波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男    第40回

2010-11-08 09:17:13 | Weblog
三社が揃ってサインをして契約が終わった。60年の歴史が変わる瞬間でもあった。
オーナーの山内氏の感慨は一入のものであったろう。しかし、これで会社は新しい時代を迎え乗り切っていく準備が整ったことでもある。美継はこの大仕事を済ませると何か大きな荷物を降ろした気持ちであった。後継者として招聘した社長も少しづつなじんで、経営者としての存在が明らかになりつつあり、目に見えない力で少しづつ変わりつつあった。
ある日、東京営業所から電話が入った。息子の電話を受けて用件を聞くと、是非一度上京して欲しいと言う。是非協力してもらいたい仕事のことで相談したいとのこと。
依頼を受けた会社は秋田にあり、上京してくるので、東京で会談を持ちたいと言う。
何はともあれ、上京することにした。本来なら社長の話であろうが、外交が好きでない社長に代わり、美継が下話を進める事になる。
先方は秋田で東芝の電球を作っている会社であったが、なんでもこれから磁石(フエライト)を作りたいというのである。聞いたことも無い話で内容を掴むのに時間がかかった。原料は今製造している弁柄の酸化鉄なのだがその生産工程が違ってくる。
その原料に化学薬品を混合し、高温で焼成していくのだが、この温度が現在使っているもので大丈夫なのか、全く分らない。美継は概略の話を聞くと、次回を技術者を交えての打ち合わせを約束して一旦、終わることにした。
先方の話によると、この磁石(フエライト)がこれからのモーターに大量に使用されてくるということで大きな需要になるとの事である。従来の顔料の市場ではなく、電気であり、家電の分野への進出になる。このことは大きな転換へつながることであり、歴史が変わることでもある。美継は株主であるT社の役員にも相談に行くと、是非その話は積極的に取り組むようにと言われ、当社も出来るだけの協力をするとまで言われた。
意を強くして本社へ帰り、社長、会長に報告すると、すぐ幹部を集めて相談に入った。
しかし、当社の設備では無理だと言う意見が多く、反対ではないが消極的なものが多かった。やったことが無い経験からやはり自信が無いのだろう。無理も無いことだと、性急に進めることをやめ、少し時間をかけるしかないかと思っていた。
そんな中、若い技術部長が美継のところへやって来た。「私個人的には、この話とても面白いと思います。自信はありませんが是非やらしてください。失敗もしてお金もかかるかもしれませんがやりたいです。」と言う。

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