★★★★★★★★☆☆
映画友がオリヴェイラが好きだから見たいと言うので、新聞にもまあまあの評が載っていたのをチラ見していたこともあって、見に行った。劇場の観客の年齢層、高い・・・。若い人は数えるほど。やはり、内容が内容だからかしらん。
さて、これは暗い。メチャメチャ暗い。画面も内容も。オープニングはなかなか美しい映像で、シベリウスのVnコンチェルトもなかなか素敵。・・・が、最初だけだった、多少なりとも明るかったのは。
帳簿係の年老いた男ジェボが家に持ち帰って帳簿付けの仕事をしているその横で、クラウディア・カルディナーレ演じるところの妻が、口汚く罵るのだ。「アンタはつまんない男。こんな人生になったのはアンタのせいだ」と。彼女のその時の顔が怖い。そのくせ、この妻は、自分で人生を切り開く努力はして来なかったらしい。「仕方なかったのよ」と言い訳の嵐。それを、息子の嫁が哀しげに見つめるというその光景。貧しい一家の暗~い光景。もー、目を背けたくなる暗さ。
こういう、愚痴ばっかり言う人が家にいると、その家の雰囲気は間違いなく暗くなるんだよね。私の育った家庭がそうだったから、よく分かる。母親の愚痴や文句を聞かない日はない、ってくらい。それに黙って耐える父親。この場合の父親は2通りに分かれる気がする。1つは、私の父親のように諦観の域に早々に達してしまう人。もう1つは、本作のジェボのように、それでも妻や我が子を思いやらずにいられない人。
出奔した息子は8年ぶりにフラッと帰ってくるが、これが、またとんでもないロクデナシ野郎。まあ、あの母親ならああいう息子が育っても当然とは思うが・・・。それでもジェボは息子を責めない。愚痴る妻も責めない。そんなジェボをそっと見守る嫁。嫁が8年も出て行かずに夫婦のもとにいたのは、このジェボの優しさや実直さに惹かれ、癒される部分があったからだと思うけれども・・・。
元が戯曲ということもあってか、ほとんどが、薄暗く狭い部屋の中で進行していく作品。劇場でも寝ている人がチラホラ。セリフも繰り言っぽいので、やや単調といえば単調だけれど、なかなかシビアな人間模様が容赦なく描き出されていて、グッとくる。
貧しいって、ここまで人の心を荒廃させるのか、と妻や息子を見ると思う半面、こうまで追いつめられても家族のために身を挺することができるのかと、ジェボや嫁を見ると思う、という両極を見事に描いた逸品。