12月2日の日本経済新聞によると、ブータンツアーが脚光を浴びているようです。大手旅行会社の『HIS』は12月1日に、「ブータンの農村部でホームステイして生活文化などを体験できるツアー」を販売開始したとのことです。他の旅行会社も各々ブータンツアーの企画を検討中で、新年には各社の新しい企画による商品が出回る模様です。
従来からの一般的な観光のブータンツアーは各社で既に発売中ですが、ブータンへの関心が高まっているので、日数を増やすことなどを検討中とのことです。
ブータンの田舎では基本的に自給自足の生活でしょうから、ブータンの人の所得額は低く、日本人から見ると戦前の日本のような生活をしているのではないかと感じ受けるかもしれません。TVなどでは、「一人当たりGDP/国民総生産は日本の1/20」と、いかにも貧しい国といった紹介のしかたをします。
ブータンでは前国王の定めた「GNH/国民総幸福量」といった考え方を取り入れており、経済的な豊かさだけが人間の幸福の尺度ではないとして、今、大変注目されています。
ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王(31)とジツェン・ペマ・ワンチュク王妃(21)が国賓として来日(11月15日~20日)されました。ご夫妻は10月13日に結婚されたばかりで新婚旅行を兼ねています。
国王は11月17日、衆院本会議場で演説し、「歴史と伝統に裏打ちされた日本への深い親愛の情を示し、さらに日本が国際社会やアジアに果たしてきた役割の大きさを称え、東日本大震災に際しては、大勢のブータン人が寺院や僧院で供養のための灯明をささげた事を述べたうえで、ブータン人は何世紀も深い調和の精神を持ち、質素で謙虚な生活を続け、調和を重んじ、先祖の価値観を大事にし、思いやりのある社会保っており、このようなブータンのありようを誇りに思う。」と述べられました。
国王ご夫妻の日本滞在中の日程表によると、明治神宮参拝、講道館視察、京都での伝統工芸館や織物工場視察に加え、茶の湯や生け花体験されるなど、日本の誇る伝統文化に触れられています。特に、明治神宮の参拝はマスコミではほとんど触れていませんが、日本人として大変うれしいことです。
11月21日のフジテレビのFNNスーパーニュースでは次の通り報道しているようです。
『国王は大学時代から日本史を勉強しており日本が大好きで、王妃と国王ともに写真を撮るのが好きだと話してくれた。王妃は茶道を体験した時には未富の「光琳菊」を口にして思わず微笑んでいて、被災地の福島県訪問では王妃が国王と二人だけの時に涙を流していた。』
王妃が宮中晩餐会の祝杯の時に、ご自分のグラスが日本の皇太子のグラスよりも下になるように、かがむような姿をしておられました。心のこもった気遣いがうかがわれます。21歳の一般人出身の方とはいえ、なんと奥ゆかしい王妃なのでしょうか。
国家の価値観と国民の幸せを確信している国王を戴くブータンの人々は、大変幸せな国民だと思います。 ブータンと日本とは伝統的な価値観が、にかよっています。長い歴史を有する王室(皇室)を戴き国民が王室(皇室)を敬愛し尊崇の念を抱いていること、自然と共に生きるという伝統的な精神をもっていること、価値観の基礎に仏教の考え方があること、など。ブータン国王のメッセージは、日本人が失ったものがまだブータンには残っていることを示しました。 多くの日本人がブータンツアーに参加して、何かを感じて帰って来てもらうことを願います。
【ブータン国王ご夫妻日程: 外務省ホームページより】
・11月15日(火曜日)
本邦到着 、
野田総理夫妻による表敬 。
・11月16日(水曜日)
歓迎行事 (皇太子殿下)、御会見 (皇太子殿下、皇后陛下)、
衆参両院議長主催昼食会 、宮中晩餐。
・11月17日(木曜日)
慶應義塾大学名誉博士号授与式(経済学)、国会演説 (衆議院本会議場)、
明治神宮参拝、講道館視察、日本国ブータン王国友好議員連盟・日本ブータン
友好協会・在東京ブータン王国名誉総領事主催歓迎レセプション 。
・11月18日
御訪問 (皇太子殿下、皇后陛下)、福島県相馬市立桜丘小学校訪問、
