第144回東アジア歴史文化研究会(3月15日)での渡辺利夫氏の講演の後半部分が、以下の記事と重なるところが多く、韓国の主権国家としてはありえない、劣化した現実を見事に表現しておられるので、ぜひお読みいただきたいと思う。
福沢諭吉が『脱亜論」を書いて133年、日本は再び東アジアの地政学リスクに直面している
「明治維新から150年、日本の立ち位置、外交・安全保障をどう構築するべきか」
(「財界」2018.3.27 拓殖大学前総長 渡辺利夫氏)

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明治維新150年を迎えて、日本の立ち位置、国のあるべき姿をどう構築していくか。「今こそ明治維新のリアリズムに学ぶ時」が持論の渡辺利夫氏(拓殖大学前総長・学事顧問)は東アジアの地政学を切り口に、このほど『決定版 脱亜論』(育鵬社)を刊行。かつて133年前に福沢諭吉が『脱亜論』を掲げ、欧米に伍する国づくりを進めようとした事実を背景に、これからの日本の立ち位置を指摘してもらった。
韓国は「事大主義」
―― 昨年末、『決定版脱亜論』を出版されましたが、改めて北朝鮮を巡る地政学リスクがある中で日本の立ち位置をどう定めるかが問われている時だと思います。
渡辺 韓国を見る時に「事大主義」があれほど強い国はないのではないかと思います。600 年以上前に李氏朝鮮が始まって以来、この国は隣の清国に圧倒的に依存していました。李朝末期になると政争や内乱がしばしば起き、その度に朝鮮は清国に派兵を要請しています。
―― 事大主義は朝鮮半島を見る時に重要な視点ということですね。
渡辺 中国と韓国は対等な国家関係ではなかったのです。朝鮮からすれば中国は君主で自らは臣下だという君臣関係にあります。ですから、朝鮮には自立しようという考えが極めて薄かったのではないでしょうか。明治日本の指導者たちは、中国と朝鮮の君臣関係を切断し、朝鮮を自立独立の国家としなければ日本の安全を保つことができないと考えました。伊藤博文内閣の外務大臣だった陸奥宗光は特にそういう考えでした。緒論ある中で、1894年には日清戦争に踏み切るのです。
―― 本の安全を守るための戦争であったと。
渡辺 ええ。日本の自衛のために中国、朝鮮の関係を絶とうとした。日本は維新を成功裏に終え、近代化のノウハウを持っていましたから、それを朝鮮に伝授しようとしたのです。その最先端にいたのが福沢諭吉です。福沢が創立した慶慮義塾は、日本の教育組織の中で初めて留学生を受け入れた塾ですが、それは朝鮮人です 。当時、朝鮮人の中にも日本の明治維新に類した近代化、文明化の運動を起こさなければならないと考えた「開化派」と呼ばれる一派がいました。その何人かを慶麿義塾が受け入れ、帰国させ、さらに福沢は自らの門下生を朝鮮に送っています。
福沢は現地の門下生との問でモールス信号を使って交信し、朝鮮で何が起きているかという情報を、かなり高い確度で得ていました。さらに開化派のクーデターを支援するために相当数の刀まで送っています。実際その刀を使って金玉均をリーダーとするクーデター 、「甲申事変」が起きましたが、三日天下に終わりました。
―― 日本は日清戦争に勝利しましたが、その後、ロシア主導の「三国干渉」で妥協を余儀なくされますね。
渡辺 ええ。戦争には勝利したものの、ロシア、ドイツ、フランスによる「三国干渉」によって遼東半島という最大の戦利品を手放さざるを得なくなりました。下関講和条約からわずか10日ほど後の出来事です。これを朝鮮は見ていて「日本侍むに足らず」と考え、朝鮮を保護してくれる相手はロシアだと考え始めたのです。再度の事大主義です。
朝鮮は、考えてみればかわいそうな国で、中国、ロシア、そして日本という巨大な国に固まれて身動きが取れない国ですから、地政学上の意味から事大主義は避けられない。しかも事大主義を正当化する論拠である儒教の本家本元は中国ですから、マインドも中国的なものになってしまう。
