波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

     白百合を愛した男    第57回

2011-01-07 13:43:34 | Weblog
各社が競って販売に力を入れる。そこには目に見えない競争があった。A社に納入したいとなると、人間関係を利した動きが必ず伴った。そのためには手段は無い。従って其処には何らかの力関係が影響することは避けられないのだが、そのために製品自体には遜色なくても負けることがある。価格は当然駆け引きに利用され、下げたから必ず取れると言うものでもなかった。むしろその数字だけを使われて注文につながらないこともある。
営業マンの悲哀がここに描かれる。ある時は酒の席であり、マージャンの席であったり、
女を交えた歌の席であったりする。そのほか、ゴルフ、囲碁なんでもありの世界であった。幸い時代の流れが良く、高度成長時代に入っていたために、各社が増産増産に拍車をかけていた。そしてその流れは日本だけにとどまらず、海外へと伸びたのである。
「今度、A社はタイへ工場を移すらしい。B社はマレーシア、C社は台湾らしい。稼動が盛んになると、当然ながら人手が不足する。それを補おうとすると人件費がかさむ。
海外への進出は溢れ出た洪水のように勢いよく、とどまることは無かった。
岡山では社長が号令をかけていた。「専務、至急、東京、大阪の所長に本社へ集まるように連絡して欲しい。」親会社での勤務時代に経験した海外での仕事が、彼の情熱に火をつけたようである。「いよいよこれからは舞台は日本から海外に移る。自分達も乗り遅れないように海外工場を検討するときが来た。専務、下準備として調査を開始して欲しい。」
そして、数日後、営業製造を含めた管理職全員による会議が持たれた。
「まず、営業の一線にいる各所長に意見から聞くことにしょう。」その表情には固い決意が見られたが、具体的な発言は無い。東京の営業からはかなり具体的な発表が出た
「日本の市場は各社とも完全に飽和状態になりました。これ以上の稼動余力は出ません。現在、主たる用途とされるモーター用は世界の需要の60㌫を占めており、そのためには
日本だけでは到底賄いきれません。従って海外、主にアジア中心に拡大していくでしょう。台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、中国がその対象になると思います。
当社も現在の販売量は月産1300トン平均ですが、近い将来2000トンが見込まれます。」かなり大胆な数字の発表に、一同から低いどよめきが聞こえた。
社長もそれを聞くと、興奮したように口を挟んだ。「2000トンか。もしそれが実現するとなれば、とても日本だけでは無理だ。(製造能力は第一工場、第二工場を合わせても
1500トンが限界だった。)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