kirekoの末路

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シナリオ【再会】-4

2006年09月25日 18時31分48秒 | NightmareWithoutEnd
PM10時26分 研究施設ガイア1F 中央エレベーター

巨大な研究施設ガイアの1Fは不気味な静寂に包まれていた。
内部は程よい数のブルーを放つ蛍光灯に照らされ
通路の隅々まで綺麗な青白色を反射させている。

その眩しさは、化け物の出る地下鉄道や死人の出歩く駅の
『闇の世界』とは比べ物にならないほど明るく、
今にも奥から人がゾロゾロと出てきそうな長い通路は
照明機材と相まって、どこかひと気のある
都会のスタジアムに来たような錯覚を覚えさせるほどだった。

中央エレベーターに続く長い一本の道の両側には、
それぞれ目的の違う研究室であろう部屋のドアがあり
一つ一つに金属のプレートがはめ込んである。

『109-水耕栽培実験室』
『110-水棲生物実験室』
と書かれたドアを、大小様々な銃火器を軽々と持ちながら
周囲を警戒し小走りに通り過ぎた九人の前には
巨大な三つの白と銀塗りのエレベーターが現れるのであった。


「これがガイアの中央エレベーターか…流石に大きいな」
隊長であるレンが足を止め、突撃銃AKMを肩にかけると
じっくりとエレベーターの外部を見始める。
どうやらエレベーターの端末を探しているようだ。
エレベーターは、通路ごとにそれぞれ三方面に分かれていて
その壁やドアには白と銀の二つの色がバランスよく配色されており
ともすれば機械的になりがちなエレベーターという素材を
古代の西洋の神殿を思わせる美しい円柱に仕上げている。


「なかなか良いセンスの内装じゃない?外から見たときは威圧感さえあったけど」
ケリーが散弾銃べネリM4スーパーを腕で抱えるように持ち
エレベーター周辺の通路を警戒しつつ、
目に入った美しい白と銀の美しい円柱のデザインに
一瞬目を奪われ、任務中だと言うのに私語同然の率直な意見を浮かべる。


「化け物の巣のど真ん中にしちゃ豪華すぎるぜ。意外っちゃ意外か?」
ケリーと同じ通路を警戒していたフィクシーは
ケリーの率直すぎる感想に対して、緊張感をほぐすためにも会話に応答する。
しかし、肩から提げたカービンタイプの突撃銃M4A1は下ろさずに
常に腰より上の位置で構えている。
少し震える利き手の右指が、まだ化け物と遭遇したときの恐怖心を
他の隊員ほど拭い去れていないことを無言で知らせている。



ズッ…ズッ…


「…静か…過ぎるわ」

「そうだな…そろそろEチームとSチームの足音が聞こえてもいいころだが…」
重苦しく逆側の通路を見張る綾香とパイ。
たしかに自分達より早くここにたどり着いているはずの
EチームとSチームの姿はまだ見えない。
二人の表情は重く。瞳は氷のような冷たさを保ったままだ。


「…?何かしらこれ…この通路だけひどく濡れているわ…まるで誰かが歩いた跡みたいだけど…アッチの通路へ続いている…?」
綾香は大量の水滴がついた床を発見し、不思議そうな表情を浮かべる。
二、三回周りを見ると、どうやら水滴がついているのは
この通路だけらしい。


「どうしたQUEEN、何か見つけたか?」
綾香の不審な行動に、パイが話しかける。
まるで食い入るように床を見る綾香の姿は
パイでなくても怪しがるところであろう。


「いえなんでも…ちょっと、この床の濡れ具合が気になっただけよ」

「…外は雨だったのを忘れたのか?ボケるのはまだ早すぎるぞ」
パイのいつもは見せない素っ気無い軽い応答に、
綾香は納得するような表情を浮かべたが、内心は納得していなかった。

たしかに外はさっきまで雨だった。
そう思えば普通なのだが、あまりにも大量の水滴が人の足を象ったように
通路にびっしりとくっ付いていることが不思議でならなかった。
自分達が通ってきた通路にそれはない。
それが、ますます綾香の気持ちに疑問を抱かせていたのだ。


ガンッ!ガタンッ


そのとき、レンが何かを発見したように
エレベーターの壁の一部を食い入るように見つめだした。
付属の小型コンソールで静寂のフロアを前に
カタカタと小気味いい音を出しつつ何か作業をしている。