左派勢力が台頭し「親北」が強まる
―― 事大主義がDNAのように染み付いてしまっていると。
渡辺 ええ。太平洋戦争が終わり、日本統治が終結、朝鮮は新しい国家となりました。朴正照の時代において、韓国は明らかに経済発展をしました。日本から部品や原材料、技術を導入して、賃金の安い労働力を使って製品を作り、米国市場に輸出したのです。韓国の対日貿易は一貫して赤字、対米貿易は黒字という構図です。
アジア太平洋におけるトライアングルの中で、韓国はあれだけ発展することができた。私が韓国を勉強し始めた頃、ついに中国やロシアのくびきを脱して、「陸の朝鮮」から「海の韓国」に変わったという評価をしたものです。
―― 1人当たりGDP(国内総生産)も高まり、OECD(経済協力開発機構)にも入りましたから先進国の仲間入りをしましたね。
渡辺 しかし、ゆとりが出た途端に中国への依存心が頭をもたげてくるのです。中国と韓国が国交を回復するという、当時からすればあり得ないことが起き、旧ソ連とも国交を樹立しました。今の経済構造を見ると、北朝鮮はもちろんですが、韓国も対中貿易や韓国企業の対中進出を考慮せずして、経済が成り立たない状態になってしまっています。
朝鮮が自立した近代国家として日本と対等に付き合い、外交する固になるという姿から、韓国の現実は再び遠いところに行き始めています。かといって日本はもう一度日清戦争をやるわけにはもちろんいきませんから、対韓政策についてはオプションがないのが実情です。
―― そうした歴史的な流れを背景に現在の文在寅政権をどう見ていますか。
渡辺 現在の政権になってから状況は一段と悪化していると思います。 李明博、朴槿恵と保守派政権が続きましたが、朴槿恵の追放劇に始まって親北・左派の文在寅が当選しました。振り返れば金大中政権の時から左傾化が始まり、盧武鉉政権が始まった頃から「親北」、むしろ「従北」的な傾向を強く持つ左派勢力が大変な勢いで体制内に入ってきました。
盧武鉉時代から、「もう在韓米軍はいらない」と言い始めています。正確に言えば、朝鮮戦争を戦った時には米国を中心とする連合軍でした。今でも連合軍と北朝鮮との聞は休戦協定があるだけです。北朝鮮の先制攻撃から身を守るために在韓米軍が不可欠なわけです。それを裏付けているのが米韓相互防衛条約、つまり米韓同盟であり、その司令塔が米韓連合軍司令部です。戦争時には作戦のトップを米軍が握る仕組みです。
左派勢力からすれば、そんな重要なことを米国に任せるのは腹に据えかねるという気分なのでしょうね。そこで、盧武鉉時代の2005年頃から米国と戦時作戦統制権を韓国に戻そうと交渉し、07年5月に「撤収」が完了することになっていました。
韓国保守派の嘆き
―― しかし、現実にはそうなっていないという東アジア情勢の現実です。
渡辺 ええ。韓国人からすると大変に不安なわけです。そこで、李明博政権が還収を日年まで延期、朴槿恵政権が無期限延期にして現在に至っています。しかし文在寅は盧武鉉の秘書室長を務めた、慮武鉱思想の継承者です。北から南をいかに守るかという問題よりも、南北統一の方のプライオリティが圧倒的に高い。統一が実現すれば安全保障論不要となると考える人が、今の韓国政権を握っているのです。
―― 平昌五輪でも南北友好を演出しましたが、韓国の対北朝鮮政策と外交・安全保障政策を外から見ていて、常に揺れ動いているように見えますが。
渡辺 韓国には建国の論拠がないということが背景にあります。つまり、李朝末期に日本に統治され、その日本が第2次大戦に敗北したことによって自ずと独立してしまったのです。例えばインドは対英、インドネシアには対蘭の激しい独立闘争の時代がありましたが、韓国には独立闘争の「物語」がない。
