私が住んでいる宇治市に志津川地区というのがある。宇治川を遡り天ヶ瀬ダムの脇道を北へ入ると小さな盆地のような農村風景が広がる。しかし宇治市の中心市街地からもかなり近いので、住宅もかなり建てられており、農村とまでは言えないかもしれない。全体的には四方を山に囲まれているので、非常に落ち着いた静かな場所と言える。その中に神社が一箇所あって、それが今回訪れた神女神社。
志津川地区の中心部から少し山裾に入ったところにあって、車を置いて石段を上がっていく。石段も境内も苔で覆われており、非常に長い歴史を感じさせるが、実際には下に掲載した資料にある通り、明治6年の創建となる。詳しい由緒等についてはその文書資料を掲げているのでそれを見ていただきたい。
その文書によると、かつてこの小さな地域に三つの祠があり、何も神社としての形態を成しておらず、それを一つにまとめて村社として成立させたのが、この神女神社だ。
ということは、神社とは言えないまでも、ずっと以前から三箇所の小さな神社らしきものがあったということになり、おそらくそれはかなり長い年月を越してきたものだろうと思われる。
この志津川地域にはかつて、源平の争いにより平家の落人がこの地に移り住んできたと言う伝承がある。実際にはどうかわからないが、平家の特に平清盛が尊崇していたというのが、今の広島の「厳島神社」であり、その祭人の一つが、「市杵嶋姫命」だ。これは記紀の神話に登場する女神であり、ここの神社の名前も女神から取られたものだと考えられる。
このことからこの地域に、平家の落人が住み着いたと言う伝承が、史実ではないかと考えられるようになっている。
この祭神が祀られている厳島神社というのは、全国に同名神社があるが、広島の厳島神社が総本宮となり、各地に勧請されたものが創建されている。そしてこの志津川地域から少し北側にあるのが、宇治市莵道地区の厳島神社だ。もちろん祭神の一つは市杵嶋姫命であり、やはり平家落人との関連が十分に考えられる。同時に宇治川の近くということもあり、暴れ川であった宇治川を鎮めるためにも厳島神社の必要性が当時としてはあったんだろう。
石段を登った上に境内があるのでかなり狭い。その中に割拝殿、そして本殿がある。ともにかなりしっかりした造りであり、建物の一部は、かつては三社あった祠の中から移設されたものだと言われている。
周囲は山の緑に囲まれており、境内も苔むしており、全体が緑に包まれていて、撮影した画像も全体的に緑がかったような印象となる。志津川地区の人々にとってみれば極めて大切な神社として位置づけられているのだろうと思われる。そのうちの一部の人たちが平家落人の子孫であるならば、なおさらのことだろう。そこまで詳しいことはわからないにしても、伝えられた話としては根拠のないことはないだろうと思われるので、一定の真実性があるものと考えるほうが自然だろうと思う。あまり知られていない無名の神社かと思っていたが、色々な資料、ネットも含めて調べてみると、案外多くの情報があった。
近くにはこれまたあまり知られていないようなお寺があるが、実はそうでもないらしい。そのお寺にも近いうちに訪れてみようと思っている。
『神女神社明細帳
◎旧村社・宇治市志津川龍ヶ壷一番地(境内地・四百五十坪)
◎御祭神・市杵嶋姫命(いちきしまひめのみこと ),【合祀】 誉田別尊、大物主命、猿田彦命
◎由緒・(大正十四年十二月記の『神女神社明細帳』による) 創立ハ明治六年八月、旧志津川村ノ各所 ニ小祠三箇所アリテ、各氏子ヲ異ニシ、村社ノ資格不備、依テ新ニ神殿ヲ此地ニ造営シ、各小祠ノ祭神ヲ合祀ス、傳云氏子ノ祖先ハ平家ノ一族ナリシヲ以テ、厳島ノ神ヲ尊崇ス故ニ、各小祠祭神ノ内、市杵嶋姫命ヲ主神トシテ奉齋ス。明治六年八月、村社ニ列セラル。
◎社殿・三間社堂宮造 [拝殿] 割拝殿
神女神社. 由緒
【祭神】 市杵嶋姫命 (猿田彦命他三坐を合祀) いちきしまひめのみこと さるたひこのみこと
【由緒】 明治六年、旧志津川村にあった三か所の小さい祠を、現在の神殿に合祀して、「厳島の神(市杵嶋姫命)」を主祭神とした。
【社殿】 ◎本殿⇒三間社堂宮造 ◎拝殿⇒割拝殿
《市杵嶋姫命について》
天照大神と素戔嗚尊との誓約の際にお生まれになった神様。弁財天とも符合、また「市場守神」として信仰された。 ※音楽、知恵、財福などを司る。
祓詞 (はらへ・ことば)
掛けまくも畏き、伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に、御禊祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神等、諸々の禍事、罪、穢有らむをば祓へ給ひ、清め給へと白す事を聞こし食せと恐み恐みも白す。
※ 祭事および参拝時には『二拝二拍手...... 祓詞、 二拍手、一拝』を励行してください。心身 共にすがしく、ご家族にまで清い心が浸透して、明るい日々を過ごすことができます。』
(説明書より)
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