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峡中紀行中 11 九月十三日、里正の接待を受ける.

(散歩道のユキノシタの花、こんな地味な植物でも花が咲くと目立つ)

荻生徂徠著の「峡中紀行 中」の解読を続ける。

始め小人、毒水を聞く時、忽ちこの事を憶うなり。澗(谷川)に下りて、その水、緑にして稍(やや)浅きものを掬(きく)して、以って舌上に伝えること、半晌(刻)許りにして舌恙(つつが)なし。但し、その味の鹹酸を覚えるのみ。則ち旋(まわ)りて、その色の稍濃きものを嘗めるに、また裂けず。淡濃差を等しうす。凡そ五次(回)にして、終に它の異なる無し
※ 鹹酸(かんさん)- 塩辛く酸っぱい。
※ 它(た、他)の異なる無し - 別状は無かった。「它」はへび。元義は「無它乎」で「蛇に遭わなかったか」と、安否を尋ねる言葉から出る。


遂に飲むこと許りに至りて、なお健なること、この若(ごと)きなり。喘ぐはその後るゝが為の故なりと。人皆奥人のを笑えども、その性、爾りと為す。而(しこう)して、なお且つ、土人の妄語、毒無くして毒有りと謂うを、詬責して休(や)まざるなり。
※ 斗(と)- 1斗は10升(これではとても飲めない)。中国古代では1斗は1升1合程度であった。
※ 憨(かん)- 愚かなこと。
※ その性、爾(しか)り為す- それは唯、そのような生まれつきである。
※ 渠(きょ)- かしら。首領。(邑人の頭か?)
※ 詬責(こうせき)- 罵り責めること。


邑人、鞍馬二頭を牽(ひ)き、来り候に会う。省吾とに各(おのおの)(の)る。真に款叚なり。石空川を渡り、村を右にし、北行す。柳沢寺及び先公内眷、花を観る等の処を得たり。
※ 款叚(かんか)-「款」は、まごころ。また、親しい交わり。「叚」は、貸す。(疲れた身に、馬の接待は気持ちのこもったものと感じた)
※ 内眷(ないけん)- 家内。身内。


里正の家に過る。饙飰(飯)を供す。これを郤(ことわ)れば、則ち云う。これ今秋熟するもの、小人未だかつて、敢えて先食せざるなり。今弊村天幸有りて、再び藩の封中に籍す。而して昨(きのう)、二官人来臨して、先公の時の営塁の処を訪い探るを聞く。以って藩主祖宗を奉ずるの心と、また小民を棄てざるを知るなり。故に相聚(あつま)り、饙(こわめし)を炊き、を治めて、自ら相慶するもの、これ何ぞ薦(すす)むべからざらんやと。迺ち一箸を挙げて出づ。邑人送りて界上に至り、膜拜して別れ去る。
※ 里正(りせい)- 郷里制の里の長。庄屋。
※ 饙飯(ふんぱん)-蒸した飯。こわめし。
※ 醴(こざけ)- 昔、米・麴・酒をまぜ、一夜で醸造した酒。現在の甘酒のようなもの。
※ 慶する(けいする)- めでたいと祝う。よろこぶ。
※ 界上(かいじょう)- 村境。
※ 膜拜(もはい)- ひれ伏す。ひれ伏して礼をする。
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