波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

コンドルは飛んだ  第4回

2012-06-22 12:14:00 | Weblog
一夫は中学へ入学してから持ち前の集中力と執着心もあって学業に集中していった。その結果、最初は成績も特別な結果ではなかったが、卒業時には学年でも一、二を争う上位に位置してかなり目立った存在になっていた。
程なく大学へ行くと何時の間にか法律にのめりこみ、司法を中心に学び始めていた。そして父の紹介で弁護士事務所のアルバイトをしながら司法書士の資格を目指していた。辰夫も兄に習って大学へと進んだが勉強にそれほどの執着はなかった。
しかしそれだからといって決して遊んで怠けていたわけではない。むしろおおらかに学問を楽しんでいる風情であった。そして
特に外国語には強い関心を持つようになっていた。
戦後の日本の復興はすさまじく二人が成長期にある頃は海外からの文化がどんどん入っていて男女共にその真新しさと未知の世界への関心が強く、何でも飛びついて吸収していた。大学のサークルも様々なものが取り入れられ、それぞれに勧誘が盛んであったが、辰夫はそのどれにもあまり興味を示さなかったのだが、唯一つだけ興味を持ったのが、スペイン語クラブだった。
勿論学内でもマイナーな小さい集まりであり、集会室もなく教室の片隅に椅子を並べているだけの数名がたむろする侘しさだった。その中心に外人(チリー人)がアルバイトらしい指導者としてたどたどしい日本語を操りながらしゃべっているところへ通りかかりそれを耳にして覗いたのがきっかけとなった。
始めは何をしゃべっているのか、全く何も分からなかったが、ただ何となく耳障りの良い心地よさに居心地が良かったのと
その中にいた一人の女性に何となく惹かれるものを感じていたからであった。
特別目立った女性であったわけではない。男性から見ればむしろ敬遠したかも知れない地味で小柄なお化粧も殆どしていないような人だった。辰夫は何故かその女性に関心持ったのである。自己紹介のときにお互いに名乗り、話をするようになったが
特別な感情があったからではない。河野久子と言う女性との出会いであった。
彼女の家は東京ではなかった。上野からローカル線で一時間ぐらいかかるらしい。授業後のクラブの時間をすごした後、自然に一緒に帰るようになっていた。辰夫は谷中なので上野までは同じ帰り道だった。
ある日のこと、無口な辰夫が別れ際に「何処まで帰るの」と久子に聞いた。「牛久よ」東京以外にあまり出掛けたことのない辰夫はその駅名を聞いてもピンとこない。「牛久ってどこ」と聞き返していた。

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