波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男     第44回

2010-11-22 10:32:12 | Weblog
工場のある地方は岡山県でもかなり北にあたる田舎である。前には岡山の三大河川の一つである吉井川が流れている。この川は魚が豊富で何でもつれたり、取れたりして子供たちや大人も楽しめるものだが、特に稚魚を放流して育ててとる、「鮎」は豊富であり、有名である。その時期になると周辺の料理屋ではこれを様々な料理として「鮎尽くし」として
観光客にもてなすのが慣わしになっている。そのほか、「うなぎ」も楽しみの一つで「もじ」と言われる道具で簡単に取れていた。周辺の山はあまり目立ったものは無い。岡山といわれるように丘に近いような低い山が連なっている。
南部の方へ行くとぶどう、桃と豊富な産物が取れるが、北のほうでは気候もかなり違い、
取れるものが少ない。そんな中で、赤松の山があちこちにあり、その年の気温、雨、などの気候条件によっては「まつたけ」がかなり取れることがある。しかし、この山の持ち主は特定の人のものであり、その恩恵にあずかるには、かなりの手順と資金が必要になってくる。それはこの取得権利を入札で入手するからである。毎年この時期になると、限られた山を何人かの希望者によって入札が行われ、その権利を得ることになる。
その年、地元のある名士がその権利を入手した。そして地元の関係者を招待して振舞うのが慣わしであった。美継はその招待には入っていなかったのだが、社長と、孫の専務の二人がその席に招待されていた。山では赤々と火がたかれ、マツタケが山に詰まれて宴会が始まっていた。やがて宴も終わりに近づき、三々五々とお開きになった。
現地から自宅まではそんなに遠くないとあって。社長と専務は少しほろ酔いながら車で帰ることにした。程なく自宅の前まで着くところまで来た時、その玄関前の電柱に車は激突した。二人は意識不明になり、通行人によって助け出された。
しかし、その結果、社長は即死、専務は意識不明の重傷であった。家の前での安心から来る酩酊運転の交通事故であった。
しかし、ことは隠密のうちに処理が行われ、最低限の記事のうちに事は処理されて進んでいった。しかし、会社としては当に青天の霹靂であり、これから先をどうするか、全くの予測も付かない状態に陥ったのである。
翌日、その知らせを受け、美継は神の前に祈りを捧げると同時に、「好事魔多し」の
言葉を噛みしめ人生のはかなさを知るところとなったのである。