花熟里(けじゅくり)の静かな日々

脳出血の後遺症で左半身麻痺。日々目する美しい自然、ちょっと気になること、健康管理などを書いてみます。

イスラム教ではアルコールは禁止?

2010年05月14日 14時52分39秒 | インドネシア
去る11日、フランスの国民議会の下院で、公共の場で女性のイスラム教徒が全身を

すっぽりと隠す「ブルカ」や「ニカブ」の使用を禁止する決議を、賛成434、

反対ゼロで採択しました。 7月には下院で「公共の場でブルカ使用を禁止する」政府

の法案の審議が行われる予定です。


フランスには北アフリカからの移民を中心にイスラム教徒が600万人以上いるといわれて

います。職につけない移民の数が増え、2005年には騒乱ともいえる大規模な暴動に発展し

たことは記憶に新しいところです。


すでに2004年には、公立学校で女性イスラム教徒のスカーフ着用が禁止されています。

(ユダヤ教徒が頭にかぶるキッパと呼ばれる帽子やカトリック教徒が首飾りとして身に

つける大型の十字架も禁止)


ベルギー下院では今年4月に女性のイスラム教徒が公共の場で「ブルカ」や「ニカブ」

の着用を禁止する法案を可決しており、上院の審議を待つ段階となっていますが、

成立の見通しであり、違反者には罰金15~25ユーロ(約1000~3100円)、

または、禁固1~7日が科される内容になっています。



フランスで禁止する理由は、「女性の尊厳と男女同権というフランスの価値観に反する」

というものです。ベルギーも同様な理由です。当然ながらイスラム団体は反対を表明して

います。 イギリス(インド・パキスタン系)やドイツ(トルコ系)にも多くのイスラム

教徒がおり、今後、宗教の自由と欧州の伝統的な価値観との議論が激しくなるものと思わ

れます。


<注>「ブルカ」と「ニカブ」

   いずれも、全身をすっぽりと覆い隠す女性イスラム教徒の服装ですが、「ブルカ」
   
   は目の部分に網状の布をつけるもので、外からは目は見えない。 「ニカブ」は目

   の周囲だけが開いているもの。



私が駐在していたインドネシアは2億の国民の90%がイスラム教徒と世界最多の信者が

います。 全体的には穏健で世俗的な信者が多いのですが、大学などの高等教育を受け

た女性が突然スカーフを着け、敬虔なイスラム教徒に変身するのを目にしました。イスラ

ム教は我々日本人にはなじみが薄いのですが、以下は駐在当時にメモしたイスラム教徒

の習慣です。


<こころの友 インドネシアー7>

「イスラム教ではアルコールは禁止?」(イスラム教徒の習慣① )


イスラム教と言えば中東諸国。マスコミの報道を通じて知る限りでは、中東諸国はイスラ

ム教の教義を厳格に守っているように見られます。 即ち女性について、ベールを義務

づけていること、社会進出が遅れていること、参政権も一部の国でやっと認める状態であ

ることなどがその例に挙げられます。 またイスラム教徒は飲酒も禁止されていると思わ

れていますが、アラブ地域にはもともとアラックといわれる蒸留酒があります。 


イスラム教の聖典コーランにはアルコールについて次の記述があります。

「誠に酒と賭矢(ギャンブル)と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けな

さい。悪魔の望むところは、酒と賭矢によってあなた方の間に、敵意と憎悪を起こさせ、

あなた方が、アラーを念じ礼拝をささげるのを妨げようとすることである。」

(第5章第90項および第91項) 