韓国としては、その物語がないことには耐えられませんから、中国の重慶に独立臨時政府というものが存在したと言っています。文在寅が中国を訪問した際に、そこを見学したというニュースがありましたが、あえてそういうことをするというのも、韓国の心理的な不安定感の表れです。
対する北朝鮮は、これも真実ではありませんが、国境沿いの白頭山の向こうに対日武装闘争をやった部隊があり、その指導者が金日成だったという、多分に「神話」的な物語があります。日本の警察署を1、2ヶ所襲撃したことは事実のようですが、独立闘争ではありません。しかし、神話が北に出来上がっているのです。
日本人はみな、それは事実ではないと考えるでしょうが、建国神話がなく、アイデンティティが薄い韓国では、こんな神話みたいなことが簡単に信じられてしまう。韓国の教科書でも、北朝鮮は対日武装闘争を展開したというのは嘘話ですが、建国の物語を持たない韓国では、北朝鮮の神話に引っかかってしまう。同胞意識と、建国神話の欠如が北になびく癖、つまり「親北」、さらには「従北」心理につながっていると私は見ています。
―― 韓国国内にいる保守派はこういう事態をどう見ているんでしょうか。
渡辺 昨年12月、韓国の保守派の識者が今、何を考えているのかについて相手の身分を明かさないことを条件に危機に行ってきました。彼らは「渡辺さんは韓国を民主主義の固と思っているかもしれないけれども、それはとんでもない誤りです」と言っていました。デモや結社の自由はふんだんにあるけれども、表現、出版の自由は全くないと言います。
政権の意に沿わないような発言をしたら抹殺されるというのです。ある識者は20数件の告訴を受けていると言っておりました。政権の意に沿わないことを言えば賠償金請求をされる上に、原告勝利が9割以上だそうです。「物言えば唇寒し」といいますが、まさにその通りの状況です。保守派と現政権の希離はますます大きくなるどころか、前者は次々に追放されている状態ですね。
―― 非常にバランスの悪い、危うい状態にあると。
渡辺 表現の一つひとつに政権のチェックが入るわけで、「ほとんど検閲ですね」と聞くと「そうだ」と言っていました。韓国で本が出せないので日本で出版したと言っている人もいました。日本で出せばワンクッション置いて韓国国内にも伝わるということなんでしょうね。
「最終的かつ不可逆的」解決をしたはずが・・・
―― 15年12月の日韓外相会談で慰安婦問題の解決がなされたはずでしたが、今も韓国側が問題を蒸し返そうとしていますね。
渡辺 当時、慰安婦問題は、「最終的かつ不可逆的に解決された」という文言が入りました。日本は安倍晋三首相の相当踏み込んだ、いわば謝罪文を添え、10億円という政府の資金を韓国の財団に提供しました。「最終的かつ不可逆的」なものだとしたにもかかわらず、文在寅政権になって、朴模恵政権の交渉過程を検証し始めました。その検証結果が昨年12月に出たのですが、10億円を凍結し、新たに韓国政府がその分を負担するなどと言い出しています。日本に返還するとは言っていませんが、そう言わんばかりです。
―― 一度国家間で条約を結んだにもかかわらず、それを履行しないというのは国際慣例上まず、あり得ないですね。
渡辺 あり得ません。「最終的かつ不可逆的」という言葉を使っても、あの国に対しては何の効用もない。となれば主権国家同士の関係にはなりません。先ほどの検証過程で明らかになったことですが、これは外交文書です。外交文書には非公開のものが必ずあります。合意された声明文は一字一句、両者の交渉で訂正しながら出すわけですが、その背後には何十倍もの非公開文書があるはずです。非公開文書は30年は非公開にするというのが国際的な慣行であり、それが国際常識です。ところが韓国は今回、検証過程で文書の全てを公開してしまいました。韓国は約束や合意を守らない国だということを国際的に印象づけてしまったのです。
