波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

パンドラ事務所    第七話   その4

2014-04-11 09:49:39 | Weblog
青山は指示されたホテルまで時間通りに出かけたが気持ちはどんよりと重かった。彼女は静かに待ち合わせのロビーのいすに静かに座っていた。「こんにちわ」と声をかけると「暫くでした。お変わりありませんか。今日はどうもご迷惑かけます」と何気ない様子である。ほっとしながら
ホテルの和食の店へ案内して食事をすることにした。食事中はあまり口も利かず、子供や孫の近況を聞いた程度で済ませた。このまま何事もなく帰ることが出来たら、それなりに気楽で楽しい時間で帰れるのだがと思いつつ「それじゃあ、お茶でもしながらゆっくりお話ししましょうか」とテイールームへと向かった。
「お二人で何かお話が出来ましたか」と率直にいきなりぶつけてみた。急であったのか、直ぐに返事がない。やっぱりこじれて話が出来ていないのかと青山はもう一度構えなおして考えなければいけないかと思い始めていたところ、彼女から意外な言葉が返ってきた。
「今日はわざわざお忙しいところお時間をありがとうございました。青山さんには余計なことで心配をかけてしまいましたが、お蔭で二人で冷静に話をすることが出来ました。そして結局母を田舎から連れてきて三人で暮らすことにしたのです。主人も元来優しい人で悪い人ではないことは分かっていたのですが、お酒が入ると自分を見失うことがあり、以前の事も後悔していました。乱暴をするわけでもなく、年も取った事ですからおとなしく暮らしたいと申しております。
孫もできて娘夫婦も時々来てくれるので、それを楽しみにしています。」
「そうですか。それは良かった」青山は心底ほっとすることが出来た。
人間生きている限り何かしら「思い煩う」ことが起きている。そしてその為に自分が苦しむと同時に周りの人までも巻き込んでしまう。そして自分でため息をつき、自分勝手にああでもない、こうでもないと考えて右往左往することになる。
そんな時は良い考えも知恵も働かず波風を立てるだけになる。聖書には船に乗っていた弟子たちが突然の嵐にうろたえてどうすることもできなくなり助けを神の求めた時、「静まれ」の声に
波が収まり助けられたとある。
この家庭もこうして家族ともどもに平安を取り戻すことが出来た。これからもまた問題に直面することもあるだろう。しかし今回のように落ち着いて問題を語り合うことで「静まる」ことが出来れば平安を保つことが出来るだろうと青山は確信することが出来た。