東アジア歴史文化研究会

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日中首脳会談で得した中国【石平のChina Watch】

2018-11-07 | 日中関係
2018.11.1

先月下旬の安倍晋三首相の中国訪問で、より多くの得点をあげたのは中国の方だ。

まず、金融危機時に互いの通貨を融通し合う通貨スワップ協定に関して、金融危機発生の可能性が高いのは中国の方だから、両国間で合意された協定の再開は当然、いざというとき、中国が日本に助けてもらえる意味が大きい。

さらに、日中間で確認した「第三国での経済協力」は事実上、中国が提唱する「一帯一路構想」に沿ったものである。タイでのスマートシティー開発など52件の事業協力に関する日中企業間の覚書の締結が発表されたが、日本政府と日本企業はこれで、中国主導の「一帯一路」に深く関わることとなった。

周知のように、習近平政権肝煎りの「一帯一路構想」は今、欧州連合(EU)諸国からもアジア諸国からも反発され、四面楚歌(そか)の状況だから、日本政府のバックアップで日本企業がこれに参加してくることは、中国にとってまさに干天の慈雨である。

10月27日付の人民日報によると、安倍首相は習近平国家主席との会談で「一帯一路は潜在力のある構想だ」と、習主席が望むところの、一帯一路を評価する発言までを行ったという。

中国が手に入れた成果は別にもある。米中貿易戦争の勃発以来、中国国内では経済の減速が顕著となり、企業経営者や一般国民の間で沈んだムードが広がっている。こうした中で、日本の首相が北京を訪れ、「協調」を語り、救いの手を差し伸べたこと自体、中国政府にとって国民の失望感を払拭するための好材料となり、中国経済を延命させるためのカンフル剤にもなろう。

日中首脳会談の翌日、中国国内の大小の新聞は一斉に、安倍首相訪中のニュースを1面で大きく掲載した。今回の安倍首相訪中で、「自分たちが大々的に宣伝できるほどの成果を手に入れた」と習政権が認識していることがこれでよく分かるだろう。

とにかく安倍首相の訪中は中国側にとっては良いことずくめの感であるが、それに対し、日本側はどのような外交上の成果をあげたのか。

安倍首相訪中のわずか1週間前から、中国船は4日連続で尖閣諸島周辺の接続地域に侵入してきたが、中国側のこうした挑発行為への防止策は日中首脳会談の議題にすらならなかった。福島第1原発事故以来続いている日本産食品輸入規制について、日本側が「規制」の緩和を求めたのに対し、中国側は「科学的評価に基づいて緩和を積極的に考える」と述べるにとどまった。

安倍首相が手に入れた最大の成果は、「拉致問題解決への協力」の意思表明を中国首脳から引き出したことだ。しかしそれは単なるリップサービスである可能性もある。習主席らが実際、日本のために北朝鮮に働きかけてくれるかどうかはかなり疑わしい。

結局日本側にとって、これといった成果はほとんどない。その代わりに大きなリスクを背負うこととなった。

西側先進国からもアジア諸国からも「新植民地政策」だと厳しく批判されている「一帯一路」に関わることで、日本と日本企業は、「新植民地政策」の加担者だと見なされることはないのか。

米国のトランプ政権が中国との新冷戦状態に突入している中で、日本の中国への過度な接近と迎合はアメリカから「裏切り」だと見なされて、これで日本の生命線である日米同盟に亀裂が生じてくる危険性はないのか。

そしてそもそも、こうしたリスクを背負ってしまうまで、中国との関係改善を急ぐ必要性が日本にどれほどあったのか。それこそは安倍首相が国民にきちんと説明すべきことであり、われわれが真剣に考えておくべきことであろう。

石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
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