相馬港原釜・尾浜地区視察 (犠牲者の追悼など)
・11月19日
金閣寺視察、三十三間堂視察、生け花体験、京都伝統工芸館視察、
龍村美術織物錦帯工場視察、京都府・京都市・京都商工会議所主催夕食会。
・11月20日(日曜日)
仙洞御所視察
離日。
【国民総幸福量(GNH)の考え方】(外務省ホームページ)
『ブータンの1人当たりの国民総所得は1,920米ドル(世界銀行,2010年)であるにもかかわらず,国勢調査(2005年)ではブータン国民の約97%が「幸せ」と回答しています。「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要である」と,1970年代にGNHの概念を提唱したのは,先代のジグミ・シンゲ国王でした。
GNHは,経済成長を重視する姿勢を見直し,伝統的な社会・文化や民意,環境にも配慮した「国民の幸福」の実現を目指す考え方です。その背景には仏教の価値観があり,環境保護,文化の推進など4本柱のもと,9つの分野にわたり「家族は互いに助け合っているか」「睡眠時間」「植林したか」「医療機関までの距離」など72の指標が策定されています。国家がGNH追求のために努力することは憲法にも明記され,政策を立案,調整するGNH委員会が重要な役割を担っています。』
『ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク・ブータン王国国王陛下国会演説』
(外務省ホームページ)
平成23年11月17日(木)
於 衆 議 院 議 場
天皇皇后両陛下及び日本国民の皆様に対し深い敬意を表しますとともに、このたび日本国国会で演説を行う機会を賜りましたことを、謹んでお受けしたく存じます。
衆議院議長閣下、
参議院議長閣下、
内閣総理大臣閣下、
国会議員の皆様、
ご列席の皆様、
世界史において、かくも傑出した重要性を持つ機関である日本国国会の中で、その偉大なる英知、経験及び功績を目の当たりにした一人の若者として、私は皆様の前に立っております。皆様のお役に立てるようなことを私から多く申し上げられるとは思いません。それどころか、この歴史的瞬間から大変多くを得ようとしているのは、私の方です。このことに永遠に感謝致します。
妻ジツェンと私は、結婚の僅か一か月後に日本にお招きいただき、ご厚情を賜りましたことに感謝申し上げます。これは両国間の長年の友情を支える皆様の寛大な精神の表れであり、特別のおもてなしであると認識しています。
ご列席の皆様、演説を進める前に、私の父である先代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク陛下並びにブータン政府及びブータン国民から皆様へのお祈りと祝福の言葉をお伝えしなければなりません。ブータン国民は常に日本に強い愛着を持ち、何十年もの間、偉大な貴国の成功を心情的に分かち合ってまいりました。
3月の壊滅的な地震と津波の後、ブータンの至る所で、かくも多くのブータン人が寺院や僧院を訪れ、日本国民に慰めと支えを与えようとして、供養のための灯明を捧げつつ、ささやかなるも心のこもった勤めを行うのを目にし、私は深く心を動かされました。私自身、押し寄せる津波のニュースを為す術もなく見つめていたことを覚えています。その時からずっと私は、愛する人を亡くした家族の痛みと苦しみ、生活基盤を失った人々、人生が完全に変わってしまった若者達、そして大災害から復興しなければならない日本という国に対する私の深い同情を、直接お伝えすることのできる日を待ち望んでまいりました。
いかなる国も国民も、決してこのような苦難を経験すべきではありません。しかし仮に、このような不幸からより強く大きく立ち上がることができる国が一つあるとすれば、それは日本と日本国民である、私はそう確信しています。皆様が生活を再建し復興に向けて歩まれる中で、我々ブータン人は皆様と共にあります。我々の物質的な支援はつつましいものですが、我々の友情、連帯、思いやりは心からの真実であるものです。
ご列席の皆様、我々ブータンに暮らす者は常に、日本国民を親愛なる兄弟姉妹であると考えてまいりました。家族、誠実さ、そして名誉を守り、個人よりも地域社会や国家の望みを優先し、また自己よりも公益を高く位置づける強い気持ちによって、両国民は結ばれています。
