波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男   第86回

2011-04-18 11:38:42 | Weblog
「魔が差す」と言う言葉があったことを思い出した。全くあまり理由が無いのに、自分が何をして、何が悪いことかと言うこともなく、行動していることがある。人間が如何に弱く脆いものであるかを今回のことで思い知らされていた。親会社への呼び出しも少し変わりあまり行くこともなくなり、従来の仕事に専念することが出来るようになって来た。
そんなある日、のんびり会社でモーニングコーヒーを楽しんでいると「シンガポールから電話ですよ」と言われた。一時間の時差なのであまり違和感を感じないで済むのが良い。「みんな変わりありませんか。」と世間話の調子でいると、受話器の向こうからいらいらした声で「此処のところ注文がばったりなんだ、何か日本であったのか、何が原因なのか、何か聞いているか」突然の質問で眠気がいっぺんに覚めた感じになる。「どうしたんですか。こちらではあまり変化は無く順調ですけど」と言うと「今までシンガポールの原料を使ってくれていた台湾や、中国のお客さんから注文が入らなくなった」と言うのだ。
詳しいことは分らないが、中国で同じような原料が安く出来るようになったらしく、日本の高い品物でなくても良いと言うことらしい。まさかと思っていた現象が始まったらしく電話の声は落ち着かなかった。「分りました。早速事情調査と対策について検討して連絡します。暫く時間を下さい。」電話を切手からも何かまだ現実のこととは思えず、信じられない気持ちでいたが、まず、本社へ報告を入れた。こうなると情報は地方や海外に頼るわけには行かない。やはり東京がすべての中心であったし、一番速く事実を掴むことができるところであった。「そういえば、これから先のシュミレーションの話が出ていたな。
のんびり安心していたが、新しい変化がもう既に始まっているのかもしれない。」
数日後、親会社の関係スタッフが集まり、情報交換と検討会が開かれた。
結論としては現地調査をすることとなり、「中国現地調査ミッション」が結成され、
チームを二組に分け、出発することになった。そのチームの一員として中国へ行くことになり、北京へ向かった。ここで原料酸化鉄のメーカー調査とマグネット工場を中心としてメーカー調査と別れる。営業は主に工場訪問と実態について調査することとなり、大連、上海、広州と行くことになる。北京の日航ホテルは立派な日本人向けの設備が整っているが、其処で働いている従業員の中国人は一様に表情が固く、全く愛想も無ければ話もしない。用件のみの対応で(それでよいのだが)あまりの違いに戸惑うこともあった。