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「竹下村誌稿」を読む 230 駅路 1

(金谷公民館ミンクル玄関のオキザリス・トリアングラリス)

オキザリス・トリアングラリスはブラジル原産、逆三角の紫の葉が目を引く。

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「竹下村誌稿」の解読を続ける。

      第二節 榛原郡に於ける東海道の駅路
驛は(はやうま)と訓じ、また約して(はまゆ)とも云う。早馬の義とす。或るは云う。古えは馬を驛と云い、歩を郵と云う。所謂(いわゆる)置郵して命を伝うと云う、これなり。按ずるに、駅路創置年代は何れの時にや、詳(つまび)らかならずといえども、扶桑略紀、神功皇后の条に、庚午二月、始めて造路駅とあり。これ我が国、駅と云う事の権與なるべし。古代駅の備わらざる時代に在りては、旅行の困難なることは名状すべからざるものあり。回国行脚にあらざる普通の旅人も、苔の莚に露を敷き、草の枕に霜を結ぶ愚か、その甚だしきに至りては、尽きて餓死するものさえありしと聞こえき。
※ 伝(でん)- 人や物を送る中継所。宿場。
※ 置郵(ちゆう)- 宿場。宿駅。うまつぎ。
※ 置郵して命を伝う -「孟子」にある格言。「徳の流行するは、置郵して命を伝うるよりも速やかなり。」
※ 権與(けんよ)- 物事の始まり。事の起こり。発端。
※ 回国行脚(かいこくあんぎゃ)- 僧侶が修行または布教のために、諸国をめぐり歩くこと。
※ 苔の莚に露を敷き、草の枕に霜を結ぶ -「太平記」に、「深山路に行き暮れて、苔の莚に露を敷き、里遠い野原を分けて、草の枕に霜を結ぶ。」
※ 愚か(おろか)-(正しくは)疎か。‥‥は言うまでもない。‥‥はもとより、そのうえ。
※ 糧(かて)- 食糧。食物。


奈良時代には駅路の両傍に、遍く果樹を植えしめ、以って夏はその陰に憩いて暑を避けしめ、飢えたるものはその実を食いて死を免(まぬが)れしめしと云う。今の東海道の並木はその遺制なり。旅行の難渋なりしことは、かの万葉集に、
※ 遍く(あまねく)- すみずみまで。漏れなく。
※ 遺制(いせい)- 昔の制度で今に残っているもの。


 家にあれば にもる飯(いい)を 草枕
          旅にしあれば 椎の葉に盛る

※ 笥(け)- 食物を盛る器。

 (くし)も見じ 屋内(やぬち)も掃はかじ 草枕
          旅行く君を 斎(いわ)うと思(も)いて

※ 潔斎して、旅行く人の無事を祈る歌。櫛を使わず、家の中を掃除しないのは、家族が守る禁忌(タブー)。

など歌えり。今日に在りては、草枕は旅の枕詞に過ぎずといえども、昔、旅行の実况はかくの如くなりしなるべし。諺に可愛い子には旅をさせよなど云う警語は、何れの時代よりの遺唱なるにや。
※ 警語(けいご)- 人をはっとさせるような奇抜な言葉。警句。
※ 遺唱(いしょう)- 昔の人がとなえた言葉。
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