「…これがスイッチ端末か。一号機用、二号機用・・・チッ、どれも破壊されている。どういうことだ?」
円柱状のエレベーターの白銀の壁の中央に
基盤が丸のまま投げ出されたような形で露出する。
レンの憤り加減を見る限り、どうやら破壊された形跡があったようだ
電気は通っているが、エレベーターは正常に作動しない。


「基盤が壊されているということはSチームかEチームか・・?」
レンは少し考え込むと、フッと基盤の周りを覗き込む。
化け物が傷をつけたような傷跡じゃない。
2,3の部品を削り、回線を切り基盤をショートさせている繊細さから
それ相応の技術をつんだ技能者か、回路に詳しい人間であることを
その基盤は示唆していた。


「隊長、こんなものが…」
その様子を後ろから見ていた貴美子が、研究室のドアから
1m程離れたあたりに落ちていた比較的新しそうな長方形の2枚綴りの
メモのようなものをレンに見せた。


「うん…?これは…?」
メモを渡されると、レンは文章を読み始めた。


【研究員のメモ1/2】
『110-水棲生物実験室レルネの沼で保管していたH・BOW試作品
 H-BOW・P2ヒュドラがチタン製の防護壁を破った。
 レルネの沼で報告を行っていた研究員4名の死亡を確認した。
 非常事態として地下8層のメイン管制実験室タルタロスに連絡をとったが
 まったく連絡が取れない。いったいどうなっているんだ。
 チーフと相談した結果、状況が飲み込めない現状の
 危機が去るまで1Fの研究員全員は
 全員地下7層のシェルタールームで待機することにした。
 念のため、中央エレベーターの1F外部基盤は破壊した。
 知能の発達したヒュドラが下の階層に来ては厄介だからな

 もしこれを読んでいる逃げ遅れた研究員が居たら
 警備員詰所の非常用貨物昇降機を使ってくれ
 あそこなら非常時でも稼動しているし、我々が空調を操作して
 今頃50度以上除湿の高温状態にしておく。
 これなら、あのヒュドラも迂闊には近づけないはずだ。』



「・・・(H・BOW…すでに開発段階だったか)」
沈黙し始めたレンは、何か考え込むようなそぶりを見せると
何かに焦るような感じで少し表情が暗くなる。


「おいKINGさんよ!ちんたら読書に浸ってる時間はねえぜ。エレベーターはまだ動かないのかよ」
フィクシーの声が周囲に響くと、レンは慌ててメモをベストの内側にしまう。
そして、部下達が周りを警戒する中ようやく二枚目のメモを見る。


【研究員のメモ2/2】
『番号 H-BOW・P2
 名称 【ヒュドラ】
 識別 水棲生物複合媒体型
 体長 182cm (首を含めた)全長335cm
 体重 265、8kg
 食欲 非常に旺盛 日に200~220kgを摂取
 知能 中(レベル4程度の機材は使用できる模様)
 性格 凶暴。濃硫酸を吐きかけることあり。
 特徴 9つの頭を持つ。生命力高。低温多湿を好み、乾燥高温を嫌う。』



「…むぅ、しかたないか」
少しため息まじりの声と共にレンは立ち上がり
そこにいるメンバー全員に伝わるような声で言った。


「どうやらここで『緊急事態』が起きたようだ。エレベーターの復旧は外部からは無理のようだ」

「KING、復旧ができないって…おい、どういうことだよ?」
あまりにも唐突な話で、少し面食らっていたフィクシーが声をあげる。
フィクシー以外の他の隊員も、同じような表情をしている。
たしかに納得できない話なのだ。
前情報で聞かされていた話だと、このガイアには『生存者』は居ないはず。
たとえば化け物がここに来てエレベーターそのものを破壊したならわかる、
だが美しい白銀の壁や清掃状況を見ても、化け物が通ったような跡は無い。


「我々は警備員詰所の貨物昇降機から地下8Fへと向かう…」



ドガガッ!ドガガガガッ!!


そうレンが言いかけると、後ろでけたたましい銃声が聞こえた!
Aチームが守っていた後方から聞こえる銃声の意味。
それは『倒すべき敵』が現れたことを知らせていた。


スタッタッタッタッ!


Aチームの隊員と思われる三つの影が、激しい足音をたてて
こちらに向かって走ってくる!


「逃げろDチーム!コイツは我々の手に負えない奴だッ!」
パッショーナらしき声が聞こえると、三人の中の一つの人影が立ち止まり
後ろから来る何かに対して突撃銃を発砲し始めた。



ズダダダッッ!ズダダッッ!


