映画 ご(誤)鑑賞日記

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『キャンディ・キャンディ』に思う[2]

2021-11-07 | 番外編

『小説キャンディ・キャンディ FINAL STORY』から感じること① ~その1~

 

 

 この記事では、便宜上、マンガ『キャンディ・キャンディ』を「正編」『小説キャンディ・キャンディFINAL STORY』を「小説F」と表記しています。

 また、“あのひと”が誰かを考察する趣旨ではありません

 

~小説Fをお好きな方は、以下お読みにならないでください。読まれるならば自己責任でお願いします。~

 

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>>>>[1]からの続き

 

 小説Fを読んで、強く感じたことが2つある。

 1つは、原作者の、作画者との合作である正編から、キャンディの「物語」を必死で切り離そうという執念みたいなものである。


◆展開の改悪

 正編の方が明らかに優れていると思える展開がいくつもあり、言っちゃ悪いけど、小説Fは正編の劣化版(もっと言えば、改悪版)としか思えない。

 例えば、アニーが孤児院出身であることがイライザに露見するくだり。

 小説Fでは、アニーとキャンディの間だだけでコトが解決してしまう。あれほどキャンディに対しわだかまりを抱えていたアニーが、その当のキャンディに「アニーのバカ!甘ったれるのもいい加減にしてよ!」《下巻p.43》、「ポニーの家の、孤児院のどこがいけないの?」「アーチーに知られるのがなんでそんなに怖いの!?」《下巻p.44》とか正論でもって叱られて(説得されて)、ケロッと素直に反省して仲直りするのだ。仲直りのシーンの2人のやりとり。

「……ごめんなさい、キャンディ……わたし、恥ずかしい」/(中略)/「わたし、アーチーに話すわ。わたしがブライトン家の養女だってこと……ほんとは、ほんとはキャンディと同じポニーの家で育ったっていうこと……」/「そうこなくっちゃ!」/二人はしっかりと手を取り合う。/「変わっていないわね、キャンディ!」/「アニーだって!」/手を取り合ったままふたりは微笑した。《下巻p.45》

 ちなみに、正編では、雨の中、岩場の間に入り込んで一人泣いているアニーを見つけたキャンディがアニーを呼ぶが、アニーは岩場から出て来ない。そこで、キャンディはアーチーに「あなたでなきゃだめなの」と言って、アニーの説得役をアーチーに託すのだ。アニーの心が強くなるのは、愛するアーチーが「きみがでてくるまでここにいる」と言って雨の中待ってくれたからであって、「孤児院出身であること」を“他ならぬアーチー”に「どこでそだとうときみはきみじゃないか」「強くなるんだ」と言ってもらえたからである。

 嫉妬心や後ろめたさを抱いている当の相手キャンディ本人に「甘ったれるな!」などと言われて、アニーの心が氷解するはずないだろう。このとき正編でのキャンディは、「どんなことをしてでもまもってあげる」と、アニーの気持ちにひたすら寄り添い、決して「甘ったれるな」などと残酷な正論を口にしてはいない。

 それに、この一件が起きることで、キャンディ、アニー、アーチーの関係が変わるきっかけにもなっているのに、小説Fではその流れも断ち切られている。

 これは明らかに「改悪」だと思う。

 まだある。

 キャンディが、乗馬するテリィをアンソニーだと錯覚して失神し、テリィに助けられるシーン。長くなるけど正編での展開を敢えて書くことにする。

  • キャンディが夜遅くに庭伝いにステアとアーチーの部屋へ行くつもりが、間違って隣のテリィの部屋へ飛びこんでしまう。
  • そこで偶然、女優エレノア・ベーカーの写真を見つけ、テリィが彼女の隠し子だと知ってしまう。テリィはキャンディに「このことをだれにもいうなよ、いったらおまえを……メチャクチャにしてやる」と口止めする。
  • キャンディはステアたちの部屋へ行き、そこで床に落ちているエレノア・ベーカーのブロマイドを見つける。ステアとアーチーは彼女のファンで他にもあるブロマイドをキャンディに見せるが、その中にアンソニーの写真が混じっていて、キャンディはそのアンソニーの写真をステアたちからもらう。
  • 一方のテリィは自己嫌悪に陥り、夜中にもかかわらず乗馬に。
  • 自室に戻ったキャンディはアンソニーの写真を見て哀しみにくれていたところ馬のいななきを聞き、バルコニーに出る。テリィの乗馬姿を見てアンソニーと錯覚して動転、階段から落ちて失神する
  • キャンディの悲鳴を聞いたテリィは、キャンディを抱えて医務室へ運ぶ。

