映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

燃えつきた納屋(1973年)

2019-01-29 | 【も】



 フランスの山間部にある寒村オートドーフで、若い女性の他殺体が見つかった。現場にほど近い“燃えつきた納屋”と呼ばれる酪農を営む一家の下へ、この殺人事件を調べるため派遣された予審判事ラルシェ(アラン・ドロン)が訪れると、彼を出迎えたのは酪農家の女主人ローズ(シモーヌ・シニョレ)だった。

 この農家には、ローズ夫婦とその長男ルイの一家(妻と子ども2人)、二男ポールと妻のモニック(ミュウ・ミュウ)、長女のフランソワーズが暮らしていた。事件当夜、長男ルイと二男ポールはいずれも外出していて、深夜に帰宅したと本人やローズが証言した。

 ラルシェは次第にこのローズ一家に疑いの視線を向けていくのだが、これといった手掛かりはなかった。しかし、一家に何度か接触するうちに、この一家はいろいろと問題を抱えていることが分かってくる。

 一方、ローズの夫は、二男ポールが何か事件に関わっているのではないかと不安に思ったのか、ポールの部屋を調べると、殺人事件で被害者が奪われたとされるスイスフランの現金が隠されているのを見つける。ラルシェに届け出ようとするが、結局、届け出ることはできず、妻のローズに打ち明ける。ローズはポールを問い詰めるが、ポールは「金は見つけたから盗ったが殺していない」と言うばかり。ローズはその大金を自分が預かることにする。

 そして遂に、ラルシェは“燃えつきた納屋”の捜索令状をとって、ローズの所へ家宅捜索にやってくるのだが……。
 
 
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 ちょっと前に見たドラマ版『バーニング』のことをネットで調べたときに“納屋”“燃やす”というワードに反応したのか、本作がヒットし、シモーヌ・シニョレとドロンの共演作と知って興味が湧いたので見てみた次第。地味な作品だけど、胸を抉られる人間ドラマが描かれた味わい深い逸品でした。こういう思いがけない出会いがあるから、映画はやめられないのよ、、、。


◆家族の崩壊

 本作は、一応、アラン・ドロンが主役になっているけど、彼はあくまで狂言回し的な存在で、どちらかというと脇。主役は、シモーヌ・シニョレ演ずるローズである。

 ローズが一家の要であることが序盤で分かる。夫は若い頃に反ナチスのレジスタンスだったとかで、ローズも夫自身もそのことが今でもよすがであるらしい。というのも、夫はどうも人生を諦めたか若しくは達観してしまったかの体で、唯一の趣味である時計の修理のために作業場に籠りきりで、ローズとも会話らしい会話もない様子。たまにローズが作業場に来て「片付けた方が良いわ」と言うと「ここはオレの場所だ、とやかく言われる筋合いはない」と撥ね付ける。

 息子たちはというと、長男ルイは家庭を築いて酪農を継いだのかと思いきや、親の土地を売って、スキーのリフトとスキー客用のカフェを作ることを考えている。二男ポールは、妻のモニックが田舎を嫌って町のホテルでメイドの仕事をしているため、たまにしか妻と会えないせいか、飲んだくれて家業を手伝うでもなく無職の日々、、、。

 あまりにも母親が強くてしっかり家を切り盛りしすぎたからか、息子は2人とも無能なのである。

 この息子たちの無能っぷりが、ストーリーが進むにつれてどんどん暴かれていくのである。二男のポールは最初からダメ男なのが分かるが、長男のルイは、一見普通の大人の男に見えて、無能なだけでなく、ポール以上にクズであることが終盤に明かされる。

 つまり、この一家は、もうずっと以前から、内部から腐敗が進行していて、殺人事件が起きて、外部の人間が家の中に出入りするようになったことでそれが露呈し、一気に崩壊したわけだ。


◆怖い母

 というわけで、本作は、ある家族が崩壊する様を描いているのであります。ドロンの出演作で家族崩壊モノといえば、ヴィスコンティの『若者のすべて』が思い浮かぶけれど、私は本作の方がグッときた。

 それは、ひとえに主役のシモーヌ・シニョレに尽きる。彼女は当時51歳かそこらなんだけど、正直言って、もう少し老けて見える。そして、そういう自分を敢えて偽ることなく晒しているのが素晴らしい。農家の女主人という役どころもあるが、飾り気のない顔に地味な衣裳であるにもかかわらず、存在感は他を圧倒している。アラン・ドロンと2人のシーンがいくつかあるが、完全にドロンは喰われている。まあ、本作でのアラン・ドロンはそういう役回りなんだけど。

