波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

          白百合を愛した男  第14回  

2010-08-06 09:14:27 | Weblog
山内氏からの申し出は重く、大きな問題として美継にのしかかった。自分の夢を叶えることとどう重なっていくのだろうか。職人に製パンの仕事を任せて田舎へ帰ることにした。
まだ母も健在だったし、父も元気だった。両親に会って、相談してみたい気持ちもあったし、なかなか会えない自分の親不孝をわびる気持ちもあった。暫く振りの故郷はなつかしかった。少しも変わっていない山や、畑、見るものの一つ一つが昔を思い出させ、子供の頃に帰っていく。母は涙を流して喜んでくれた。父は相変わらず、小さな社を守り兄は父を手伝っていた。「美継、立派になったね。元気で何よりだ。身体の弱いお前のことだから病気がちではないかと心配していたよ。」母の言葉は身に沁みて心に刻まれた。
「ところで、今度は新しい仕事の話があるそうだけど、お前もこの機会にお嫁さんを貰ったらどうだい。とてもよい話があるんだよ。」突然の話であったが、美継には何の抵抗も無かった。母が進める話であれば喜んで受けるつもりであった。それは母が喜ぶことであり、母への親孝行になることになるのではないかと考えられたのだ。
遠い親戚筋からの話らしかったが、そんなことはあまり気にならず「お母さんに任せるよ。よろしく頼みます。今度はなかなか帰ることも出来なくなるかもしれないから」
そんな話があって、数日後に一人の女性が美継の前に現われた。
女性に関心がないわけではなかったが、普段は仕事や考えることの多い中で気にすることも無かった。自分の伴侶になるかもしれないと思いながら会うことになり、其処には今までの女性に対する思いと違ったものがあった。
そうだ、花に例えれば彼女はゆりの花だ。瞬間そう思った。その立ち姿のしなやかさほっそりとした身体、そして面長な表情に黒い眉毛、その様子は野に咲く白百合だ。
会った瞬間に美継の気持ちは決まっていた。彼女が帰った後、「お母さん、確かに良い人だよ。彼女をお嫁さんに決めたよ。よろしくお願いします。」
「そうかい。そりゃあ良かった。早速返事をしようね。」話はとんとん拍子で進んだ。
間もなく、簡素な披露宴が済まされ、二人はそのまま敦賀へ帰ることになった。
そして敦賀の教会で二人だけの結婚式を済ませたのである。美継の考えも決まった。
山内氏に承諾の返事をすると同時に、岡山の工場を訪問。これからの計画について話を進める。

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