波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

パンドラ事務所 第三話  その3

2013-09-12 13:33:32 | Weblog
彼の死の知らせを受けた時から青山は疑問を持っていた。事は勤務中のことであり、仕事中である。デスクの上にはパソコンが開かれていて書類(資料)が置かれそばには筆記用具もおかれていたことだろう。時間は正確にには不明だが、おそらく午後の早目の時で昼食後間もないころだろうか。そしてその儘彼の姿を見たものはなく、その日は過ぎたのである。つまりその部屋の人たちは外出していた人も中で仕事をしていた人も定時または残業を終えてそのまま帰宅したことだろうと思われる。彼の机の上はそのまま誰もその状態であることに関心も持たず、奇妙さも不思議さも持たなかったのだろう。
(中には一人ぐらいおかしいと思った人がいたかもし得ないが、そのことで行動した者はいなかったらしい。)
「死因は分かったのです」「警察医の話ではくも膜下出血とのことでした。詳しいことそれ以上話してくれませんでしたが、発見が早く緊急の手当てが出来れば後遺症は残ったとしても命は助かったかもしれないと思うと悔しくてたまりません。」と涙を流している。
「そうでしたか、それは残念でした。それにしても驚きましたね。信じられないくらいのことで、誰か気が付いた人がいても良かった気がしますね。会社からは何か説明がありましたか。」「特別話はありません。葬儀の時にお世話になり参列していただいただけです。」その後、家族と親戚の者が集まって話をしたときに、会社のほうへ仕事中のことでもあるし、労災事故として取り扱っていただけないか聞いてみたらと言う意見もありましたが、先方から言われないでこちらからの話となると裁判に持ち込まれて結局は力関係で負けることになり、時間と経費だけが無駄になることになるのが落ちだからやめましょうとなりました。」そうかもしれない。世の中のことは正義とか、道義とか言っても、
いざとなれば法律でしばられて、力関係で終わってしまう。人情とかと言うものはあっても別のところで泣き寝入りになってしまうことが多いことは分かっていた。
「それで今回のお話へどんなことでしょうか。」「もう終わってしまったことなので、いまさらどうのこうのと言うことはないのです。ただ、その時の様子が少しでもわかれば、聞きたいという思いがあって、その時にいた人から話が聞ければ知りたいと思っているのです。」そうか、そういうことか。妻とすれば死んだ夫のことが忘れられずにいることも
その時のことを知りたいのも人情であろう。
青山は話を聞きながら自分も同じ思いになっていくのを感じていた。