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富士の人穴物語(16) 仁田四郎、畜生道、修羅道、閻魔の庁を見る

(四国52番太山寺の「閻魔の庁」絵図)

朝からの雨が上がって、今夜は強風が吹きまくっている。また日本海側は大雪で、当地は空っ風、寒くなりそうである。

「富士の人穴物語」の解読を続ける。

また先を見るに、顔ばかり人のごとくにて、五体は馬牛の姿なり。これは娑婆にて、親また兄弟とちなみの念頃せし者なり。または伯父、叔母、姪。甥などと心を掛け、さては尊き出家を落ちたる者、皆々畜生道へ落るの苦を請けるなり。よくよく娑婆にてこれを語れ、と仰せける。
※ 部(ぶ)- 全体をいくつかに分けたそれぞれの部分。

また先方を見るに、黒煙さつ/\と燃え立ち、火事のごとし。その中に、大勢の声して。弓矢、鉄砲、太刀、長刀の音、夥しく、この内で切りつまろつゝ、追いつ追われつ、様々と泣き悲しむなり。あれは修羅の巷(ちまた)とて、修羅道地獄なり。あのごとく二千歳がほど責めるなり。必ず剣難を払うべし、と大菩薩仰せける。
※ 切りつまろつゝ - 慣用句としては「こけつまろびつ」がある。意味は似たようなものか?

先々、一百三十六地獄をば残らず見たり。これから閻魔の庁躰を見るべし。仁田趣(赴)け、と仰せける。御供申し行くかと思えば、程無く閻魔の庁に着きける。凡そ百間ばかりの赤金の大門あり。その内に大王の御殿あり。
※ 赤金(あかがね)- 銅の別称。

さてまた、次に十王有様、仕置く如くの冥官立つなり。さてまた九上申御筆取りの役なり。黒金小金の帳面に付け給うなり。皆々冥官立ちて、一間づゝも御坐の内におわしますなり。善根をば小金の帳に付け、常張の鏡に向わせける。七才よりなしたる罪科、あり/\と見えたり。
※ 有様(ありさま)- 物事の状態。ありよう。
※ 冥官(みょうかん)- 地獄の閻魔の庁にいる役人。
※ 常張の鏡(じょうはりのかがみ)-(仏)地獄の閻魔の庁にあって、死者の生前の善悪の行為を映し出すという鏡。浄玻璃の鏡。


明らかなる事、悪を只今するは、今年罪人多く有りける。鬼ども待ち受けて、罪人渡し給え/\とて、わん/\と吼えるなり。罪人ども頭を付け申す様、我ら娑婆にて一心に諸仏を御頼み申しました。我らをば助け給えと申す。十王仰せけるは、はかなき者どもかな。何とて娑婆にて後生の事、仏の事忘れしぞや。地獄とて外には更になきものぞ。ただ己れが心で己れを責めるなり。我身、我と火の車に乗る事を知らぬ、はかなさよ、と十王仰せけるなり。罪人も先ず当る身の程、悲しみ泣きたまうなり。またわれは何とて、跡弔(とぶら)う子の一人も持たざるとて、鬼ども早や引き立て行くなり。

その鬼どもを見るに、めんずおんつ阿房羅刹、めづおづ、赤鬼、黒鬼、青鬼、色々の鬼ども、罪人を十王より請け取り、仁田が見廻りし地獄へ引き立て行くなり。その地獄にて、切苛むもあり、臼に入れ搗くもあり、釜に入れ煎るもあり、火の穽(あな)に入るもあり、鉄炮、鉾などにて責めるもあり、釼にて指し貫くもあり、色々様々の地獄へ落されて責めるゝなり。
※ めんずおんつ -(「めづおづ」とともに、)雌雄。
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