波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

個室    第4回

2016-04-23 10:48:27 | Weblog
まだ就職して10年も過ぎていない。まして結婚して初めて子供出来たばかりである。そんな時仕事ができなくなると言われても、戸惑うばかりでどうしょうもない。と言って仲人であり、世話になってきた上司に文句を言うわけにも行かない。一夫は生来人にいやなことや愚痴を言う性格でもなかった。ただ黙って聞いているしかなかった。そんな一夫に上司の部長でもあるうち内田は優しく声をかけた。「私にも責任がある。東京、大阪と私の指示で仕事をして所帯まで持たせてこのまま放り出すようなことはしないつもりだ。少し時間がかかるが私にも考えがあるので少し時間を貸してくれ。そして連絡するまで待っててほしい。」と言った。
しばらくは家で好きな釣りをしたり小さな畑を生まれたばかりの赤ん坊を抱いた時子と一緒に過ごしていた。時子はそんなときでも無邪気だった。「大阪じゃあこんなことが出来なかったから
楽しいわ。あんたも一緒やし娘も生まれたし、幸せやわ」と楽しそうだ。
一夫は内心不安もあったが、内田の言葉を信じて待つことにした。そんな時間の中で内田は悩んでいた。一夫にはああ言わざるを得なかった。勿論自分も仕事を失うことは同じであったが、自分のことはともかくなんとしても若い彼には仕事見つけてやらなければならない、と言って田舎では条件の良い仕事が簡単に見つかるわけもなく、友人、知人を含めてそれとなく声をかけながら仕事を探していた。
当時在社していたときに「同業者会議」と言うものがあってメーカーが5社ばかり毎月一回会合を開いていた。目的は親睦であり、あまり市場でのトラブルを起こすようなことは良識を持って起こさないように情報交換をする場であった。つまり客先をあまり取り合っ足りしないようにすることが大事であった。
内田は同業者の仲で話の合う男を一人思い出していた。岡山に本社があって東京営業所の責任者でもあるが、あまり会社の決まりにこだわらないで自由に仕事をしていて話がしやすかった印象である。
ふと彼のことを思い出し、「一度会ってみよう」と思った。特別な計算はなかった。
「近所まで来たんで寄ってみたんだ」内田はアポもなく突然其の事務所を訪ねた。

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