(次号に続く)
福沢諭吉が『脱亜論」を書いて133年、日本は再び東アジアの地政学リスクに直面している
「明治維新から150年、日本の立ち位置、外交・安全保障をどう構築するべきか」
(「財界」2018.3.27 拓殖大学前総長 渡辺利夫氏)

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明治維新150年を迎えて、日本の立ち位置、国のあるべき姿をどう構築していくか。「今こそ明治維新のリアリズムに学ぶ時」が持論の渡辺利夫氏(拓殖大学前総長・学事顧問)は東アジアの地政学を切り口に、このほど『決定版 脱亜論』(育鵬社)を刊行。かつて133年前に福沢諭吉が『脱亜論』を掲げ、欧米に伍する国づくりを進めようとした事実を背景に、これからの日本の立ち位置を指摘してもらった。
韓国は「事大主義」
―― 昨年末、『決定版脱亜論』を出版されましたが、改めて北朝鮮を巡る地政学リスクがある中で日本の立ち位置をどう定めるかが問われている時だと思います。
渡辺 韓国を見る時に「事大主義」があれほど強い国はないのではないかと思います。600 年以上前に李氏朝鮮が始まって以来、この国は隣の清国に圧倒的に依存していました。李朝末期になると政争や内乱がしばしば起き、その度に朝鮮は清国に派兵を要請しています。
―― 事大主義は朝鮮半島を見る時に重要な視点ということですね。
渡辺 中国と韓国は対等な国家関係ではなかったのです。朝鮮からすれば中国は君主で自らは臣下だという君臣関係にあります。ですから、朝鮮には自立しようという考えが極めて薄かったのではないでしょうか。明治日本の指導者たちは、中国と朝鮮の君臣関係を切断し、朝鮮を自立独立の国家としなければ日本の安全を保つことができないと考えました。伊藤博文内閣の外務大臣だった陸奥宗光は特にそういう考えでした。緒論ある中で、1894年には日清戦争に踏み切るのです。
―― 本の安全を守るための戦争であったと。
渡辺 ええ。日本の自衛のために中国、朝鮮の関係を絶とうとした。日本は維新を成功裏に終え、近代化のノウハウを持っていましたから、それを朝鮮に伝授しようとしたのです。その最先端にいたのが福沢諭吉です。福沢が創立した慶慮義塾は、日本の教育組織の中で初めて留学生を受け入れた塾ですが、それは朝鮮人です 。当時、朝鮮人の中にも日本の明治維新に類した近代化、文明化の運動を起こさなければならないと考えた「開化派」と呼ばれる一派がいました。その何人かを慶麿義塾が受け入れ、帰国させ、さらに福沢は自らの門下生を朝鮮に送っています。
福沢は現地の門下生との問でモールス信号を使って交信し、朝鮮で何が起きているかという情報を、かなり高い確度で得ていました。さらに開化派のクーデターを支援するために相当数の刀まで送っています。実際その刀を使って金玉均をリーダーとするクーデター 、「甲申事変」が起きましたが、三日天下に終わりました。
―― 日本は日清戦争に勝利しましたが、その後、ロシア主導の「三国干渉」で妥協を余儀なくされますね。
渡辺 ええ。戦争には勝利したものの、ロシア、ドイツ、フランスによる「三国干渉」によって遼東半島という最大の戦利品を手放さざるを得なくなりました。下関講和条約からわずか10日ほど後の出来事です。これを朝鮮は見ていて「日本侍むに足らず」と考え、朝鮮を保護してくれる相手はロシアだと考え始めたのです。再度の事大主義です。
朝鮮は、考えてみればかわいそうな国で、中国、ロシア、そして日本という巨大な国に固まれて身動きが取れない国ですから、地政学上の意味から事大主義は避けられない。しかも事大主義を正当化する論拠である儒教の本家本元は中国ですから、マインドも中国的なものになってしまう。
