映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

オン・ザ・ミルキー・ロード(2016年)

2017-10-05 | 【お】



 以下、上記リンクよりストーリーのコピペです。

=====ここから。

 隣国と戦争中のとある国で、コスタ(エミール・クストリッツァ)は右肩にハヤブサを乗せ、村から戦争に行った兵士たちにミルクを届けるため、毎日ロバに乗って銃弾をかわしながら前線を渡っている。国境を隔てただけの近所で続く戦争がいつ終わるのか、誰にも分からなかった。

 それでも村には呑気な暮らしがあり、おんぼろの時計に手を焼く母親と一緒に住んでいるミルク売りの娘ミレナは美しく活発で、村の男たちはミレナ目当てでこの家のミルクを注文する。そのミルクの配達係に雇われているのがコスタで、ミレナはコスタに想いを寄せていた。戦争が終わったら兵士である兄ジャガが帰ってきて、この家に花嫁として迎える女性と結婚する。その同じ日に自分もコスタと結婚するという計画をミレナは思い描く。しかしコスタはミレナの求愛に気のない素振りで話をそらすばかりだった。

 そんな折、家に花嫁(モニカ・ベルッチ)がやってくる。ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれたという絶世の美女である彼女とコスタは、お互いに人生を一変させるほどの重い過去の影があり、初めて会った瞬間から惹かれ合うものを感じる。

 まもなく、敵国と休戦協定を結んだという報せが舞い込む。久々に訪れた平和に村人たちはどんちゃん騒ぎを繰り広げる。やがて戦争が終結し、ジャガが帰還する。コスタの気持ちはさて置き、ダブル結婚式の準備は着々と進む。

 しかし、過去に花嫁を愛した多国籍軍の英国将校が、彼女を連れ去ろうと特殊部隊を村に送り込む。残忍な兵士たちによって村は焼き払われ、村人たちはみんな死んでしまう。村に帰る途中で蛇に引き留められたコスタは運よく生き残り、花嫁を連れて決死の逃避行を開始する。

 二人きりとなった彼らの愛は燃え上がるが、追手から逃げ切り、幸せをつかむことはできるだろうか……。
 
=====ここまで。

   
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 確か『エル ELLE』を見に行ったときに手にしたチラシを見て、本作の存在を知った。しかも、シャンテで上映するなんて意外、、、。クストリッツァの信者としては、まぁ、見なくっちゃね。モニカ・ベルッチも出ているし!


◆これまでとは何かが違う、、、。

 というわけで、見に行ったんだけれども、予想に反して重くて、しかも直球真ん中ストレートの悲劇、ってことで、いささか戸惑ってしまった。

 ストーリーはあってないようなもんで、これも、これまでのクストリッツァ作品とは若干趣を異にすると言えるかも。今までの作品は、ちゃんとした背骨があったのだけど、本作も、まあ、あるっちゃあるんだけど、それはストーリーというよりは、むしろ“反戦”という、イデオロギーとまではいかないまでも彼の信念みたいなものであり、もしかして本作が集大成のつもり? などとまで考えてしまい、それはそれでイヤだなぁ、寂しいなぁ、、、と複雑な気持ちになった次第。

 『アンダーグラウンド』を劇場で見た時の衝撃は、今でも忘れられない。もう、とにかく全てに圧倒されてしまい、終わった後もしばらく立ち上がれないほどだった。良い映画は世の中にごまんとあるが、ある意味、『アンダーグラウンド』は良い映画とは言い切れず、しかし、ツボにハマってしまった人にとっては、これ以上の映画はない、と思ってしまう、そういう映画だ。

 『アンダーグラウンド』の凄さについては、いずれ別記事で書く気になれば書こうと思うが、あの作品の魅力は、とんでもなく悲惨な話であるにもかかわらず、それをユーモアと溢れるパワーで描いているので、基本的には人生賛歌になっていることにある。戦争が悲惨な現実しかもたらしていないからといって、決してシニカルに世界を眺めているのではなく、とにかく「絶望の中でも生きる」ことをひたすら描いている。生きる意味など問わない。

 その後、何本も彼の映画を見たが、生きることを、何の前提もナシに全肯定して突き抜けているのが、彼の作品に通底しているものだと思う。

 本作も、ベースは同じだと思うのだが、突き抜け感はなかった。全編にわたって、暗い。もちろん、ナンセンスな、あるいはユーモアのあるシーンも織り交ぜられてはいるが、、、これまで彼の作品から発せられていた強烈なエネルギーは、感じられなかった。それ故、彼も歳をとったのか、、、と思ってしまったのだ。