銃弾の先が照明に照らされ、その奥に存在する化け物らしい
巨大な人影に向けて発砲されたが、空薬莢が床にむなしく落ちる音だけが
研究室の壁を反響して聞こえる。


ピチャッ・・・ピチャッ・・・ズル・・・


人影は何も無かったかのように
Aチームの隊員めがけてゆっくりと歩いてくる。
だんだん照明に照らされて、人影の全容がうっすらと浮かんでくる。



その姿は人間に酷似していたが、
全身が黒ずんだ緑色と灰色に分けられ
上半身には2つのか細い腕が存在し、
人間の顔半分のようなものが首の付け根に生えている
下半身には何か藻のような鱗が張り付いていて、
足元からは粘度の高そうな水適らしきものが
ポタポタと落ちている。
顔半分の上には巨大な蛇のような太く長い九つの首が
天井に向かって伸びていて、口らしきものを開閉させて
照明に当たってギラリと光る鋭い牙が光り、ニョロニョロと
物体一つ一つが嫌悪感を掻き立てるような動きをしている。



「この化け物野郎が!!!その長ったらしい首を狩ってやる!」
Aチームの隊員が弾丸の切れた銃を化け物のほうへ投げると、
ベストから大型のナイフを取り出し、まるでヤケを起こしたかのように
化け物に向かっていく!


「ダメ!その化け物に近づいちゃ・・・」
Aチームの女性隊員のレナが化け物近づいていく隊員を横目で見ながら
声を放つが、すでに隊員は化け物の首の近くまで寄っていっていた。



ピチャッ・・・べチャッ・・・・



「この野郎ッッ!!!」



ブンッ!


隊員がナイフを振りかざした瞬間だった。


シュルシュル!シュルシュルシュル!


化け物は蛇の首を隊員に向けて
高速で放つようにしならせて、隊員の体に巻きつけた。


「な、なんだ!くそ!身動きが・・・うごッ!ぎゃあああッ!


バキッ!・・・バキバキバキバキバキ!


骨がきしみ、折れる音が聞こえると蛇の首は巻き絞めるのを止めて、
絶叫をあげる隊員の軟体生物にように崩れ落ちた砕けた体を見て
まるでニヤッと笑うように口元を動かすと、その隊員を再び
蛇の首で持ち上げた。



ピチャッ・・・ピチャッ・・・


「た・・す・・け・・・て・・」
隊員の言葉にならない声もむなしく
蛇の首は隊員の体を空中に投げると、容赦なく体をくねらせ
体をむさぼり始めた。



見るに耐えない光景がD、Aチームの目の前に広がった。
隊員の体は化け物の首に残忍にばらばらに食いつかれ
腕や足や首が食われると、最後には真ん中に存在した化け物の首に
体ごと丸呑みにされてしまったのだ。




「あ・・・あ・・・・」

「止まるんじゃない!お前もああなりたいのか!」
光景を目の当たりにし、いつの間にか足が止まっていたAチームのレナを
隊長であるパッショーナが無理やり腕を引き、逃げさせる。



「全員警備員詰所まで退避!あいつには構うな!」
レンがそう言うと、光景を見ていたフィクシー、貴美子、ケリー、パイは
作動しないエレベーターの先に見える通路を走り始めた。
その表情に、誰一人余裕は無かった。
目の前で行われている化け物の狂気の宴を見ていたからだ。



しかし、一人だけそこに立ち尽くす者が居た。



「あんた達化け物は一匹残らず狩ると決めたのよ…例外は無いわッ!!!」



怒号にも似た一言を放つと、綾香の体はすでに化け物のほうに向かっていた。



「あ、綾香何をッ!」

「貴美子ッ!振り向かないの!早く行くわよ!」
綾香の走る姿を見て貴美子は振り返ろうとしたが
ケリーに腕を引っ張られ、方向を変えられてしまう。
ケリーの表情に決して余裕はない、今行ったら貴美子もやられてしまうと
思ったからだろう。



「QUEEN…チッ馬鹿がッ!」
綾香の姿を横目で見たパイは舌打ちすると
綾香の後ろを追いかけるように体を翻し
化け物のほうへ向かっていく。




ピチャッ・・・ピチャッ・・・・




逃げてくるパッショーナたちをも追い抜き
綾香とそれを追うパイは、
ゆっくりと近づいてくる化け物の前へと歩を進めるのであった。

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