東アジア歴史文化研究会

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「強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結」(『週刊新潮』2018年12月6日号 櫻井よしこ)

2018-12-07 | 台湾情勢
2018.12.06 (木)

米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持するのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市でも、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまったのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解していないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙するという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらないことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家の危機に当たることだ。台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のように、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行われた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請することだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるように工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにしても、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷となる。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらない。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をするだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければならない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておかねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領がNATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこそ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

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