どちらへ行かれるご予定なのでしょう? 北海道の旅行記も楽しく拝読しています。picture thisのアプリ、私もダウンロードしちゃいました!
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