2011年は両国の国交樹立25周年に当たる特別な年です。しかし、ブータン国民は常に、公式な関係を超えた特別な愛着を日本に抱いてまいりました。私は、我が父とその世代の者が何十年も前から、日本がアジアを近代化へと導くのを誇らしく見ていたのを知っています。すなわち日本は、当時開発途上地域であったアジアに自信とその進むべき道への自覚をもたらし、以降、日本の後に続いて世界経済の最前線に躍り出た数多くの国々に希望を与えてきました。日本は過去も、そして現在もリーダーであり続けます。このグローバル化した世界において日本は、技術と革新の力、勤勉さと責任感、強固な伝統的価値観における模範であり、これまで以上にリーダーに相応しいのです。
世界は常に日本のことを、大変な名誉と誇り、そして規律を重んじる国民、歴史に裏打ちされた誇り高き伝統を持つ国民、不屈の精神、断固たる決意、そして秀でることへの願望をもって何事にも取り組む国民、知行合一の国民、兄弟愛や友愛、揺るぎない強さと気丈さを併せ持った国民であると認識してきました。これが神話ではなく、現実であると謹んで申し上げたいと思います。
それは、近年の不幸な経済不況や3月の自然災害への皆様の対応において示された事実です。皆様は、日本及び日本国民のすばらしい資質を示されました。他国であれば、国家を打ち砕き、無秩序、大混乱、そして悲嘆をもたらしたであろう事態に、日本国民の皆様は、最悪の状況下でさえも、静かな尊厳、自信、規律、心の強さをもって対処されました。
文化、伝統及び価値にしっかりと根差したこのような卓越した資質の組合せは、我々の現代の世界で他に見出すことはほぼ不可能です。全ての国がこれを熱望しますが、これは日本人の特性の不可分の要素です。このような価値観や資質は昨日生まれたものではなく、何世紀もの歴史から生まれたものです。それが数年、数十年で失われることはありません。そうした力を備えた日本には、非常に素晴らしい未来が待っていることでしょう。
この力により日本は、歴史を通じてあらゆる逆境から繰り返し立ち直り、世界で最も成功した国の一つとしての地位を築いてきました。更に注目に値すべきは、日本がためらうことなく、世界中の人々と自国の成功を常に分かち合ってきたことです。
ご列席の皆様、私は、全てのブータン人に代わり、心から申し上げています。私は専門家でも学者でもなく、日本に深い親愛の情を抱く普通の人間に過ぎません。
私が申し上げたいのは、卓越性や技術革新が何たるかを体現する日本、偉大な決断と業績をなしつつも静かな尊厳と謙虚さを兼ね備えた日本国民、そして他の国々の模範となる国から、この世界が非常に大きな恩恵を受けるであろうということです。
日本がアジアと世界を導き、また世界情勢における日本の存在が日本国民の偉大な業績と歴史を反映するに際して、ブータンは皆様を応援し支持してまいります。ブータンは、国際連合安全保障理事会の議席拡大の必要性だけでなく、日本がその中で指導的な役割を果たさなければならないと確信しています。日本は、ブータンの全面的な約束と支持を得ています。
ご列席の皆様,ブータンは、人口約70万人の小さなヒマラヤの国です。国の魅力的な外形的特徴と豊かで人の心を捉えて離さない歴史が、ブータン人のあらゆる性質を形作っています。ブータンは美しい国であり、面積は小さいながらも、国土全体に広がる多様な地形に数々の寺院、僧院及び城塞が点在し、何世代ものブータン人の精神性を反映しています。手つかずの自然があり、我々の文化と伝統は強靭で活気を保っています。ブータン人は、何世紀も続けてきたように、人々の間に深い調和の精神を育む、質素で謙虚な生活を送り続けています。
今日のめまぐるしく変化する世界において、国民が何よりも調和を重んじる社会、若者が優れた才能、勇気及び品位を持ち、先祖の価値観によって導かれる社会、そうした思いやりのある社会で生きる我々のあり方を、私は最も誇りに思います。我が国は、有能な若きブータン人に懸かっています。我々は、歴史ある価値観を持つ若々しい現代的な国民です。小さな美しい国でありますが、強い国でもあります。
