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上越秋山紀行 下 24 六日目 上結東村 1

(挿絵、上結東村の前、中津川の図、並び川向い遥かに三倉村見ゆる。)

午前中、古文書に親しむの発表の材料取材のため、受講者3人と、近辺の碑を見て廻った。N氏が採る拓本を興味深く見せて頂いた。午後、川向うのお葬式に出席して、歴史の講座は欠席した。

「上越秋山紀行 下」の解読を続ける。

これより上結東村の川上、大河と云うにはあらねど、中津川の水勢強く、纔かに落ちる滝壺あり。その滝下に、藤(蔓)を網にいたして、幾つも掛け置き、滝の真上の水際に、麁相なる仮橋を岩上より此方(こちら)の磐石のうえにかけ渡し、小屋は巌を像(かたど)り掛置き、滝壺の鱒、瀧を上らんとして、跳び落ちさまに網の口へ這ると即時に、小屋より出、仮橋のうえに、何れなりとも動く網を引き、鱒取るとなん。滝は纔かと云えども水勢強く、鱒屡々(しばしば)滝登りして、網の口遁(のが)るゝもありと云う。
※ 麁相(そそう)- 粗末なこと。粗略なこと。

当時は男女、野山に奔走して世話(忙)しき故に、この業はせず、また味も佳くならずとかや。ただ奇景のみで、川狩りはなけれども、この滝の様子を見果して、上結東村へ急ぐ道筋、山の中段に四、五人挙(こぞ)って、粟刈り男女見えける。その中に桶屋が知り人、上結東の者なれば、今宵一宿の舎(やど)を乞うに、太右衛門と云うものにて、頓(やが)て、いなみもせねば、暫らく草の筵に休(いこ)う。
※ いなむ(否む)- 断る。嫌がる。

道の辺に一斗樽の鏡の上に、はげたる親椀あり。予、倩々為謂(おもえらく)、その土地に沢山そうに一斗樽の酒樽とは、不審晴れずと云う。桶屋が答えには、此處(ここ)中津川に限らず、谷川へ遠く、咽乾きたる時は一人/\この椀にて水を呑む。則ち水樽となん。
※ 倩々(つらつら)- つくづく。よくよく。
※ 為謂(おもえらく)- 思っていることには。考えるには。


やゝ黄昏(たそがれ)近き故、急ぎ、上結東村太右衛門と申すは、近き頃は福祐にて、夜具あらんと云いながら、この村へ着きぬ。見れば、家数二十九軒、薬研の如き沢らしきに、飛び/\に家を営む。この村はひとしお(一入)豊かさうに見ゆる。
※ 福祐(ふくゆう)- 富み栄えていること。裕福。

さて桶屋は先へ進み、太右衛門の家に赴き、一夜の宿を乞うに、七十ばかりの老婆、何所からわせたと云うに、去年御世話になつた塩沢の桶屋でごさると云う。然らば泊りなれと云う。また三十路(みそじ)余りの婦、夕飯の仕度らしく立居の躰。
※ わせた(来られた)- 方言であろう。

この家も土間にて、千切れたる筵敷きけるも、座敷様に少し張りたる八畳敷位の処は、稗、粟らしきもの貯えたる。一枚筵をにして口括りしが数々見え、漸々二畳位の透(すい)たるから(空)椽に、娵(よめ)らしきが洗濯、布子(こしら)い居たるが、俄かに取り片付け、さあ座敷へ来なされと挨拶す。
※ 椽(えん)- 和風建築で,部屋の外側につけた板張りの細長い床の部分。
※ 叺(かます)- わらむしろを二つ折りにし、縁を縫いとじた袋。
※ 布子(ぬのこ)- 木綿の綿入れ。
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