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開業医A先生の愚痴

(穂を出した稲-ムサシの散歩道で)

行き付けの開業医のA先生は話好きで有名である。気に入った患者には次の患者を待たしていても、いつまでも話していると聞く。自分もその一人であるようで、今日も血圧を測ってもらって、ずいぶん低い数値に、夏場は血圧は下がると、そのメカニズムを話してくれた。そのあと30分近くお話(ストレートに言えば愚痴)を聞いてきた。

自分の今までの仕事も承知していてか、よく聞くのは開業医の経営に関わる話である。団塊の世代の先生は、医院を新築した時のローンがまだあと7年も残っていて、そこまで仕事を続けなければならないという。途中まで聞いて、あと7年残っているんでしょうと先回りすると、怪訝な顔で何で知ってる?と聞く。その話を聞くのは3度目だから。

医院の外梁が腐って、今にも落ちそうになっており、つっかい棒がしてあった。まだ築20年そこそこで、雨水が入って腐ってきた。大手住宅会社に頼んだら奇抜なデザインになってしまった。イヤだというのに、これが目印になって良いのだと押し切られた。奇抜なデザインは構造的に無理があって、雨仕舞いがしっかり出来なくて、腐ってきたのだろう。最初から欠陥建物だったのだと嘆く。他にもあちこち手を入れなければならなかった。

前にお遍路に1ヶ月も行って来たと話したとき、そんなに時間が取れていいなあと、ため息混じりにうらやんでいた。それを思い出したのか、A先生は開業医なんかになるのではなかったという。開業医になって何もいいことが無かった。何も楽しいことがなく働いてきて、この歳になってまだ借金を残して、働き続けねばならない。借金が終った頃にぽっくり逝ってしまったら、何のための人生だったのかと思うだろう。

開業医は高収入があるようにみえても、次々に新しい医療器械を備えなければならないし、レントゲンの設備など、何枚撮ってもペイできるものではない。検査機器類などは開業医が共同で設備して、共用するようにしたらどうなんですか、などと言ってみるが、実現することではないし、気休めにもならない。こんなことなら、勤務医でおればよかったという。借金に負われることも無いし、経営に気を使うこともない。

何も楽しいことが無かったとは、悲しい話である。患者のために一生懸命働いて、それが生きがいだったのではないのかと思ったが、口には出せなかった。確かに長期休みを取ることもならず、相手にするのは病人ばかり。こんな愚痴も言ってみたくなるのであろう。

先ほど看護師さんがカルテを持ってきた。次の患者が来たのだろう。再び看護師さんが来て2通目のカルテを置いた。先生、次の患者さんが待っているみたいだからと話を切り上げて、まだ話足りなそうなA先生を残して立った。
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