左派勢力が台頭し「親北」が強まる
―― 事大主義がDNAのように染み付いてしまっていると。
渡辺 ええ。太平洋戦争が終わり、日本統治が終結、朝鮮は新しい国家となりました。朴正照の時代において、韓国は明らかに経済発展をしました。日本から部品や原材料、技術を導入して、賃金の安い労働力を使って製品を作り、米国市場に輸出したのです。韓国の対日貿易は一貫して赤字、対米貿易は黒字という構図です。
アジア太平洋におけるトライアングルの中で、韓国はあれだけ発展することができた。私が韓国を勉強し始めた頃、ついに中国やロシアのくびきを脱して、「陸の朝鮮」から「海の韓国」に変わったという評価をしたものです。
―― 1人当たりGDP(国内総生産)も高まり、OECD(経済協力開発機構)にも入りましたから先進国の仲間入りをしましたね。
渡辺 しかし、ゆとりが出た途端に中国への依存心が頭をもたげてくるのです。中国と韓国が国交を回復するという、当時からすればあり得ないことが起き、旧ソ連とも国交を樹立しました。今の経済構造を見ると、北朝鮮はもちろんですが、韓国も対中貿易や韓国企業の対中進出を考慮せずして、経済が成り立たない状態になってしまっています。
朝鮮が自立した近代国家として日本と対等に付き合い、外交する固になるという姿から、韓国の現実は再び遠いところに行き始めています。かといって日本はもう一度日清戦争をやるわけにはもちろんいきませんから、対韓政策についてはオプションがないのが実情です。
―― そうした歴史的な流れを背景に現在の文在寅政権をどう見ていますか。
渡辺 現在の政権になってから状況は一段と悪化していると思います。 李明博、朴槿恵と保守派政権が続きましたが、朴槿恵の追放劇に始まって親北・左派の文在寅が当選しました。振り返れば金大中政権の時から左傾化が始まり、盧武鉉政権が始まった頃から「親北」、むしろ「従北」的な傾向を強く持つ左派勢力が大変な勢いで体制内に入ってきました。
盧武鉉時代から、「もう在韓米軍はいらない」と言い始めています。正確に言えば、朝鮮戦争を戦った時には米国を中心とする連合軍でした。今でも連合軍と北朝鮮との聞は休戦協定があるだけです。北朝鮮の先制攻撃から身を守るために在韓米軍が不可欠なわけです。それを裏付けているのが米韓相互防衛条約、つまり米韓同盟であり、その司令塔が米韓連合軍司令部です。戦争時には作戦のトップを米軍が握る仕組みです。
左派勢力からすれば、そんな重要なことを米国に任せるのは腹に据えかねるという気分なのでしょうね。そこで、盧武鉉時代の2005年頃から米国と戦時作戦統制権を韓国に戻そうと交渉し、07年5月に「撤収」が完了することになっていました。
韓国保守派の嘆き
―― しかし、現実にはそうなっていないという東アジア情勢の現実です。
渡辺 ええ。韓国人からすると大変に不安なわけです。そこで、李明博政権が還収を日年まで延期、朴槿恵政権が無期限延期にして現在に至っています。しかし文在寅は盧武鉉の秘書室長を務めた、慮武鉱思想の継承者です。北から南をいかに守るかという問題よりも、南北統一の方のプライオリティが圧倒的に高い。統一が実現すれば安全保障論不要となると考える人が、今の韓国政権を握っているのです。
―― 平昌五輪でも南北友好を演出しましたが、韓国の対北朝鮮政策と外交・安全保障政策を外から見ていて、常に揺れ動いているように見えますが。
渡辺 韓国には建国の論拠がないということが背景にあります。つまり、李朝末期に日本に統治され、その日本が第2次大戦に敗北したことによって自ずと独立してしまったのです。例えばインドは対英、インドネシアには対蘭の激しい独立闘争の時代がありましたが、韓国には独立闘争の「物語」がない。
