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「壺石文」 下 35 (旧)四月十六日、十七日、十八日~、廿日~、二十九日、晦日、五月朔日

(散歩道のテッポウユリ)

午後、駿遠の考古学と歴史講座に出席する。教授より古文書解読の課題を二つ頂く。

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今日で「壺石文 下」の解読を終る。服部菅雄さんの長い陸奥の旅の、凡そ3ヶ月半の追体験であった。明日から、賀茂季鷹の「富士日記」を読む。

十六日、中禅寺に詣づる道なりける、大日堂と云う所に憩いて見るに、庭の前栽に景色ある石を所々に立てゝ、泉を湛えて作りたる池の、心広くて、いと甚(いと)う清らなり。俄かに雨降り出でて止まざりければ、こゝの笠やどりに暮れ果てゝぞ、宿りに帰りける。
※ 前栽(せんざい)- 庭先に植えた草木。
※ 笠やどり(かさやどり)- 雨宿り。


十七日、今日は御祭りなりければ、御社も、御堂も、大路も、小路も、人満ち/\て、いと/\かまびすし。午(ひる)くだちならんかし。厳めしう装い糺(ただ)して、御旅家に渡らせ給う、御輿の左右に、吹き立つる、立楽の声々、神々(こうごう)しう聞えて、いと/\尊し。限りもなき立て鉾、御馬に御鞍備えて、騒動き渡らせ給う行列(ぎょうれち)、おどろ/\しう言わん方無し。申の時ばかり、事果つるを待ち取り顔にて、ひさめ(甚雨)降り来ぬ。人々しとどに濡れて上がれ罷る。
※ かまびすし(喧し)- うるさい。やかましい。騒がしい。
※ くだち(降ち)- 日が傾くころ。
※ 御旅家(おたびや)-「御旅所」と同じ? 神社の祭礼で、祭神が巡幸するとき、仮に神輿を鎮座しておく場所。
※ 立楽(たちがく)- 立ったままで雅楽を演奏すること。また、その雅楽。屋外での舞楽の伴奏などで行われる。
※ 騒動き(そうどき)- 騒々しく。
※ 申の時(さるのとき)- 現在の午後4時の前後2時間頃を指す語。
※ ひさめ(甚雨)- 大雨。ひどい雨。
※ しとどに - びっしょりと。


十八日、十九日、きらい、曇りて折々雨降る。
※ きらい - 好ましくない傾向。

廿日、晴れぬれば、鹿沼の里に行きて宿る。こゝにて日数経て、
※ 鹿沼の里(かぬまのさと)- 現、栃木県鹿沼市。

廿九日、小山の宿まで来て宿りぬ。
※ 小山の宿(こやまのしゅく)- 現、栃木県小山市。

晦日、夕つ方、関屋戸と云う所に至り着きて、こゝより舟に乗りて、五月朔日(つきたち)の日の朝、まだほの暗きに、江戸の方へ、本所の万年橋の元へ、舟果てぬ。道行ぶりに、相知れる人の許に、こゝかしこに立ち寄りて、夜になりて中橋わたりに至りて宿りぬ。
※ 関屋戸(せきやど)- 現、千葉県野田市関宿町。これより江戸川を舟で下ったか。
※ 中橋(なかばし)- 日本橋と京橋との中間にあった堀割に架かっていた橋。


   草枕 旅より旅に 旅衣
        立ち帰る夜も 訪う人はなし


△この記中、地名の下に細注めきて、まれ/\書き加えたりけるは奥州仙台、儒官佐久間東閑と云える人の著したる「観迹聞老志」と名付けて、全十五巻ありて、写本にて世に行わるゝ書なり。
※ 佐久間東閑 - 仙台藩の儒学者で、絵師でもあった佐久間洞巌。
※ 観迹聞老志 -「奥羽観迹聞老志」。1719年に完成した、全20巻に及ぶ仙台藩の地誌である。著者は佐久間洞巌。


  文政九年九月十七日、駿河国島田駅の片方(かたえ)中溝篠家、学窓にて清書。                                 服部菅雄
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