波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ   第36回

2015-02-16 15:34:47 | Weblog
「お話していてとても楽しいんです」遠慮がちに話始めた。最初の出会いは仕事帰りに偶然一緒になって話しかけられ、誘われて食事を一緒にしたことがきっかけだった。
誰に対しても積極的になれない自分に声をかけてくれたことが嬉しかった。地方から音楽の勉強がしたくて東京へ出てきたが、とても住みにくく大宮へと居を移し仕事を探しバイトでピアノを弾くことになった。生活は楽ではなかったが、あまり緊張しなくて暮らせるのが良かった。「相手の男の人はどんな人なの」「田中さんという人で子の市内の中学校の先生をしているかただと聞いています。毎週のコーラス練習で着ていたそうですけど
私のピアノを聴いていて一度ゆっくり話がしたくなったとおっしゃっていました。」
「でもあの年では独身ではないでしょうね。」春子は無遠慮に言うと「エー奥さんも役所のお仕事をしておられるそうですけど、お子さんがいなくて淋しいんだとか」
お互いに仕事を持ってすれ違いの共稼ぎらしいが夫婦の会話はあまり無いようである。
「それであなたが目をつけられたわけね。」「そんなことは無いと思いますけど、とてもやさしく私の話を良く聞いてくれるので、色々相談に乗ってもらって助かります。」
奥さんのことはあまり気にならないようである。
これで大筋の二人の関係は分かった。特別店の仕事には影響が出ることもなさそうで春子は安心した。後は二人の大人の話である。二人が何をしようと関係ないし口を挟むこともなさそうだ。
田中には子供いないことが妻に対して不満であったがその責任がどちらにあるかも分からず過ごしていた。ある日二人は珍しく同じ休みが取れて家にいた。
「ちょっと話があるんだけど」と突然話し始めた。田中は珍しいことだと思いながら旅行にでも行きたいというのかと考えていると「今の仕事を止めたいと思っているの。そして親が元気なうちに実家へ帰ろうと思っているのよ」「それじゃあ、お前、俺と別れるということか」「あなたが承知してくれるならそれでもいいと思っているわ。だって、あな田は良い人が出来たみたいだし。私はいなくてもいいでしょ」
まさかと思っていたが、知っていたとはうかつだったと思ったが、ここで言い訳するほど若くは無かった。黙って聞くしかない。「大分前から急にあなたの行動が変わったので
おかしいと思っていたけどやっぱり好きな人が出来たのね。私もこの年であなたと争う気は無いの。好きな人が出来手も仕方ないと思っているわ。でも?