波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  コンドルは飛んだ  第16回

2012-09-14 09:40:18 | Weblog
ボリビアと言う国名を聞いたとき、確かにそんな国の名前を学生時代に聞いたことがあることを思い出したが、どんな国かは
イメージが何も浮かんでこなかった。休日や仕事の合間を縫って調べていくうちに少しづついろいろなことが分かってきた。
そして分かるほどに、何となく不安や心配が募ってきた。何しろ国全体が高度三千メートルの所にあり、仕事をする採掘現場の山は四千メートルを越すとあっては、日本の富士山を越えている高さである。唯一の国際空港であるラパス空港には常時
酸素ボンベが置いてあり、降りてきた客に備えてある。気温も寒暖の差が激しく春夏秋冬が一日のうちに起き、日中は30度を越す暑さになるかと思えば、夜になるとマイナス温度になることもあると言う。こんな環境の中で果たして日本のときのような健康を維持しながら、仕事を続けていくことが出来るのか。?
併し辰夫には人には無い強い信念と胆力が備わっていた。(取締役は岡本のそんな人物像を何時からか調査済みだったらしい。)「今度、本社の総務から海外勤務の内示を受けたよ」と久子に話した。長女が生まれてちょうど三歳になっていた。
女の子らしくおしゃべりをするようになって可愛い盛りであった。そして二番目の子を宿して少しお腹が膨らみかけていた。
そんな姿を見ながら辰夫はあまり心配をかけないようにと気を使っていた。
「そう、大変ね。海外って何処なの?」「うん、南米のボリビアだ」「そうなの、遠いのね」考えてみると、日本の真裏になる位置だ。羽田から飛んでアメリカのマイアミへ飛び、其処から乗り換えてラパスまで行き、現地へ着くまでに、23時間ぐらいは優にかかる。久子はボリビアを何処まで知っているのか、いつものようにあまり驚く様子もなく、仕事柄都市であるとは思っていなかったらしく、それ以上詳しく聞くこともなかった。
数日後岡本は再度取締りと会い、正式に内示を受けることを承諾した。それは彼の人生を大きく変換させる出来事でもあった。
しかし辰夫には其処に何の逡巡もなかった。「男は行動半径が大きいほど楽しいものだ」そんな先輩からの言葉を思い出していた。出発の日までの時間は長いようで短かった。中でもスペイン語の学習は必須だった。何はともあれ少しでも言葉を覚えておかなければ何も出来ないことを覚悟して、必死で取り掛かった。便利な機器があるわけもなく全て独学である。
しかし辰夫の良さはここでも発揮されていた。