別のところでは「酒と賭矢は大きな罪であるが、人間のために多少の益もある。だがその

罪は益はよりも大きい」(第2章第219項)というのもあります。


酒は避けよというのがアラー(唯一神)の教えですが、解釈を厳しくするか否かで酒に対

する対応が異なってきます。即ち“酒は絶対に避けることは義務であり、反すれば罰せら

れる”か、“避けた方が良いが、飲酒しても罰せられることはない”とみなすのかです。


中東諸国の盟主サウジアラビアはスンニ派の中で、コ-ランの解釈が厳しく原理主義とい

われている“ワッハーブ派”であり、外国人も含めて飲酒は認められていません。イスラ

ム教徒が飲酒した場合は公開百叩きの刑に処せられます。 外国人は即逮捕されることに

なります。ノンアルコールビールが販売されているようですが、私の先輩は過去にサウジ

アラビアに数ヶ月滞在してした時には、バーレーンやカタールに行って飲酒したといって

いました。


イランはシーア派で原理主義といわれているように、酒はまさに忌み嫌われるべきもの

で、違反者は厳罰に処せられます。 他方トルコは世俗主義を掲げており、公の場での

女性のベール(スカーフ)を禁止しており、酒についても寛容で飲酒は可能です。


アラブの雄、エジプトでは国営の公社がビールや洋酒を作っています。コプト教徒(原始

キリスト教の一派)が6-7百万人いるので、ビールなどのアルコールを作っていても

不思議でありません。 カイロ市内には酒屋があり、外国人が行くレストランやバーでは

飲酒できるとのことです。 


私が6年間駐在したインドネシアは国民の90%がイスラム教徒で、世界最大のイスラム

教徒を抱える国家ですが、イスラム教は国教ではなく、国家が認める5つの宗教のひとつ

です。このこともあり、飲酒は禁止されていません。ホテル、カラオケには勿論アルコー

ルがありますし、都市でも田舎でもアルコールを販売している店があちこちにあります。

インドネシアには3つのビール会社があり、“ビンタン”“バリハイ”“アンカー”など

のブランドで販売しています。 しかし、公の行事やパーティ等、イスラム教徒が集まる

場ではアルコールが出されることは決してありません。 イスラム教徒の前ではアルコー

ルを口にしないのが礼儀(エチケット)といえます。


我々のインドネシアの会社では従業員500人中の15名程度がキリスト教徒等で、残り

はイスラム教徒でした。 したがって、会社の創立記念行事等を行う場合は自然のなり

ゆきとしてアルコールは禁止となります。 しかし、乾杯はともかく、ジュースだけと

いうのは日本人にとっては味気ないことこの上もないので、私が従業員に日本人は別室

にビールを準備して、皆の目に触れないようにして飲みたいが、認めてくれないかと訴

えたところ、数名の従業員が大きな声でOKとの返事をしてくれましたので、缶ビール

を別室に持ち込みました。

我々が飲んでいるところに数名のキリスト教徒がやって来て、ビールを飲みたいと言

うので缶ビールを渡すと、おいしそうに飲んでいました。
  

インドネシアがイスラム国家であるといわれることがありますが、決してイスラム国家で

はありません。 国民の圧倒的多数がイスラム教徒であることは事実ですが、精神的な

バックボーンにはヒンズー教や仏教の影響が色濃く残っています。このことは「さまざま

な人々」で述べたとおりです。


インドネシアはスンニ派イスラムで、従来は伝統的な村落共同体を基盤とする穏健な

ナフダトールウラマと、都会を基盤とする進歩的なムハマディアという2つの大きな信徒

団体があり、政治的にもそれぞれ民族覚醒党と国民信託党を支持してきました。前者は

ワヒッド元大統領、後者はアミン・ライス元国民協議会議長が指導者です。

しかし、近年高学歴者や青年男女の中に教義を厳格に解釈する人が増えてきており、従来

からの宗派・政党に反発してイスラム法による統治を掲げる“福祉正義党”という新しい

政党を支持して、勢力を急増させてきています。 


もともとイスラム教徒は同胞意識が強いく、団結の源となっているのですが、特に

福祉正義党を支持する若者は中東の原理主義組織に強いシンパシーを抱いており、

ビンラディンの顔をプリントしたTシャツは大人気でした。


近年、神聖な断食(プアサ)が近づくと、カラオケなどは反イスラム的であるとして、

打ち壊したり、放火したりする事件が頻繁に起こるようになりましたが、宗教的に純粋な

若者が起こしているようです。これに引っ張られるように、インドネシア社会全体が宗教

的な寛容さを少しずつ失ってきているように思われます。

世界最大のイスラム教徒を抱える東南アジアの大国インドネシアの動向を注視していく

必要があると思います。

(2007年メモ)



<2010年5月15日 記  ☆きらきら星☆>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする