波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   パンドラ事務所   第八話  その5

2014-05-16 10:03:43 | Weblog
婆さんは話しながらお茶を飲み、のどの具合が悪いのか薬を飲みながら何かぶつぶつ言っている。「ほんとにしゃやけるよ」と。新潟弁らしいが意味がよく分からないが、悔しいとか、腹が立つとかそんな事だろうか。「大体の話は分かりました。これから私が話すことが正しいかどうかわかりませんが、私の考えを説明しましょう。議員の先生があなたのことを信頼して頼りにしていることは間違いないことでしょう。また、病気になった婆さんの事も良く知っているのでしょう。そしてその時電話で頼まれたことについても真剣に受け止めて救急車の手配、病院への手配、懇意にしている医者への口添えをしてくれたことも本当でしょう。
そしてそれがあなたへの批判のような悪口に変わったのはあなたへの直接の言葉ではなく、病人の家族の態度にあったのだと思いますよ。退院したことも知らされず、ましてそれだけ世話になりながら何の挨拶もないという事は普通では考えられないでしょう。本当に急病の病人を抱えて困っていた時に助けてもらったわけだから、退院して落ち着いたら家族からお礼の挨拶があっても良いと思っていたと思いますよ。それをあなたに退院の話を聞くまで知らなかったんだから、先生も「あーそうだったの」だけでは済まされない気持ちだったんじゃないですか。
議員の先生ともなれば自分のプライドもあるし、病院や口をきいたところへの挨拶もあることでしょうし、彼としては大人の常識として考えていたことでしょう。そのことについてお礼のあいさつもないことに切れて我慢が出来なくなって、そのとばっちりがあなたへの言葉となったんじゃないでしょうかね。」
青山の話を黙って聞いていた婆さんは分かったのか、分からないのか、まだ納得しているようではなかった。「寿司屋でご馳走になったまでは良かったんだけど、その後急に立ち上がって
真剣な顔つきで婆さん言いたいことがあるんだけど、言ってもいいかって言うから、あー良いよ。何でも言いなさいって言ったら、この婆あって言い出してね。私は何でこんなことを言われ
なければいけないのかと腹が立つやら、情けなくてね。」と又、振出しに戻って同じ愚痴を聞くことになってしまった。
青山はこれは一度間をおいてすこし時間を稼がななくてはどうにもならないと、話を変えることにした。
「その時お寿司屋さんで何を食べたの。」「私は茶碗蒸しが好きでね。その時、二杯もたべたよ」と屈託ない。