 、、、となる。このとき、テリィに抱えられたキャンディがうわ言で「アンソニー」の名前を口にする

 一方の小説Fは、これに似たシーンはもっと早い段階で、キャンディとテリィが出会って間もない時期の話として出て来る。聖ポール学院でキャンディが初めて朝のミサに出席し、テリィが乱入騒ぎを起こした(このシーンは正編にもある)直後に、このシーンが挟まれる。テリィの起こした騒動のおかげでミサが長引き、女子たちがテリィの話題でもちきりになっているのを横目に、キャンディはアンソニーのことを思い出す。ちょっと長いけどその場面を抜粋。

そのとき、ふいに森の奥から馬のひづめの響きが聞こえてきた。/キャンディはハッと息を止めた。/(中略)/キャンディは影になって駆けてくる馬上の人を止めようと両手を広げた。/馬のスピードはゆるまない。/「来てはだめっ!」/叫んだ瞬間、キャンディは悲鳴を上げて気を失っていた。/(中略)/「アンソニー!」/うっとりとその名を呼びながら目を開けたキャンディは、次の瞬間、ギョッとして体を起こした。/キャンディをじっと見つめていたのは、テリュース・G・グランチェスターだったのだ。/(中略)/「アンソニー、なんてつまんない名前で呼ばないでくれ」/(中略)/「つまんない名前なんて……あんなすてきな名前はないわ! テリュースのほうがよっぽど、つまらない名前じゃないの!」《上巻p.269~270》

 あのねぇ、、、疾走してくる馬の前に立ちはだかるなんて、文字通り「自殺行為」で、ヘタすりゃ死ぬし、テリィだって大怪我でしょう。ヘンすぎる。

 また、テリィがアンソニーのことを貶すのは、正編では、それがキャンディの初恋の人だと分かった後、つまり無意識の嫉妬から出た言葉であり、上記のように、アンソニーが何者かも知らないうちから無意味に貶めるようなことをテリィが言うシーンはない。貶す内容も「(バラづくりなんかして)ひよわでナヨナヨした奴」レベルの話だ。大体“人の名前を貶す”ってのは、人格を疑いたくなるような言動なんだが、、、。応戦するキャンディのキャラも下げていると思うがどうだろう。(どうでもいいが、アンソニーといえば、あのレクター博士はアンソニー・ホプキンス、、、)

 それに、キャンディがアンソニーと錯覚するに至った経緯は、どう見ても正編の方が説得力がある。アンソニーの写真、そのアンソニーの写真を入手するきっかけとなったエレノア・ベーカーのブロマイド、それがテリィの出生の秘密でもある、、、。実によく出来た構成だと思うのだが。

 小説Fでは、キャンディがエレノア・ベーカーのことを知るのはこの大分後になっており、どうも、一つ一つの出来事がブツ切りな感がある。正編を知らずに読めば「ふーん」だろうが、正編を前提に書いているとしか思えないこの小説で、正編を思い浮かべながら読まれるのは著者も重々承知だろう。であれば、正編より明らかに必然性の感じられない展開は、改悪と言われても仕方がないと思うのだが。

 話は少し逸れるが、正編でテリィがキャンディを助けるのは、あくまで“そっと”である。シスターに命じられてキャンディを医務室のベッドに寝かせた後、再び、キャンディがうわ言で「アンソニー」の名前を口にするのを聞き、テリィはキャンディの閉じた目から流れる涙をそっと拭うのだ。そしてシスターたちが来る気配がすると、テリィは窓から出て行ってしまう。その後、渡り廊下を部屋へ戻るキャンディを、庭から遠く見つめているテリィは、キャンディのうわ言を思い出して気にする、、、という、情緒あるシーンなのに、小説Fではテリィは思いっ切りキャンディに自分が助けたことをアピールしており、ここでもテリィのキャラが変わってしまっている。

 テリィのキャラは、小説Fを通じて、正編よりかなり“改悪”されていると、私の目には映る。余計なことを書き過ぎだし、書くべきことは書いていない。

 展開の改変に話を戻すと、改悪例は挙げれば他にもいろいろある。スザナがキャンディから劇団に届いたテリィ宛の手紙を何通も隠していたり、反対にスザナからテリィと別れさせてしまったことへの懺悔の手紙がキャンディ宛に送られて来たり、、、。どこまでスザナを貶めるのか。ファンサービスかも知れんが、こういう手法は個人的に好かん(私自身がスザナをそれほど嫌いじゃないってのもあるだろうが)。 

 「改悪」が言い過ぎなら、ほとんどの改変に必要性が感じられず、正編を“切り刻んで組み替えた”印象だ。原作者として、やってはいけないことをやってしまっているようで残念極まりない。

 

 

>>>>[3]に続く


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