 彼女は、『若者のすべて』に出て来たギャーギャーうるさい肝っ玉母ちゃん的な感じではなく、静かで厳しい“怖い母親”である。

 実際、ローズが、大金を隠し持っていたことをポールに問い詰めた際、ポールに「なんでもっと早くに私に相談しなかったの?」と言うローズに対し、ポールはこう答えている……「そんなこと出来るはずがない。母さんは怖い」

 そしてまた、終盤にルイが、実は弟ポールの妻モニックと不倫していたことが分かるのだが、それを知ったローズに横面を張られたルイは、ローズにこんな恨み節を言う。「母さんのせいだ。俺をルシルと結婚させた!」

 2人の息子は、母親の強さに抗えなかったのだろう。ローズが息子たちのことについて語る場面があるが、そこで「あの子たちは勉強が好きでなかった」と言っている。きっと、息子たちは2人ともあまり頭が良くないのだろう。だから、強い母親から自立する術を考えることもできなかったのだ。考えられることと言ったら、2人とも“親の土地を売ること”くらいなのだから。こんな腑抜けにしてしまったのは、母であるローズの罪なのか??

 ルイに「お前のせいだ」と言われたローズの言葉がキツい。「自分が何が欲しいか分からないのは、私のせいじゃない」……果たして本当にローズのせいではないのだろうか。

 もし、ルイがもっと頭が良くて、精神的にも自律できた大人であれば、いつの時点でかは分からないが、いつかは自分で自分の人生を選んだと思う。しかし、ローズは最初から、ルイに対してそれを許さない無言の圧力をかけていたに違いない。だから、ルイは大人になるまでに自ら選択権を手放したのだ。そうしないと、この家では生きていけなかったから。無能になることで自分を守ったのだ。二男のポールもそうだったのだろう。

 ローズとしては、家族を、家を守りたいからこその言動だったのだろうが、結果的に息子2人を無能にし、守りたかった家族を崩壊に向かわせることになったという皮肉。

 終盤のローズが寂しそうに林檎を剥く姿が哀しい。全て失い、挙げ句ポールが発した言葉といえば「俺はこれからどうすれば良い?」というローズへの問い掛けである。この期に及んで、彼はまだ自分で人生を選べないままなのだ。ローズは「知らない、私には関係ない」と突き放す。……そうだよね、これ以上、どうしろって言うの。


◆その他もろもろ

 アラン・ドロンは、当時38歳くらい。彼が判事ってどーなの??と見る前は思ったけど、まぁ、そこまで違和感はなかったかな。何か、ちょっとやつれて見えたんだけれど、この頃、お疲れだったのかしら? とはいえ、凡人が着たらダサくなりそうな白いチョッキみたいなセーター(?)をスーツの下に着ていても、なんだかキマッて見えるのはドロンだからこそかもね。

 シモーヌ・シニョレ以外に印象的だったのは、二男ポールを演じたベルナール・ル・コク。ちょっと特徴のある顔も印象に残るが、愚鈍で病んでいる感じがすごくよく出ていた。なんかもう、本当にどーしようもない男、、、って感じだった。

 あと、義兄と不倫するというトンデモ女モニックを演じていたのはミュウ・ミュウ様。いかにもバカっぽい感じで、雪深い“燃えつきた納屋”に来るのに、超ミニスカ姿とか、もう完全にバカ女を絵に描いたような演出だった。中盤、ローズに「うちに帰ってきて」と言われても、「私は百姓じゃない、そんなの知らない」とか何とか、にべもないところが、モニックという女をよく表わしていたように思う。

 とにかく、この“燃えつきた納屋”のあるオートドーフという場所が、寒そうで寒そうで、見ているだけで鳥肌が立ってくる感じ。架空の場所なのか分からないけど、1年のうち5か月くらいは寒い場所という設定だった。やはり、寒い土地っていうのは、それだけで生きていくのが大変だと、本作を見ていてしみじみと感じた次第。

 余談だけど、字幕がひどい。もう少し何とかならないのか、これ。廉価版DVDだとひどい字幕があると聞いたことがあるけど、、、。NHKのBSとかでオンエアすることがあれば是非録画して、もう一度見直してみたい。

 







シモーヌ・シニョレが圧巻。




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コメント (5)
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