波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

泡粒の行方   第46回

2016-02-11 11:54:18 | Weblog
T社の取引を獲得したことで信用と自信が出来て当社の営業も力を得たが、それだけでは終わらなかった。親会社の力を借りなくても自社での営業力でユーザーを獲得することを目指した。
欽二は自信をつけて月産100トン以上の生産をしている中堅のユーザーに目標を定めた。工場は千葉にあり東京からは射程距離でもある。ある日、部下の浅野を連れて出かけた。交渉の相手は工場の資材を担当している管理職である。毎日のように色々な業者がくるのを裁いているベテランでもある。欽二は少し調子に乗っていたかもしれない、既に先発の業者が原料を売り込んでいて(2社購買)後発の当社の出る幕はなかった。しかし欽二はそんなことは無視して「今、当社の原料をお買いにならなければお宅の会社は損をしますよ。」と言い放ったのである。
これは資材課長の逆鱗に触れてしまった。急に黙ったかと思っていたら「もうお話しすることはないのでお帰りください。」と言われてしまったのである。其のときまで相手の顔色が変わりつつあるのも気がつかず、調子に乗って離していたが、さすがに帰れと言われて進退窮まったのである。部下の浅野が何とかその場を取り持って帰らずにすんだが、其のときほど冷や汗をかいた
ことはなかった。しかしそれからあきらめずに売り込み訪問を続けた。資材担当者が機嫌の良いときは遊びの話などで相手をしてくれる。ある時麻雀の誘いを受けた。
定時後に麻雀を工場長を中心に行うのでメンバーに入れてやると言うのである。欽二は喜んで参加することにした。先輩から営業はお客さんから何かで誘われることがある。其のときのために
「酒、歌、ゴルフ、麻雀、囲碁」の心得ぐらいはできるようにしておけと言われていたが、
其のチャンスを生かすことが出来る機会が出来たのだった。これで先日の失敗を取り戻すとともに原料の売込みを図りたいと夢中であった。
其の日は夏の暑い日で工場の幹部による避暑を兼ねた「納涼」が計画されていて、ビヤガーデンへ連れて行かれた。酒だけは自信がなかったがなんとしてもチャンスを逃してはいけないと
乗り込んだのである。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