波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

泡沫の行方     第52回

2016-03-18 11:12:39 | Weblog
中学を卒業して集団就職で上京し、親もいないさびしい雰囲気を漂わせていたが世話になった
電気屋さんをやめて私のところへ相談に来て結局良い就職先もなく私と一緒に仕事をすることになった若者だったが、仕事は研修だけだったが物覚えが良く、物静かで落ち着いていた。
真面目さで信用され客先の評判も良く、とても役に立っていた。
同じ秋田から出てきた同郷の若者と「歌の会」などで慰めあっていたが、其の一人の女のこと仲良くなっていた。その女の子の影響もあったのか、ある宗教団体へ入会したと言う。
「これからは仕事上でもうそをつくことはできません。賭け事酒席にも付き合うことも出来ません。私のできる範囲で仕事をします。」と宣言した。それまで私とともに夜の客先の接待には
どんなに遅くなっても付き合って私の代理のようなアシストをしてくれていた彼が人が川多様に私の前で言ったのである。私も「分かった。」とは言ったものの、このままでよいのか、どうか
一人で悩んでいた。勿論私も信仰者であり、親も信仰者であったが、仕事と言う大儀名分を盾
に神の前にそんなことを誓ったことも忘れたかのように自由に振舞っていた。
彼に宣言されたときに自分自身もそうであることを考えないでもなかったが、私には仕事を犠牲にして行動することは出来なかった。
彼の言葉には固い決意が見られ「仕事ではそんな固いことを言ってては出来ないよ」といったものの「もしそれでだめなら会社を辞めさせてもらいます。」と頑として譲らなかった。
仕方なく本社へ報告すると同時に指示を仰ぐことにした。「君に任せるが、そんなに硬いことを言うようじゃあお客さんにも何かと影響も出るかもしれないね。仕方がないから辞めてもらっても良いよ」と言うことだった。
私は悪いことをするのではなくむしろ真面目に世の中を生きようとするこの若者を出来れば
おいておきたかったが、何かと支障が出ても責任を取ることも出来ないし、何が起こるかということも予測できず」(実際には何も変わらなかったかもしれないが)私自身が堕落した考えの中にあったこともあり、「残念だけど辞めてもらう」ことを言い渡すしかなかった。