韓国としては、その物語がないことには耐えられませんから、中国の重慶に独立臨時政府というものが存在したと言っています。文在寅が中国を訪問した際に、そこを見学したというニュースがありましたが、あえてそういうことをするというのも、韓国の心理的な不安定感の表れです。
対する北朝鮮は、これも真実ではありませんが、国境沿いの白頭山の向こうに対日武装闘争をやった部隊があり、その指導者が金日成だったという、多分に「神話」的な物語があります。日本の警察署を1、2ヶ所襲撃したことは事実のようですが、独立闘争ではありません。しかし、神話が北に出来上がっているのです。
日本人はみな、それは事実ではないと考えるでしょうが、建国神話がなく、アイデンティティが薄い韓国では、こんな神話みたいなことが簡単に信じられてしまう。韓国の教科書でも、北朝鮮は対日武装闘争を展開したというのは嘘話ですが、建国の物語を持たない韓国では、北朝鮮の神話に引っかかってしまう。同胞意識と、建国神話の欠如が北になびく癖、つまり「親北」、さらには「従北」心理につながっていると私は見ています。
―― 韓国国内にいる保守派はこういう事態をどう見ているんでしょうか。
渡辺 昨年12月、韓国の保守派の識者が今、何を考えているのかについて相手の身分を明かさないことを条件に危機に行ってきました。彼らは「渡辺さんは韓国を民主主義の固と思っているかもしれないけれども、それはとんでもない誤りです」と言っていました。デモや結社の自由はふんだんにあるけれども、表現、出版の自由は全くないと言います。
政権の意に沿わないような発言をしたら抹殺されるというのです。ある識者は20数件の告訴を受けていると言っておりました。政権の意に沿わないことを言えば賠償金請求をされる上に、原告勝利が9割以上だそうです。「物言えば唇寒し」といいますが、まさにその通りの状況です。保守派と現政権の希離はますます大きくなるどころか、前者は次々に追放されている状態ですね。
―― 非常にバランスの悪い、危うい状態にあると。
渡辺 表現の一つひとつに政権のチェックが入るわけで、「ほとんど検閲ですね」と聞くと「そうだ」と言っていました。韓国で本が出せないので日本で出版したと言っている人もいました。日本で出せばワンクッション置いて韓国国内にも伝わるということなんでしょうね。
「最終的かつ不可逆的」解決をしたはずが・・・
―― 15年12月の日韓外相会談で慰安婦問題の解決がなされたはずでしたが、今も韓国側が問題を蒸し返そうとしていますね。
渡辺 当時、慰安婦問題は、「最終的かつ不可逆的に解決された」という文言が入りました。日本は安倍晋三首相の相当踏み込んだ、いわば謝罪文を添え、10億円という政府の資金を韓国の財団に提供しました。「最終的かつ不可逆的」なものだとしたにもかかわらず、文在寅政権になって、朴模恵政権の交渉過程を検証し始めました。その検証結果が昨年12月に出たのですが、10億円を凍結し、新たに韓国政府がその分を負担するなどと言い出しています。日本に返還するとは言っていませんが、そう言わんばかりです。
―― 一度国家間で条約を結んだにもかかわらず、それを履行しないというのは国際慣例上まず、あり得ないですね。
渡辺 あり得ません。「最終的かつ不可逆的」という言葉を使っても、あの国に対しては何の効用もない。となれば主権国家同士の関係にはなりません。先ほどの検証過程で明らかになったことですが、これは外交文書です。外交文書には非公開のものが必ずあります。合意された声明文は一字一句、両者の交渉で訂正しながら出すわけですが、その背後には何十倍もの非公開文書があるはずです。非公開文書は30年は非公開にするというのが国際的な慣行であり、それが国際常識です。ところが韓国は今回、検証過程で文書の全てを公開してしまいました。韓国は約束や合意を守らない国だということを国際的に印象づけてしまったのです。
(次号に続く)