それゆえ、ブータンの成長と開発における日本の役割は大変特別なものです。日本からは、我々が独自の願望を満たすべく努力する中で、貴重な援助や支援だけでなく、力強い励ましもいただいてきました。日本国民の寛大さと、両国民の間を結ぶより高次で大きな自然の絆、言葉に言い表せない、しかし非常に特別な,そして精神的な絆により、ブータンは常に日本の友人であり続けます。
日本は、かねてよりブータンの最も重要な開発パートナーの一つです。それゆえ、日本政府及びブータンで暮らし我々と共に働いてくれた日本人の方々のブータン国民への揺るぎない支援と善意に対し、感謝の意を伝えることができて大変嬉しく思います。
私はここに、両国民の間の絆をより強め、深めるための不断の努力を行うことを誓います。ブータン国民から日本国民の皆様への祈りと祝福の言葉を改めて申し伝えます。
ご列席の皆様、簡単ではありますが、ゾンカ語でお話しすることをお許し頂ければ幸いです。
(ゾンカ語)
ご列席の皆様、私は祈りを捧げました。小さな祈りですが、日本と日本国民が常に平和と安定、調和を経験し、そしてこれらからも繁栄を享受されますようにとの祈りです。
ご清聴ありがとうございました。
(福島県相馬市の被災地を訪問し、犠牲者の冥福を祈るワンチュク国王夫妻(18日)
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(京都迎賓館での歓迎会に和服姿で出席したブータン国王夫妻(19日)
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「幸せな国」ブータン、ブームに 展示会や旅行人気(日本経済新聞:2011/11/29)
『国王夫妻の来日で一躍注目を集めたブータンについて、離日後もプチブームが続いている。東京で開催されている同国特集の展示会は来場者でにぎわい、友好協会や旅行会社には観光地や行き方などの問い合わせが相次ぐ。「世界一幸せな国」と呼ばれ、東日本大震災や景気低迷など暗いニュースが相次ぐ日本にはない独特の魅力を感じる人も多いようだ。
「国王来日で関心が高まり、いつもの2倍以上の来場者です」。東京都渋谷区の独立行政法人国際協力機構広尾センター(JICA地球ひろば)では、展示されたブータンの民族衣装や工芸品などの前で担当者が驚く。館内のレストランでは、豚肉と大根を唐辛子で煮込んだブータン料理も楽しめるとあって、連日100人以上の来場者でにぎわう。
展示は月替わりで発展途上国を紹介するイベントで12月4日まで。東日本大震災の影響で国王の来日が遅れたため、偶然にも開催のタイミングと重なり、一躍注目を浴びた。横浜市から訪れたという主婦(52)は「助け合いや思いやりといった古き良き日本があるような気がする。国王の着ていた民族衣装もとても印象的だった」と熱心に見学していた。
「どんな観光地があるの」「行き方は?」。日本ブータン友好協会事務局(東京・文京)には国王の来日後、こんな質問の電話が相次いでいる。これまでは3日に1件程度だった問い合わせは国王来日後、1週間で50件に急増したという。 「これまではあまり知られていなかったが、知名度が上がり、関心を持つ人が増えた」と担当者。「国王の国会演説に感銘を受けた」「夫妻の姿にいやされた」との声も寄せられているという。
JTBグランドツアー&サービス(東京・渋谷)でも国王来日後、問い合わせ件数が5倍に増えた。年末年始に新婚旅行でブータンに行く東京都内の団体職員の男性(50)は「情報が少なく神秘的なところにひかれた。人生の節目に幸せの国に行ってみたい」と話す。
ブータンは国の豊かさを測る指標として国民総生産(GNP)ではなく「国民総幸福量」(GNH)を掲げる。国民の9割以上が「幸せ」と回答するなど「世界一幸せな国」とされる。 新薬開発支援の新日本科学社長でブータン名誉領事を務める永田良一さん(53)は「国王の飾り気のない立ち振る舞いや国会での演説を見聞きし、日本人が忘れかけている美徳や思いやりの心に気づかされた人が多いのでは」と話している。』
(2011年12月15日 花熟里)