 本作の評をあちこちで読んだけれども、これまで同様「パワフル」「賑やか」「ハイテンション」「エネルギッシュ」……といった言葉が並んでいた。でも、私には、本作の賑やかなシーンは、そうは見えなかった。これまでの作品が完全なる人生賛歌だったとすれば、本作は、人生の悲哀を全編に感じたといっても良いかも。

 従来のノリを期待して見に行っていたから、期待を裏切られた感じはあるけれど、でもまあ、やっぱしクストリッツァは不世出の映画監督であることは、本作からも確信させられることは間違いない。


◆女性を称えた映画 byクストリッツァ

 本作は、クストリッツァ初のラブストーリーと言われているけど、彼は基本的に人間愛、つまり愛を一貫して描いてきているわけで、本作を“ラブストーリー”だとフォーカスするのもなんだかなぁ、、、という感じがする。

 ただ、本作に暗さを感じる要因は、主人公2人の男女のキャラにあるように思う。つまり、花嫁の方は生きることに貪欲な一方、コスタの方は花嫁を守ることには必死だが、あまり自身の生への執着は感じられないのだ。花嫁を守るためには自分が死んでしまってはダメだ、という感じなのである。

 おまけに、終盤、その花嫁が悲惨な死を遂げることも、暗さを感じることに関係していると言える。しかも、この花嫁のために、コスタの暮らしていた村の人々は全滅させられているのである。それはもう、むごい方法で。この花嫁は、美人にありがちだが、自分の美しさを十分自覚しており、「私の美は不幸しかもたらさない」みたいなことをシャーシャーと言ってのける。コスタに守ってもらっておきながら。

 そんな花嫁の描写に説得力を持たせているのが、モニカ・ベルッチの美貌であるのは言うまでもない。絶世の美女だからこそ成立する悲劇なのだ。

 さらに言えば、花嫁が死んで15年後のコスタが、ラストシーンで描かれるのだが、どうもそのシーンが宗教っぽく感じられ、それもちょっと重さを感じた要因であり、違和感を覚えた。

 果たして本作は、本当にラブストーリーなのかなぁ、、、。

 『レオン』では、マチルダを守らざるを得なくなったレオンとマチルダの間に、恋愛の“愛”があったと感じたけれど、本作のコスタと花嫁の間には、なんというか、人として守らなきゃダメだろ、的な生き残った者同士の同志愛をコスタには感じたのだけど。

 パンフでは、「あなたは初めてラブストーリーを作りましたがなぜでしょうか?」という質問に対し、クストリッツァはこう答えている。

 「僕の映画はいつも、自分がどのように人生をとらえているかを示しているのです。今後は、自分を愛のために捧げたいと思います。そう、愛のためにこそ行動を起こしたい、残りの人生は、そう思い続けるでしょう」

 やっぱり、私には、狭い意味でのラブストーリーではなく、人類愛的な意味でのラブストーリーという風に感じるのだけれど。

 ちなみにクストリッツァは、本作について「今回は女性のための映画だと思っています。女性たちがパワーを見せつけているのです。男たちは、彼女たちが目標を達成することを時折手助けしているだけです。これまで何本も映画を撮ってきましたが、“女性を称えた映画を作るときがやってきた”と悟りました」と言っている。


◆お約束のシーン盛りだくさん。

 これまでのクストリッツァ映画と違う! とは感じたものの、クストリッツァ映画のお約束は本作でもしっかり守られていた。

 動物がいっぱい出てくること、結婚式のシーン、水中を花嫁が泳ぐシーン、空中浮遊するシーン、そしてバルカンミュージック、、、、どれも全部あった。

 特に、動物が本作ではひときわ活躍する。鍵になるのは蛇。蛇がミルクを飲むシーンとか、コスタに絡みついて身動きとらせなくしたりとか、すごく大事な存在として活躍する。動物のシーンは、蛇がコスタや花嫁に絡みつくシーン以外はCGナシだったというのだからオドロキ。コスタがいつも肩に乗せているハヤブサが、音楽に合わせてリズムをとるシーンは最高。

 相変わらず、画的な美しさは素晴らしく、これはスクリーンで見なきゃもったいない。セルビアのタラ山という山岳地帯と南部中心都市トレビニェでのオールロケで、撮影に3年掛かったというのも納得。

 愛の逃避行の相手に、決して若くはないけれど絶世の美女モニカ・ベルッチを選んだ辺りがニクい。ファンタジーの中の、妙なリアリティ。

 クストリッツァ教の信者の多くは本作を見ているはずだが、皆はどう感じたのだろうか、、、。興味津々。








『アンダーグラウンド』を超える作品は早々出てこないとは思うが、次作を期待。




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